2002年1月号(通巻154号)
ホーム > レポート > 世界の移動・パーソナル通信T&S >
世界の移動・パーソナル通信T&S

P2P技術JXTAが携帯電話に拡張
−携帯電話とP2Pの現状−

 米サン・マイクロシステムズは2001年12月13日、オープンソースで開発を進めているP2Pプロトコル技術「JXTA」(ジャクスタ)をJ2MEに対応させる事を発表した。これにより、携帯電話やPDAなどの小型端末でのP2P型通信実現に向けて大きく前進した事になる。本稿では次世代インターネットの標準との呼び声も高いP2Pの動向と携帯電話との関連について述べる。

 P2PとはPeer-to-Peerの略であり、その意味には様々な定義があるが、簡単に言うと、コンピュータ同士が対等な立場で直接データを交換する、コンピューター・システムの一つの形態である。これまでのコンピューター通信は、コンピューター単体のスペックが低い事もあり、ハイ・スペックのサーバで集中的に計算処理や通信を行う、いわゆるクライアント・サーバ(以下C/S)型が主流となっている。しかしブロードバンドの登場などにより、送受信されるコンテンツは大容量かつ複雑な処理が必要されはじめており、サーバや通信の容量への要求は過大になりつつある。よってネット・ビジネスを展開する企業にとっては、サーバの増設などの費用負担が大きく、収益性のあるビジネス・モデルが描けない状況にある。一方ユーザー側から見ても、インターネットはモバイルにまで拡大するなど、WWW空間には無数のコンテンツが存在し、自分の本当に欲しい情報にたどり着くのはもはや至難の技となってきた。そのような中で、リアルタイムな情報検索、により個人同士が直接マッチングされ、個人間での情報交換、処理を可能とするP2Pは次世代インターネットの中核を担う一つとして注目されはじめている。

 インターネット先進国の米国でも、P2Pはまだまだ黎明期であるが、最近P2P型のソフトやサービスが活発に開発、提供されはじめている。著作権がクリアーにならず社会問題化した音楽ファイル個人間交換サービスのナップスター(Napster)をはじめ、サーバを利用せず個人端末同士で簡易に利用可能なP2P型グループウェア、情報検索系ソフトなど多彩なP2Pソフトが続々と登場し、人気を集めている。これらはユーザーから見れば、一見今までのファイル転送やグループウェアなどと変わりはない。しかし実際は、よりリアルタイムかつパーソナルな情報の発信、検索、共有が可能である点で既存C/S型サービスと質的、ボリューム的な違いがある。ナップスターによる個人情報交換サービスの爆発的普及、PIMサービス群の興隆、e−groupsやインスタント・メッセンジャーなどの個人コミュニティーおよびコラボレーション環境に対するユーザー人気の高さは、まさにP2P型の通信が次代のトレンドとなることを指し示しているといえよう。

情報流通経路の変革

 しかしこれら現在のP2P型ソフトは、独自のプロトコルを利用しているため、各々のソフト毎に独立したP2Pネットワーク空間を形成しつつあるため、様々なP2Pのメリットを利用するためにはそれぞれ独立したソフトを利用する必要がある。そこで、これら有用なソフトやサービスを統合するP2Pの共通基盤を求める声が高まっていた。これに答えるP2Pの基盤となるのが、サンのJXTAなのである。

 2001年4月25日、米国サンはJXTAのプロトタイプの仕様とソース・コードを公開した。機能は極めてシンプルであり、インターネットに接続するコンピュータ間でグループを作成できる機能、およびパイプと呼ぶ通信路を用いて互いに情報を交換できるようにする機能だけを提供する。これに、コンピュータの状態やサービスの状態をモニタリングする仕組み、およびセキュリティ機能を付加している。これらを総称してコアと読んでおり、まさにJXTAの基本機能を提供する。

 JXTAのコアは各種のデバイス上で動作し、そのコアの上位にサービス・レイヤーがあり、検索やインデックス作成などの基本的な機能が提供されている。さらにその上位に、それらサービスを利用するアプリケーションが置かれることになる。こういったP2Pソフトに必要な基本機能のみをフリーで提供する事で、異なるP2Pアプリケーション間でコンピュータのリソースを共有したり、情報を交換するなど相互接続が可能となる。

 サンはこの度このJXTAを携帯電話やPDAなどの携帯端末にまで拡大することを明らかにした。つまりサンが小型端末用のプラットフォームとして提供しているJava 2 Micro Edition(J2ME)を新たにサポートすることを発表したのである。これが実現すれば、J2MEを搭載した携帯電話は、JXTAを用いたP2Pネットワークに参加しているほかの携帯電話や、一般のPC、果ては家電にいたるあらゆるデバイス上の情報やソフトを利用することが可能となるのである。JXTAはまさにユビキタス・ネットワークというものに真のバリューを生み出すベースとなるのである。

JXTAのアーキテクチャ

 例えば携帯電話でP2P技術を利用できれば、P2Pを用いた検索ではこれまでのC/S型のようなサーバに蓄積された情報検索だけでなく、個人のローカルに存在するデータまでも検索可能となるので、個人の携帯電話上にのみ存在する電話番号情報なども検索対象にできる。よって携帯電話上のデータやアプリケーションをあらゆる状況から引っ張り出して活用する、といったことも可能になるのである。また、JXTAのピア・グループ機能を利用すれば、携帯電話の所有者を任意の基準でグループ分けし、メッセージを送ることもできるため、あらかじめ相手を特定しなくても動的に対象を検出して通信できる。つまり、これまでの通信のやり方とは異なる新しい形のコミュニケーションが始まる可能性がある。

 もちろんナップスターのような個人間のファイル交換も可能となる。ここに著作権管理の仕組みが整えば、まさに「超流通」といわれる新しい個人間流通チャネルが開ける事になる。特に日本では、携帯電話のファッション性が強く、着メロや壁紙などが個人間で流通する事はもちろんのこと、マーケティングの一つの大きな要素となりつつある「口コミ」がそのまま流通チャネル化することも可能となる。さらには携帯電話用ネットゲームも、P2P携帯電話により、サーバの負荷が大きく削減できるため、サーバ運営費を削減できるゲーム提供者の収益性は大きく改善する。実際、和製ナップスターとも言える「ケーターイdeミュージック」(三洋電機、日本コロンビア、日立、富士通など)は、個人間ファイル交換における著作権管理技術を開発し、積極的にP2P型通信の確立に向けて活動している。このように個人端末の情報やサーバ上の情報などをP2Pでうまく連携し合うことで、新しい流通経路が確立されようとしているのである(下図)。 このように、P2Pは個人のコンピュータ、携帯電話、サーバ、データベースなどがすべて連係しあった、新しい種類のサービスを生み出す可能性がある。この思想は、マイクロソフトなどが掲げるWebサービスの思想とかなり近似しており、まさに次世代インターネットの姿であるといえよう。ただし、次世代インターネットには、携帯電話など小型端末との連携も必須であることを考えれば、既に携帯電話のプラットフォームとしてJavaを搭載させているサンは、次世代インターネットの覇権争いに強みがあるといえよう。。実際日本国内でも2001年末にはJava対応携帯電話販売数が1000万台突破する勢いにあり、確実にこの領域はサンがおさえつつある。サンがJavaとの親和性も高いJXTAを携帯電話に一早く対応させたことは、今後の次世代インターネット勢力図にも影響を与えることは間違いない。

図表:ケータイdeミュージックが考える、
暗号化コンテンツを利用した合法的コンテンツ・コピー

ケータイdeミュージックが考える、暗号化コンテンツを利用した合法的コンテンツ・コピー

移動パーソナル通信研究グループ
リサーチャー 竹上 慶

▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。