2002年1月号(通巻154号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S

欧州の第3世代携帯電話の導入、主力は2003年以降に延期

現行システムの予期せざる増収、SMSが急増、収入の10%に

米国の有力経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、欧州の第3世代携帯電話(3G)の導入時期に関して「革命は早くとも2003年まで延期された。しかし、欧州の多くの携帯電話事業者は、そのことを夜眠れないほど心配している訳でもない。」と書いている。

(注)European Operators Push Back Launch of 3G Wireless Services:The Wall Street Journal interactive版,December 7,2001

 同紙によれば、欧州の多くの携帯電話事業者は、高度な無線データ・サービスが提供できる第3世代携帯電話システムUMTS)の導入を、早くても2002年の晩い時期まで延期した。そのため、UMTSの大量かつ本格的な展開は、当初の想定より少なくとも6ヶ月遅れ、2003年以降になるという。

 欧州における多くの携帯電話事業者は、UMTSの免許を取得するため数十億ユーロを支払ったが、その大部分は借金になった。そのため、回収が不確実な新ネットワーク建設の投資を先送りすることを、携帯電話事業者は今日ではむしろ歓迎している。しかも、シンプルな現在の携帯電話システムによるテキスト・メッセ−ジングや電子メールのような音声以外のサービスの収入が急増しており、事業者はこれらのサービスの推進に積極的で、その収入源を失うかもしれないUMTSの早期導入に躊躇している。

 同紙によれば、現在のGSM方式の携帯電話機を経由してテキスト・メッセージを送受するショート・メッセージング・サービス(SMS)は、欧州における大手携帯電話会社の総収入の10%を既に超えている。電子メールやワイヤレス・インターネット接続を含む各種のプレ3Gデータ・サービスは、2002年末には総収入の25%に達すると見られる。この9月には、全世界のGSMユーザーは約230億通のSMSメッセージを送信したが、12月には300億通に増加するだろう、とGSM協会(GSM携帯電話事業者および設備メーカーの世界的な組織)は予測している。「近い将来において、SMSの成長がスローダウンする兆候はない。」とSMSおよび移動データ・サービスを開発しているLogica社(英国、ソフトを含むITサービス会社)の幹部は語っている。

 このことは携帯電話事業者にとって朗報である。例えばオレンジUKは、2002年における収入の増加率を20%と見ているが、そのうちデータ収入の寄与は16.2ポイント(2001年は11.6ポイント)である。mmO2の英国子会社であるBTセルネットは2002年度(2002年4月から2003年3月)における収入の増加率を16.2%と予測しているが、データ・サービスの寄与を16.6ポイント(2001年度は10.7ポイント)と見ている。(前掲ウォール・ストリート・ジャーナル紙)

予期せざる増収で3Gへの投資意欲が減退

 現行システムによるこの予期せざる増収は、携帯電話会社が第3世代携帯電話(3G)によるマルチメディア・サービス(ビデオ・クリップや高速インターネット・アクセスなど)を早期に導入する意欲を減退させている。そのうえ債務の増加によって、多くの携帯電話会社はリストラと新技術・新サービス展開のための投資の削減を余儀なくされている。 

 mmO2はこれまで2002年秋としていた英国における3Gの商用サービス提供を、2003年上半期に遅らせることを表明(2001年12月4日)したが、同社のスポークスマンは、「われわれは3Gの導入を遅らせようとしているが、そのことは重大な問題ではない。3Gの導入の遅れは、わが社が2002年度におけるデータ・サービスの収入源を失うことを意味しない。」と強調している。

 このほか、オレンジ・フランスは2002年6月の3G導入予定を2003年に、SFR(フランス)は2002年3月の予定を2004年に、ボーダフォンはいくつかの欧州とアジア地域において2002年下半期としていた導入予定を2003年に、それぞれ先送りする意向である。(注)

(注)欧州における3Gの導入延期には、端末の開発にからむ問題も指摘されている。「欧州の携帯電話会社は、その高価なネットワークの展開(今後12〜18ヶ月)を終えた時に、対応する端末が用意さていないという可能性に直面するだろう。」(3G’s Latest Snafu:Hellacious Handsets ;BusinessWeek/November 26,2001)同誌によれば、3G端末は「世界中で最も複雑な消費者向け電子デバイス」である。

戦略の見直しを迫られる3G新規参入組

 3Gの導入の遅れは、ハッチソン3G(注1)のような3Gによって新規に市場参入を目指す事業者にとっては大きな問題である。これらの会社は、まだ顧客もサービスも存在しない一方で、新技術(3G)に対する巨額な投資を行なっているからだ。同社としては2002年のサービス開始予定を変更することはない、としている。しかし、同社はmmO2と現行システム(GSM)のネットワーク設備のリース契約を締結し、3Gの導入以前に全国的規模で携帯電話サービスの提供が可能となった。これにともない、同社が3Gの当初の導入予定(2002年9月)を変更するかどうかに関心が集まっている(注2)。

(注2)Hutchison 3G to lease network from BT unit,Financial Times Internet版 Dec 09 2001

 2G携帯電話ネットワークを保有する他の事業者にとっては、3G導入の遅れは経済的な苦境よりはPRの問題である。3Gは長期的な投資と見られており、技術的課題や携帯電話機の出荷問題などを解決するための6ヶ月程度の遅れには、余り問題なく対処できるだろう。事実、携帯電話事業者は既存の技術から利益を生み出す方法(SMSなどの新サービス)を見つけているのだから。

 SMSは基本的に最大160字以内の文字メッセージに限定されているが、2001年12月からGSMの顧客は、SMS技術を使って画像や音楽などのより複雑なサービスを携帯電話機相互で通信できる「スマート・メッセ−ジング・サービス」を利用できるようになった。

GPRSと3Gの微妙な関係

 前掲のウォール・ストリート・ジャーナル紙は、移動通信におけるデータ・サービスのもう一つの革新は、携帯電話機をインターネットに常時接続できるようにするGPRS技術によってもたらされるだろう、と書いている。この技術は、携帯電話機が利用者のポケットにある時でも電子メールの受信を可能にし、インターネットに接続する都度ダイヤル・アップをしないでウェブに接続できるようにする。GPRS技術はスロースタートだったが、ひとたびテイクオフすれば、広範なGPRS端末とサービスの利用が可能となると見られている。

 GPRSは、3Gよりはるかに少ない投資額で、携帯電話会社がすでに商業的に成功を証明しているアプリケーションを消費者に提供できる。屋根を突き抜けるような高い投資コストと現在の不確実な経済を考慮すると、携帯電話会社は3Gにもっと進化したアプローチを期待している、と同紙は書いている。

 GPRSには、ビデオやオーディオ・クリップを携帯電話機にダウンロードできる「マルチメディア・メッセ−ジング・サービス」(MMS)と呼ばれる新しいデータ・サービスの開始も期待されている。GPRSの最大伝送速度は64kbpsで、導入当初の3Gの速度とほぼ同じである。短期的には3GとGPRSには機能的な差異はほとんどない、とアナリスト達は見ている。

 オレンジが確信しているのはこの点である。オレンジが顧客に語るのは技術ではなく、提供できるサービスについてである。オレンジは、サッカー・フアンの携帯電話機にゲームのスコアを送信するなど、SMSサービスの推進に全力を傾注している。オレンジ(英国)は2002年の夏までに3Gネットワークの準備を完了させると表明している(しかし、2005年までは3G端末が広く普及することはないと信じている)一方で、その時期にGPRSサービスを実際に始めようとしている。オレンジのスポークスマンは、「顧客にとっては、どんな技術を使っているかは問題ではない。問題なのはサービスだ。」と語っている。

 いずれ3Gは導入されるのか。答えは明白なイエスである。携帯電話会社は、加入数とデータ利用の増加に対応するため、3Gの帯域が必要である。また、3G免許の入札にあたって、規制当局は3Gを展開する目標期日(国ごとに異なる)を定めている。例えば、英国では免許を保有する事業者は、2007年までに人口の80%が3Gを利用できるようにしなければならない。さらに、3Gに対する投資が巨額になると見込まれるため、携帯電話会社はずっと採算にのる技術開発を注視している。(前掲ウォール・ストリート・ジャーナル)。

(参考)デジタルの伝道師と称されるMITメディアラボのニコラス・ネグロポンテ氏は「ヨーロッパでは電話会社が3Gのライセンス獲得に膨大な代金を支払いました。にもかかわらず、その利用は一向に進まず、ITバブルが崩壊したのです。加えて802.11b(無線LAN)の出現(彼によればインターネットの登場以来、長距離通信の世界において最も重要な現象)で3Gライセンスの価値は暴落しています。(中略)現時点では携帯電話が最も優れたワイヤレス・システムですが、将来性は見込めないでしょう。」ビーイング・ワイヤレス(ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー,2001年12月号)

提携を進める携帯電話会社とメーカー

 3Gの導入の遅れを取り戻すため、業界は結束しようとしている。最近、多くの通信機器メーカーは、長い間秘密にしてきた各種規格のライセンスを他社に供与することに踏み切った。独自路線を歩むと 見られていた業界のリーダーであるノキアは、2001年11月12日に同社の保有する3Gソフトを他社にも供与する、と発表した。その2日後には、ノキアとNTTドコモのトップは、3Gのオープン・アーキテクチャーの開発で提携する計画があることを明らかにした。現時点でこれに対抗する有力な勢力は、モバイル・インターネット向けのウインドウズ・ソフト(ポケットPCなど)の開発を強力に進めているマイクロソフトである。

 この業界の多くの有力企業がオープン・グローバル・スタンダードを支持すれば、テストのための費用と時間の消耗を減らすことが可能になる。このことは、より早い技術の導入により広範な端末の提供に途を拓くだろう。それでも、欧州のアナリストは、2004年までに3Gが移動通信の主流になることはない(価格の面でも)、と見ている。その予測によると、2004年における3G端末の販売数は3,000万台で、世界の携帯電話端末の販売数に占める比率は僅か8%に過ぎない。

(注)前掲 BusinessWeek / November 26,2001

 3Gの熾烈な開発競争は別の成果をもたらすかもしれない、と前掲のビジネスウィーク誌は書いている。携帯端末メーカーが、速度、サイズ(ポケットに入る)、信頼性(低いエラー率とその制御)、(低い)電力消費などで高度な規格に合致する超小型コンピュータ(3G端末)の開発にうまく成功すれば、彼らは3G端末だけでなく、より広いコンピュータの世界でも有力な企業として位置付けられるだろう。ワイヤレス産業は、3Gの決戦に備えて早急な結束が必要だ、と同誌は強調している。

本間 雅雄
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