2002年7月号(通巻160号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:市場・企業>

IP携帯電話の事業計画が相次いで発表される

 固定電話の領域においては、ソフトバンクグループが今春「BBフォン(BB Phone)」のサービスを正式に開始し、フュージョン・コミュニケーションズが今夏からのIP加入電話のサービス開始を発表するなど、VoIP技術を利用した電話サービスが市場に浸透しつつある。BBフォンの場合、日本国内向けは一律で7.5円/3分、米国向けも7.5円/3分という国内最低水準の料金設定(BBフォン同士は無料)により注目を集めているが、携帯電話の領域にもVoIP技術を利用した、「IP携帯電話」が間もなく登場することとなる。2002年5月には、日本国内でIP携帯電話のサービス展開を目指す事業者の事業計画が相次いで明らかになっている。

 日本初のIP携帯電話事業者を目指しているのは元通信機器ベンチャーの鷹山である。同社は、東京通信ネットワーク(TTNet)からPHS事業(サービス・ブランド名:東京電話アステル)の譲渡を受けることを2002年4月に発表しているが、それに伴い入手することとなる、電柱などにアンテナを設置する権利(関東の約11万箇所)を活用し、初年度は高速無線LAN基地局(IP携帯電話にも利用)を、東京都内を中心に4,000箇所設置し、2002年秋にもIP携帯電話(サービス名:ビット・フォン)の提供を開始し、さらに、順次地域を拡大していくことを計画している。

 同社は、既存のPHS基地局とは別に、ビル、駅構内、街角等に新たに設置する基地局により料金格安のIP携帯電話を提供する計画であるが、IP携帯電話が利用できないエリアにおいても、料金は多少高くなるものの、同一の端末でPHSサービスの利用は可能となる。すなわち、利用者は既存のアステルのPHS端末を変更する必要なく、そのままIP携帯電話を利用することが可能となる。また同サービスは、アステルにIP携帯電話の申し込みをするだけで利用可能となる。

 さらに、同社が2003年発売予定の「マジックメール・ユニット」搭載のPHSを始めとする新機種を購入すると、32kbps(移動中)、2Mbps(街角)、8Mbps(屋内)の速度で通信が可能なインターネット・モバイル・フォンとなり、いわば「ポケットに入れて持ち運ぶADSLモデム」となる。さらに同社は、家庭用にはADSLモデムと無線LAN基地局が一体となった端末を提供し、ビットフォン利用者同士が家庭内から通話する場合は通話料を無料にする方向で検討している。

ビッド・フォンサービス

 一方、立体デジタルテレビ開発のベンチャー企業の3Dコム(スリーディーコム)も、 2003年3月にIP携帯電話(モバイルIPフォン)のサービスを全国で開始することを計画している。

 同社が計画しているサービスは、IP携帯電話の基地局機能に加え、VoIPを利用した料金格安のIP公衆電話端末、チケット発券機など、多くの機能を備える多機能情報ステーションとしての「3Dメディアステーション」をコンビニエンス・ストアやファストフード店舗、駅、空港などに数多く設置し、IP携帯電話サービスを提供するというものである。

 同社は、基本料金を月額3,000円とすることを既に発表しており、利用者はその料金を支払うことにより、モバイルIPフォン同士の電話はかけ放題となる。(一般固定電話および携帯電話にかける場合の通話料金は未発表)

 同社は、最終的な3Dメディアステーションの設置台数を3万箇所を予定しているが、そのオーナー制度を設けており、出資者を募っている。その仕組みは、250万円を出資して3Dメディアステーションのオーナーとなることにより、各利用者が支払う月3,000円の基本料金のうち1,000円分を各オーナーで均等配分するというものである。同社の試算によると、初年度に1,000万の加入者が集まった場合、それらの加入者が支払う1,000円分を3万台の基地局の各オーナーで均等に配分した場合、1オーナーあたり年間396万円の収入となるとのことであるが、初年度にいきなり1,000万の加入者を獲得するのは余りにも強気の見方と言えよう。また、3Dメディアステーションの耐用年数は5年とされており、各オーナーが5年のうちに投資金額を回収できない場合、ビジネスモデルとして成り立たなくなる。

 電気通信サービスのノウハウに乏しい鷹山および3Dコムがどの程度市場に食い込むことができるかは未知数であり、販売やマーケティングなどの面で課題が多いと言われているが、両社の試みが実現および成功するかどうかは別として、移動通信の領域にもIP電話の波が押し寄せつつあることは紛れも無い事実である。IP携帯電話を提供する事業者が市場に次々と参入することにより、携帯電話の通信料の価格破壊が引き起こされることは必至であり、既存の携帯電話事業者は手をこまねいている訳にはいくまい。今後の市場の成り行きを見守りたい。

3Dメディアステーション、スリーディーコムのサービス展開イメージ

移動パーソナル通信研究グループ
リサーチャー 木鋪 久靖

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