2002年8月号(通巻161号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:政策・規制>

英国の新通信法案で周波数の2次取引が近く実現

 2002年5月、英国政府は通信法の草案(Draft Communications Bill)を公表した。この法案は従来の通信および放送業界を統一規制機関OFCOMの規制下に置き、従来の規制枠組みを大幅に変更するものとなっている。その中でも新たに設立された周波数2次取引の制度は、3Gへ与える影響が大きく、業界から注目されている。ただし、3G周波数の取引が実現するのは2005年以降になる見込みである。

新通信法案の概要

 新通信法案による従来制度への変更要点は以下のとおりである。

  • 通信、メディア業界の規制機能をOFCOM(Office of Communications)という統一規制機関へ 移管する。新組織には、通信業界規制のオフテル、放送業界規制の独立テレビジョン委員会、放送 標準委員会、ラジオ庁、電波監理の電波庁の5機関が統合される。
  • 電子通信分野における欧州指令の国内法規化(枠組み、アクセス、ユニバーサル・サービス、一般認可の一連のEU新指令を組み込む)
  • 放送の規制制度の一新
  • メディア保有規制の改革
  • 周波数取引規制の権限をOFCOMに付与

 法案に対する意見聴取は8月2日まで、今10月から12月に国会審議を予定しており、2003年夏までの法案通過が期待されている。欧州指令の国内法規化は2003年7月を期限としているが、法案が大規模であるために、期限内の通過は不確実であるとの見方もある。期限内に成立しなかった場合には国内法規をSI(Statutory Instrument)によって暫定的に規定する。他方、データ保護指令は、現行規制の修正をSIに盛り込むことによって国内法規とする。また、インターネットのコンテンツ規制はOFCOMの管轄外である。

 政府は、EU指令に基づく変更点のうち英国通信業界にとって最も大きなものは、通信設備の運営を条件とした免許制度の廃止であり、これによって1984年通信法の相当部分が廃止もしくは修正されるとしている。一方、EU枠組みが規定するSMP規制などの規制の基本的仕組みは、既にオフテルによる有効競争レビューの定期的実施によって従来から整ってきているものである。

 なお、現行法は一部が廃止もしくは修正される一方、追加される新規条文を集大成したものが通信法となっており、通信法は現行法を全体的に置き換えるものではない。今回の法改正に伴って、1990年および1996年放送法、1967年海事および放送違反法(Maritime and Broadcasting Offences Act 1967)、1984年通信法、1949年、1967年、および1998年無線電信法がそれぞれ改正されている。

周波数取引制度の導入

 周波数取引は、周波数免許価格に市場価値を反映させることを認めた1998年無線電信法の論理的発展として、従来からその制度化が議論されてきているものである。最近では、DTIから依託を受けたM.ケイブ教授著の周波数監理に関するレポート(2002年3月発表)で導入が強く推薦されており、政府はまもなくこれに対する公式コメントを発表する予定である。欧州枠組み指令の9条は、各国が事業者間の周波数免許取引について規定する権限を認めていることから、欧州各国においても今後周波数取引導入の環境が整ったことになる。今回の英国通信法案は、これにならって周波数取引規制の権限をOFCOMに付与したものである。取引周波数帯域、具体的な取引手続きなど規則の詳細は今後OFCOMが作成することになるが、現在、具体的な規則に関して電波庁が2002年7月に諮問文書を公開、意見募集を行っているところである。

 周波数取引とは、周波数免許を免許に規定される権利および義務の一部もしくは全てを他の法人へ移転することである。現在英国でそのような移転は、周波数免許を保有する会社の株式買収などの例を含む、ごく限られたケースでしか可能でない。周波数免許の移転がほぼ不可能であるのは、どの欧州諸国でも事情は同じである。これに対して、英国では周波数の効率的な配分のためには、選択的に周波数取引を導入することが望ましいという考えが支配的になりつつある。また、取引にあたっては、技術や用途に関してある程度の柔軟性が認められるべきであるという点についてコンセンサスが見られる。電波庁は、どの程度まで柔軟性を認めるかについての意見は分かれているが、柔軟性を許容することにより市場が拡大するという潜在的なメリットを積極的に捉えたいと述べている。

 導入のタイミングについては、英国政府は諸規則の制定を待って、周波数取引制度を2004年末までに何らかの形で開始したい模様である。ただし、3G免許については、サービス開始後3年間は市場動向を観察すべきであるとの判断から導入はそれ以降にしたいと慎重な姿勢である。これはサービス開始早期に周波数取引が導入されると、ビジネスの不確実性が増えることを懸念した3G事業者に配慮したものだとされている。

 だが、3G周波数取引が具体的にどのような形になるかは現在のところ依然として不透明というべきであろう。確かに周波数取引は3Gビジネスに不安を抱えている業界に、追加的な収益をもたらす潜在性を秘めていると考えられる。仮に3G免許を他の3G免許事業者に売却できるとすれば、これを期に3G業界の統合・再編の可能性が生まれるかもしれない。しかし企業集中は、競争上の配慮から各国とも当局が直ちにこれを許容することは難しいと思われる。新規参入で事業者が増える場合も同じく当局の抵抗があるものと考えられる。各国は3G事業数を政策的に定めているためである。3G周波数を3G以外の用途に利用する者に売却するとしても、例えば欧州メーカーの技術基準以外の機器を接続する場合や、電波干渉の恐れがある場合は、欧州ハーモナイゼーション規則に反することになり、やはり取引は簡単には成立しないことになる。そのうえ、各国政府は今後行う3G周波数オークションの免許料収入の低下を恐れて、市場価格の低さが顕在化するような二次取引を行いたがらないのではという憶測さえある。

 様々な課題があるものの、3G周波数取引に向けては、欧州では英国が具体的な動きを見せているほか、イタリアの通信大臣が法改正の意向を表したという報道があり、また、この分野ではドイツでも環境が整いつつあるといわれる。周波数取引自体は、米国、ニュージーランド、オーストラリアで行われており、一定の歴史蓄積がある。国境が密集する欧州は、電波干渉の危険性も大きいので条件の異なる先行国の経験を直ちに生かすことはできないが、これに続いて周波数取引へ向けたひとつの潮流が生まれたことは確実である。

移動パーソナル通信研究グループ
 チーフリサーチャー 八田 恵子

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