2002年10月号(通巻163号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<トレンドレポート>

先行き不透明感が強まる欧米の第3世代携帯電話事業

 先月のニューズ・レター(9月号、通巻162号)で、撤退・先送りが相次ぐ欧州の第3世代携帯電話(3G)事業についてレポートした。この混乱はその後も続き、先行き不透明感が一層強まっている。ここでは、欧州における続報と米国における3Gの動向を取り上げる。

■先送り相次ぐ欧州の第3世代携帯電話事業

 フィンランドの通信大手ソネラが8月31日に、この9月に予定していた国内における3Gの商用サービスを、技術面の遅れ(端末の入手可能性とネットワークのインターオペラビリティ)から2003年第1四半期に延期すると発表した。同社のワイヤレス部門の責任者によると、「(3Gに関する)全般的技術は商用サービスを開始できるまでには成熟していない」という。ノキアが開発している2G、2.5Gおよび3Gのネットワークをオペレーション可能なデュアル・モード端末は、2002年末まで市場に投入されない見込みだ。(注)ソネラの3G商用化の先送りによって、2002年中にサービスを開始するのは、英国およびイタリアにおける「ハチソン3G」だけとなった。

(注)Glitches blamed as Sonera puts back 3G Launch(FT.com:August 25,2002)

 フランス・テレコムが9月12日の取締役会で、ドイツの携帯電話準大手のモビルコムからの資本引き上げを決めた。同時に、筆頭株主である政府(55%を保有)に対しボン社長が辞意を伝え、政府もこれを了承した。6月末債務が697億ユーロに膨れ上がり、深刻な財務危機に陥っていた同社は、2002年上半期の決算で122億ユーロ(約1兆4,300億円)の巨額の純損失を計上し、ボン社長はその責任をとって辞職する。もっぱら借入金に頼ってグローバル・ネットワーク、携帯電話やインターネット事業を拡大したボン社長の積極的経営戦略が、ITバブルの崩壊で裏目に出た。28.5%を出資しているモビルコムの株式を、フランス・テレコムが売却し資本関係を解消すれば、ドイツにおける3G免許を保有するモビルコムの存続は困難とみられているが、ドイツ政府は9月15日に同社に政府関係金融機関による4億ドルの緊急融資を行なうと発表した。しかし、これだけでは同社の再建は困難であり、ドイツ政府はフランス・テレコムの提携継続を求める意向である。(注)

(注)Mobilcom thrown E400m lifeline,but uncertainty remains(totaltele.com:September 16,2002) モビルコムはE-plusなどから通信容量を借り受けサービスを提供するリセラー。加入数は約500万、2001年の売上は25.9億ユーロ、従業員は5,500人。3Gへの投資もあり、今年6月末の債務残高は66.5億ドルに膨らんでいた。最近フランス・テレコムと経営戦略上の対立が表面化していたが、同社がモビルコムに資本参加する際、追加出資を行なう協定を締結していた。

 欧州の3Gが困難な情況に陥っているのは、主として対応する端末が供給されない(供給されても電池の待ち受け時間が短く値段が高い)、ネットワークのインターオペラビリティが確立されていないといった技術上の問題と、多額の免許料の負担と高額の建設費による経営の悪化を背景とする資金調達の困難という問題である。さらに、ようやくサービスを開始した2.5G(GPRS)を軌道に乗せることが先決という事情もある。より根本的には、欧州の携帯電話市場が成熟化し新規需要の伸びが鈍化していること、現状では3Gのキラー・アプリケーションが見当らないという問題も指摘されて いる。(注)

(注)フィナンシャル・タイムズによると、欧州における3Gの導入は、技術や資金の問題だけでなく、知的財産権のライセンスに関する不確実性の問題に直面する可能性があるという。100近くの企業が欧州で採用するWCDMAに関連する特許を保有しており(GSMでは20社未満だった)、現時点でロイヤリティの総額がいくらになるかも分からない。WCDMAの特許料および利用条件に関する産業全体の合意は存在しておらず、WCDMA市場に参入を希望する各社が特許保有企業と個別にロイヤリティの交渉をしなければならない。同紙によると、このような状況からロイヤリティは端末価格の20%程度となる可能性があり、端末価格の引き下げによるマス市場育成の意図を困難にするのではないか、と指摘している。これに対し、CDMA2000のロイヤリティは、ほとんどの特許をクアルコム社が保有しており、5〜6%だという。WCDMAの特許を評価する機関として3G3Pが発足しているが、欧州と米国の独禁当局の承認を待っている段階で、特許の評価を終了するのに今後2年以上かかると見られている。(Patent snags ‘could hold up European 3G’ /FT.com:September 8,2002)

 欧州では「3Gよ、安らかに眠れ」とか「断末魔の3G」といった表題のレポートが氾濫しているが、当初の想定より遅れてはいるものの、3Gのネットワーク建設は着実に進んでいるとする見方もある。(注)スペインのテレフォニカ・モビレスは既にエリクソン製の760基地局を21都市に設置済みで、来年には商用サービスを開始する予定だ。欧州の20余りの国で3Gの試験運用が行なわれており、英国とイタリアでは今年中にサービスが開始される。3Gの時代が来るかどうかは論点ではなく、3Gはすでに現実なのだと主張している。崩壊したのは3G自体ではなく、その可能性に関する過大評価されたビジョンン(特に収入の増加をもたらすとする)である。携帯電話会社はインターネットの夢を実現するためだけで、3Gに多額の投資をしているわけではない。現在の携帯電話システムはかなりの年数を経過しており、多くの都市地域で周波数が不足している。携帯電話会社は、新たなデータ需要が喚起されなくても、従来サービスの成長に対応するため、3Gを必要としているのだ。3Gに対する死亡宣告の前に、携帯電話産業は3Gなしで何時まで生き長らえるかを考えることが肝要だ、とビジネスウイーク誌は書いている。

(注)There’splenty of life left in 3G wireless(BusinessWeek/September 2,2002) 同誌によると、3Gのネットワークは2Gに比べ、同じ周波数容量で約20倍の通話を運ぶことが可能で、同じ音声容量のネットワーク建設に要するコストは7分の1、運用経費は30%削減できるという。

 3G技術に問題がないとしても、携帯電話会社が利益を上げられるとは限らない。フィナンシャル・タイムズ(注)によると、欧州の規制当局は、そのことでビジネスの結果がどうなるかを理解せずにより激しい競争を求めるとともに周波数の競売による国庫収入の最大化を期待し、政策を誤ったのだという。同紙が引用したエリクソン社の幹部の発言によると、3G市場は過密状態にあり、最大の市場であっても4社以上の事業者をサポートするのは困難と予測している。3G免許を6社に認めたのはドイツ、オーストリア、オーストラリアであり、5社に認めたのは英国、イタリア、オランダ、台湾、カナダである。自国市場のシェアが10%未満の事業者の存続は困難で、企業の統合は避けられないと見ている。これらの情況からエリクソン社は、2005年以前に3G市場がマス・マーケット化することはないとの見方をしている。過大債務、アプリケーション不足や技術開発の遅れによって、この時期はさらに後にずれこむ可能性を指摘するアナリストも少なくない。

(注)Ericsson gives warning on 3G overcrowding(FT.com:September 9,2002)

 欧州委員会が混迷する3Gに対して救済の手を差し伸べる、という動きが具体化して来た。9月10日に欧州委員会は、T‐モバイル・インターナショナル(ドイツ・テレコムの子会社)と英国のmmO2が、英国およびドイツにおいて3Gの基地局とその他のインフラを共同で構築する協定を承認するつもりだと語った。(注)昨年3月に提起された「ネットワーク・シェアリング」は、競争の機会を減らすとして競争担当のモンティ委員が難色を示していたが、移動通信産業の苦境に対して何らかの手を打つ必要があるとする同委員会の共通認識が優先したと見られている。モンティ委員は、このような協力協定は新サービスの導入時期を早め、市場をより競争的にし、(基地局の設置数を減らすことで)環境問題に対するインパクトを緩和する、という点で消費者の利益になる。また、消費者に直接提供されるサービスをシェアすることは認めないことで、移動通信市場の競争を護ることに慎重に配慮した、と語っている。両社によるとこの協定が承認されれば、インフラ投資の30%が節減できるという。欧州の3Gにとってはかなりの朗報である。

(注)European Union plans to allow cost-sharing for 3G network(WSJ.com:September 10,2002)

■料金戦争の勃発を憂慮する米国の携帯電話事業

 第2世代の携帯電話事業で欧州に遅れをとったといわれる米国勢が、ここのところ元気を回復しつつあるように見える。全米4位のスプリントPCSが8月16日に3Gサービス(cdma2000 1x)を全米で開始し、これで全国サービスを提供する6社の次世代サービスが出揃った。最大手のべライゾン・ワイヤレスはcdma2000 1xで、2位のシンギュラー・ワイヤレス、3位のAT&Tワイヤレスおよび6位のT‐モバイルU.S.A.(以前はVoiceStream)は2.5世代のGPRSで、5位のネクステルはこの5月からiM1100による高速データ・サービスの提供を開始した。最後に参入したスプリントPCSのデータ料金プラン(PCSビジョン)の標準的料金(40メガバイトまで60ドル)は、1メガバイト当たり1.5ドルで、他社の半額に近い低料金である。同社の説明によれば、1メガバイトでeメール50通、インスタント・メッセージ75回および50ページのウェブ閲覧が可能という。米国でもモバイル・インターネットの時代がようやく幕を開けそうだ。

(注)米国の調査会社ComScore Media Metrixによると、現時点における米国のワイヤレス・インターネットの利用は、PDAなどハンドヘルド・コンピュータで500万台、携帯電話で580万台だが、モバイル・インターネットの利用者(重複利用を除く)は990万人としている。ヤンキー・グループは、2002年末には2,340万人がワイヤレス・インターネットを利用すると予測している。(U.S. wirelessInternet users reach 10m−survey:totaltele.com:28 August,2002)

 AT&Tワイヤレスは9月10日に、音声サービスに関する2つの限定特別料金プロモーションを発表した。1つは月額39.99ドルで“いつでも利用できる”1,000分のプランであり、もう1つは月額99.99ドルで“無制限に利用できる”プランである。ただし、このプランは同社のGSM/GPRS網利用(現時点で同社のTDMA網サービス地域の80%をカバーしているがニューヨーク、サンフランシスコ、フィラデルフィアなどは含まれていない。今年末には100%カバーされる予定)に限られる。ただし、データ・サービスの利用には別途契約が必要で、上記の分数には含まれていない。この決定は景気後退と競争激化の中で、市場シェアを高める(音声サービスを格安にしてデータ・サービスの契約獲得を狙う)ことを狙ったものだが、アナリストによるとこのプランは低料金の新記録であり、 料金戦争を誘発し、携帯電話会社の財務基盤を損なうのではないかと憂慮している。

(注)AT&T Wireless unveils plan for unlimited cellphone time(WSJ.com:September 6,2002)

 べライゾン・ワイヤレスは300“anytime minutes”を月額35ドルで(注)、シンギュラー・ワイヤレスは350“anytime minutes”を39.99ドルで提供している。AT&TのTDMA網サービスには、500分で34.99ドルから3,400分で199.99ドルまでのプランがある。また、無制限に利用できるプランでは、べライゾンが5月から、スプリントPCSは8月から、データ利用(144kbps)に限って月額99.99ドル(ネクステルは56kbpsを55ドル)で提供している。

(注)例えばベライゾン・ワイヤレスの料金プランAmerica’s Choice 300(ニューヨーク市)は月額35ドルで300分のanytime minutes(超過分は1分40セント)プラス夜間および週末の4,000分が利用可。国内のローミング料および長距離通話料は不要。月額4.99ドルの追加で、夜間および週末の無制限利用と移動−移動間の1,000分がプラス。

 フィラデルフィア証券取引所の無線通信産業(設備メーカーを含む)株価指標は、今年初の97.4ドルから39.0ドル(9月10日現在)に下落した。一方ヤンキー・グループの調査によると、携帯電話の1加入当たり利用分数は2001年3月から50%増加して月441分となったが、月間平均利用料金は横這いに推移していることから、1分当たり料金の低下が著しいことが分かる。(注)

(注)前掲 WSJ.com:September 6,2002

 ヤンキー・グループの別の調査によると(注)、米国の携帯電話の1加入当たり利用分数は2001年に月356分だったが、2006年には641分に増加すると予測している。携帯電話しか持たない電話利用者は3%に過ぎないが、携帯電話の利用時間の26%は固定電話から携帯電話に移行したものであり、携帯電話利用者の45%は少なくとも携帯電話は固定電話を代替していると指摘している。携帯電話の料金が固定電話の料金の水準近くまで値下りするにしたがい、携帯電話はより料金が安くなり、益々手放せなくなり、今後も使い続け、より接続し易くなる、と利用者の多くによって受け止められた。とレポートは書いている。

(注)U.S.wireless use to nearly double by 2006(totaltele.com/Reuters:17 September,2002)

 利用者は、携帯電話を何時何処にいても、目指す相手により確実に通信を行なうことのできるツールと見ている。このことは、住宅用利用者が2台目もしくは3台目の電話として携帯電話を選んだことから、固定電話会社の加入回線数が減少に転じたことからも明らかである。ヤンキ−・グループは、携帯電話に対する需要は今後も伸びると見ており、現在の人口普及率50%から、2006年には70%(約2億台)に増加すると予測している。しかし、米国の携帯電話産業が十分な財務上のリターンを達成するためには、現在6社の全国事業者のうち少なくとも2社が統合によって市場から姿を消すことが不可欠だ、とレポートは指摘している。

 「モバイル・サービスに対する市場の強い需要は、供給側の手詰まりから実現しない危険がある。市場におけるサービスの差別化が進まなければ、過大投資と過当競争による業績の低迷をもたらす料金 戦争に突入する。」とレポートは指摘するが、ヤンキー・グループのアナリストによれば、T‐モバイルUSAが最初に統合される携帯電話会社となるかもしれないという。

 スプリントPCSは9月25日に、多くの加入者が支払不能となり、加入契約の解除を進めていることを公表した。同社は、“Clear Pay”と称する最大利用を月間125ドルに制限する代わりに保証金を不要とするプログラムによって、他社が敬遠する信用履歴に問題のある顧客をターゲットに加入数を伸ばしてきた。同社の1,460万加入の3分の1がこのプログラムによるものだという。昨年11月以降、保証金の支払いを必要とする加入者を増やすなど与信管理を改善してきたが、現時点では大部分が保証金を払っていない。同社は110日間料金を滞納した加入者の携帯電話の機能を停止しているが、この措置によって公表済みの今年の加入増加見込数は大幅に減少する見通しである。このため、9月25日のスプリントPCSの株価は2.58ドルと、1ヶ月前の株価の約半分まで急落した。株価はすでに危険水域に入っており、同社の去就が注目されるところだ。(注)

(注)Sprint’s PCS loses subscribers as many fail to pay their bills(WSJ.com:September 24,2002)

相談役 本間 雅雄
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