2003年3月号(通巻168号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
ネットワーク&スタンダード

ITUが4Gの延期を認める
 〜欧州は2015年から2020年頃に登場か?〜

 最近欧州メディアで、ITUが2010年から2015年を目処に導入を目指してきた第4世代移動通信システム(Beyond IMT−2000:通称4G)について、国によってはその導入を延期する事を認める決定をITUが下した、との報道がなされている。報道によれば当初予定より5年ほど遅れることが認められることになりそうである。その理由として、当初予定どおりに4Gを推進すれば、3Gへ多大な投資を行った移動通信事業者がその投資回収を十分に行えないまま4Gへ移行することになってしまうことを挙げている。報道の内容を読み解くと共に、4Gをめぐる現況を概説する。

 3GMobile誌が、ITUのIMT-2000プロジェクト・マネージャーのファビオ・ライト(Fabio Leite)氏に行ったインタビューによれば、フランスが4Gの導入を当初の2010年〜2015年頃から、2015年〜2020年頃に遅らせることを認めて欲しい、とITUに提案してきたという。これに対しITUはこの遅れを認めたという。この「遅れを認める」決定は、まもなく開催される世界無線通信会議WRC−03の後にITUが発行する公式文書にも盛り込まれることになるという。同氏のコメントによれば「“2010年”というこれまでどおりの期日については、やはり同文書にも記載するであろうが、同時に“数カ国において”という記述も盛り込むであろう」と、各国の導入時期に含みを持たせることをほのめかしている。すなわち日本のような3G、さらには4Gを積極的に推進する国にも配慮しつつ、欧州における3G導入が遅れている実態についても、一定の理解を示す内容となるようである。ちなみに同氏によればフランスの移動通信事業者(オレンジなど)がITUへロビー活動を積極的に実施し、4Gの導入時期を遅らせることの重要性を説いて回っているという。

 仮に4Gの導入時期延期が正式決定すれば、その他4Gに関する取り決めに関するスケジュールもこれまでほど厳密で無くなってくる可能性もあり、導入を積極的にすすめる日本などにも影響が出てくる可能性がある。現在のスケジュールどおりに進めば、2003年6月にジュネーブで開催されるWRC−03において、第4世代移動通信システムの基本コンセプトが正式に承認され、さらに4G周波数の割当が議論、決定される予定となっているが、ライト氏によれば「今回WRC−03で、周波数の割当が決定される可能性は低い」という。そもそも3Gの導入にさえ足踏みしている欧州の移動通信事業者は4Gに積極的ではないため、議論が白熱しないのもある意味当然かもしれない。一方日本は4Gについても依然積極的に推進する姿勢は崩していない。総務省は2005年までに要素技術を確立し、2010年に実用化する方針を変更してはおらず、また移動通信事業者も、例えばNTTドコモは既に2002年10月には4G用無線アクセス装置の屋内信号伝送実験に成功するなど順調に開発を進めている。

 4Gは「新たな周波数帯による100Mbps級の伝送サービス」というイメージが強いが、実際は「オールIP」や「複数の通信インフラが融合したネットワーク」というこれまでの2G、3Gといった通信システムとは大きく異なる概念を含んでおり、従来の世代交代とは異なる変革が予想される。4Gでは複数のネットワークを自動で切り替える機能を有するなど、革新的な付加価値が想定されており、その後の移動通信業界の構造変化をもたらす可能性が高い。しかし一方で、導入の遅れは4Gそのものの価値を下げる要因となる。なぜなら無線通信のIP化や複数の無線インフラの融合といった領域は無線LAN事業者など他の事業者も狙っているベネフィットだからだ。このような市場環境だからこそ、4Gの発展スケジュールは重要な情報として注目される。

移動パーソナル通信研究グループ
リサーチャー 竹上 慶
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