2003年9月号(通巻174号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:ネットワーク・スタンダード>

「CS−3/CS−4」、EDGEの代替として普及するか

 このところEDGEによるサービスが世界各地で萌芽してきた。米シンギュラーは2003年6月30日、世界初としてEDGEの商用化に踏み切った。これに続きAT&Tワイヤレスでも本年内に商用化を開始する。欧州ではTIM(テレコム・イタリア・モビレ)がこの第3四半期に導入すると発表した。このようにEDGEの商用化が始まる一方、「EDGEの代替としてCS−3/CS−4を導入する」と発表する事業者も登場している。本稿では、特に欧州で注目されるこの「CS−3/CS−4」の概要と展望をレポートする。

 「CS−3/CS−4」とは、GPRS上で実現するデータのコーディング・スキームであり、それぞれ異なった電波状況においてネットワーク利用を効率化させるよう開発された。このスキームに従えば、平均約80.36kbps分データ通信速度を増大させることが可能であり、既存のGPRS網でのデータ通信速度を60〜70%程度向上できる。CS−3/CS−4を採用するメリットは、まずキャリアのコスト負担が比較的少ない点である。基地局とベース・ステーション・コントローラー(BSC)間のリンク・キャパシティを増大させるためのソフトウエアをインストールするだけでよい。第2に、端末がすでに市場に出回っているという点である。CS−3/CS−4はGPRS仕様に当初から含まれているため、既存のGPRS端末で対応できる。サービスが始まっても端末が1機種しか登場していないEDGEと比較すれば、これは大きなメリットと言えよう。しかし一方で、このスキームは通信速度に限界がある。例えば携帯電話間でビデオ会議を実現するには容量が充分ではない。CS−3/CS−4では、EDGEの代替は何とか務められても、W−CDMAの代替は困難となる。

 それでは、CS−3/CS−4やEDGEは今後どのような道をたどるのだろうか。まず第1に、EDGEはW−CDMAの、CS−3/CS−4はEDGEの代替として採用されるというシナリオが挙げられる。ここ数年の通信不況による経済的な問題や技術開発の遅れなどから、ほとんどの事業者が3Gの商用化の予定を延期している。一方で、これといった高速データ通信向けのキラー・アプリケーションは登場しておらず、ここ1、2年で商用化されるものも80kbps程度のデータ通信速度で賄えるものが少なくない。このため、キラーアプリケーションが登場し投資が確保できるまで2、3年は既存のインフラのアップグレード程度で持ちこたえようとする事業者の姿勢が顕著となっている。第2に、数年先に地域の特色やニーズによって方式を使い分けるという場面も出てこよう。W−CDMAは都市部、EDGEは郊外、CS−3/CS−4はそれ以外の場所といった具合で、できるだけコストを抑えた効率よい高速データ通信サービスの提供を図ることもできる。このようなシナリオに基き、CS−3/CS−4とEDGEは、それぞれの長所を活かして互いに棲み分けて普及していくのではないかと思われる。

表1:CS1-4を採用した場合のデータレート 表2CS3/CS4、EDGE、W-CDMAの比較

移動パーソナル通信研究グループ
リサーチャー 宮下 洋子

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