2003年10月号(通巻175号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<トレンドレポート>

米国における移動/固定の融合サ−ビスの動向

 米国では1996年通信法の制定によって、市場の開放を条件に地域ベル電話会社による長距離通信市場の参入が認められたが、ここにきてほとんどの州で地域通信会社が長距離通信市場に進出を果たしている(注)。これで、通信サービスのワンストップ・ショッピングが可能になり、携帯電話を含む通信サービスをパッケージ化して割引料金で提供する「バンドル化」が進んだ。さらに、携帯電話を除き、定額料金で無制限に利用できるフラット・レートが当たり前になっている。一方、シンギュラー・ワイヤレス(米国第2位の携帯電話会社、加入数2,300万)は、自宅や職場などにおける携帯電話着信を固定網経由で提供するサービスを開始する。米国における移動/固定融合サービスの動向を紹介する。

(注)51州(ワシントンDCを含む)のうち43州で進出もしくは承認済み(9月18日現在)

SBCのバンドル料金プラン

米国においても、固定電話は2000年以降毎年3%づつ減少している。携帯電話の急増と低料金化(ほとんどの料金プランで夜間週末は実質無料で利用できる)、電子メールへの移行、ケーブルモデムとDSLなどの常時接続型ブロードバンドの普及などがその理由である。そのうえ、地域ベル電話会社は市内競争事業者(CLEC)に市場を奪われ(2002年末固定電話1億8,750万加入のうち13.2%)、料金の低落傾向も一向に収まらない。そこで、高利用の顧客を囲い込みたいということで登場したのが「バンドル料金プラン」である。(表)にSBCのバンドル料金プラン「トータル・コネクションズ・パッケージ」を示す。

SBCのバンドル料金プラン(テキサス州都市部)
SBCのバンドル料金プラン(テキサス州都市部)

(出所)Do Phone “bundles” add up?(The Wall Street Journal online / September 14,2003)同紙によると、べライゾンのほぼ同様のサービス「フリーダム・オール」は119.89ドル/月、ただしバンドルされているワイヤレス・プランはアメリカズ・チョイス300(平日昼間300プラス 夜間・週末無制限)で通常料金は34.99ドル/月。

 顧客にとってのバンドル料金のメリットは、サービスを個別に契約する場合よりも有利な料金割引を受けられることである。(上記の(表)では18.1%の割引率となる)さらに、一つの料金請求書にまとめてあるので、チェックの手間も省け便利だ。サービス面での移動/固定の融合は、「バンドル料金」という形で今後もさらに進むと思われる。傘下に移動通信会社を持たないAT&Tはこの動きに危機を抱き、リセール方式での市場再参入を検討中と伝えられる(注)。さらに、通信会社は将来無線LANや放送、ビデオを含むコンテント・サービス、インターネット・ショッピングとその代理集金などをバンドル化することを視野に入れている。SBCは衛星放送のディレクTVの買収を試みたが成功しなかった。

(注)AT&Tは今年中に35州で長距離および地域通信のバンドル・サービスを提供する予定。さらに、遅くとも1年以内に、全米で地域と長距離にワイヤレスおよびブロードバンドを加えたバンドル・サービスを開始する。すでに、8市場でコバド・コミュニケーションズと提携してブロードバンドを、2市場でAT&Tワイヤレスと提携してワイヤレスをバンドルしたサービスのテスト・マーケティングを実施中。(AT&T CEO sees more cost cutting ,consolidation:totaltele.com/Reuters 19 September 2003)

 料金のフラット・レート化が進む理由の一つは技術の進歩であり、通信コストの距離に比例する要素は極めて小さくなったことだ。もう一つは、顧客の習性の変化である。ケーブルテレビは一日に何時間利用しても定額料金である。DSLも有料コンテントを除けば定額料金である。携帯電話の通話料金も距離と無関係だし、夜間・週末の無制限利用がバンドルされている場合が多い。顧客はこのような定額料金制に慣れて、距離と時間によって課金されるシステムを煩わしく思うようになった。また、電話会社にとってもメリットがある。収入の予測可能(predictable)性が高まる一方、料金システムを簡素化できるからだ。さらに、「フラット・レート&バンドル」料金プランで顧客の会社に対するロイヤリティ向上が期待できる。「顧客が欲しいサービスを全部提供できれば、顧客は我々から離れたいと思うことが少なくなるはず」とAT&Tの幹部は語っている(注)

(注)Phone companies see their future in flat-rate plans(The New York Times online/May 23,2003)

 ケーブルテレビ業界が放送、高速ネット接続、ケーブル電話などを一括して提供する動きに出て、電話会社もこれに対抗するサービス・プランを投入する必要に迫られていた。特に、高速ネット接続は規制のないケーブルテレビ業界が優勢で、加入数の3分の2を獲得している。口火を切ったのはMCIで、2002年4月に長距離と地域のバンドル・サービス「Neighborhood Plan」を導入した。結果は予想を上回る成果(MCIの市内サービス加入者350万のうち200万が契約:前掲ニューヨーク・タイムズ紙)だった。現在は、長距離電話会社を含む主要な電話会社のすべてが「フラット・レート&バンドル」料金プランを提供している。次の課題は、携帯電話料金の完全フラット・レート化を、データ料金を含め何時どのように実現するかではないか。

シンギュラー・ワイヤレスの「FastForward」

 シンギュラー・ワイヤレスとその親会社である地域電話会社のSBCおよびベルサウスは、9月9日に「無線サービスの利便性と固定電話の価値を融合させる無線業界最初の機器の一つ」(注1)である「FastForward」を10月1日から発売すると発表した。FastForwardは、シンギュラーの携帯電話機の充電用架台(cradle)兼用として計画された。電源コンセントに差し込むだけで、架台に挿入した携帯電話機への着信を、指定した固定電話経由で受信でき、無線着信料金を支払わなくてよい(注2)。FastForwardは、固定電話加入者でシンギュラーの携帯電話を利用する顧客を対象に40ドルで発売される。利用者は月額2.99ドルの支払いが必要だが、FastForwardを利用する顧客がSBCかベルサウスの加入者で、シンギュラーと同一請求書で料金を請求することに同意している場合は、月額使用料の支払いを免除される。シンギュラーの全営業区域で利用可能だが、当面はノキアとモトローラの端末に限られる。11月初旬にはソニー・エリクソンやシーメンスの端末なども利用可能となる。

(注1)Cingular Wireless,SBC Communications,and BellSouth introduce unique device for routing incoming wireless calls to wireline numbers;Cingular Wireless News Release(2003年9月9日)

(注2)米国の携帯電話の料金は「Mobile Party Pays」と称されているように、着信加入者が着信側無線料金を負担するのが原則である。各料金プランの通話分数には、発信だけでなく着信分数も含まれる。

 シンギュラーとその親会社であるSBCおよびベルサウスは、「FastForwardは通話プロセスを単純化し、利用者の通信方法を変える新カテゴリー・サービスを生み出すための計画の一部である。ワイヤレスとワイヤラインのサービスおよびネットワークを統合することによって、3社はユニークで差別化したサービスの提供が可能となり、SBCとベルサウスの顧客の獲得と維持を容易にし、同時にシンギュラーの顧客ベースの成長に寄与する。」とその導入の狙いを説明している。(前掲ニュースリリース)

 使い方は至って簡単で、携帯電話機のアドレス・ブックに着信を指定する固定電話の番号を書き込み、携帯電話機をFastForwardの架台に差し込めばよい。架台のライトが光り、転送サービスが生きていることが確認できる。転送先として3電話番号を指定でき、CF1、CF2、CF3、のラベルで表示される。ただし、転送先はシンギュラーの地域通話区域内の電話番号に限られる。架台のキャンセル・ボタンを押せば転送機能は停止し、携帯電話着信に戻る。

 ニューヨーク・タイムズはFastForwardのメリットを以下のように指摘し、高い評価を与えている(注)。第1は、料金プランのワイヤレス分数を節約できることだ。米国の場合、市内固定電話料金は定額制が多く、固定電話着信が増えても料金は増えない。第2は、特定の人が使う複数の電話番号を記憶する必要がなくなることである。相手が何処にいても、一つの電話番号にかければ確実に電話がつながるというのは大きなメリットである。第3は、音質の改善である。着信局から固定電話端末まで有線でトラフィックが運ばれるからだ。第4に、FastForwardは自宅に設置されている固定電話の子機にも同時に呼び出し信号を送るので、電話機を置いてあるところなら何処からでも電話に出ることができる。

(注)Cellphones that reach alter egos;The New York Times online(2003 / 09 / 11)

 固定電話の契約を解除して、携帯電話だけにする加入者が増加している傾向を、何とか変えたいと思っているSBCとベルサウスにとって、FastForwardは望ましいサービスである。FastForwardをかなりの顧客が利用するなら、シンギュラーにとっても、無線ネットワークの混雑を回避するメリットがある。多くの携帯電話利用者が価格だけで事業者を選んでいる時代にあって、シンギュラーは特徴のある(singular)新サービスを提供し、差別化を図ってきた。例えば、同社は料金プランの未利用通話分数の翌月以降への繰越サービス、「Rollover」を提供している米国唯一の携帯電話会社である。

シンギュラー・ワイヤレスのFastForward
シンギュラー・ワイヤレスのFastForward
 シンギュラーは報道発表で、FastForwardはシンギュラーとその親会社がワイヤレス顧客の通話プロセスを単純化するため開発してきた独自の製品とサービスのシリーズの一つである、と強調している。6月には、SBCとベルサウスの住宅用加入者向け料金プランの長距離通話分数とシンギュラーの料金プランのローカルおよび長距離分数は、同一契約者であれば相互に流用ができる「MinuteShare」を開始した。また、固定電話と携帯電話のボイス・メール・ボックスを統合するサービスを近く始める予定である。
特別研究員 本間 雅雄
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