2004年1月号(通巻178号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<トレンドレポート>

海外におけるiモードの状況
〜仏ブイグ・テレコム、iモード開始から1年で業績好調

 フランスでのiモードが好調である。欧州ではオランダを筆頭に数カ国でiモードが提供されているが、これまで芳しい状況が伝えられず苦戦ぎみであった。一方、iモード提供を開始してから約1年が経過するフランスでは、これまでの状況と一線を画し好調な業績を見せている。本稿では、フランスにおけるiモードの状況とその要因、展望を考察する。

■ブイグ・テレコムによるiモード提供の経緯と状況

 フランスの移動通信事業者のブイグ・テレコムは、2002年11月からiモードの提供を開始した。ブイグ・テレコムでは、NTTドコモとの資本提携ではなくサービス提供に必要な特許、ノウハウ等を利用するライセンス契約を締結するという形態でiモード提供に踏み切っている。1年が経過したブイグ・テレコムの状況を見てみると、2003年11月時点においてサービス提供エリアは同社の既存ネットワークの98%、加入者数は38万であり、同年内には50万に達する見込みとしている。この数値は、ブイグの契約型加入者の12%に相当する。主なユーザー層は15〜40歳であり、中でも25歳〜30歳の利用が多い。またユーザーの45%は女性が占めるが、これはさらに増加する傾向にある。

 コンテンツの増加も順調である。iモードの公式サイトは220、コンテンツ・プロバイダー数は130社、(競合サービスのボーダフォン・ライブ!では同時点で約100サイト)。非公式サイトは1,500程度の模様である。人気コンテンツは当初の日本と同様に着信メロディやスクリーン・セーバーのダウンロードであるが、トラヒックがもっとも多いのはチャット機能の利用で、事業者としてはこれによる収益が最大となっている。プロバイダーが提供するコンテンツは、日本のコンテンツをそのまま利用するものもあるが、大方はフランス独自の音楽やアニメーションなどをiモード向けに加工し提供している。

 提供方法やビジネスモデルという面では、ブイグ・テレコムによるiモードは、NTTドコモが日本で展開するものとほぼ同じである。一方でサービス内容では日本より1年〜1年半程度の遅れをとっており、Java対応アプリケーションの提供や動画コンテンツなどはこれから開始する予定となっている。

図表1:フランスの移動通信事業者3社の資本関係および加入者数

■マルチメディア・サービスにおける他事業者の追随

 このところ欧州全般でマルチメディアに特化したコンシューマー向けサービスの提供が盛んになってきた。特にフランスでは、2003年秋から他2事業者がそれぞれ新サービス開始を発表し、事業者間競争が激化している。まずボーダフォン傘下のSFRは、欧州を中心に勢力を拡大している「ボーダフォン・ライブ!」 を2003年10月から開始した。ボーダフォンは2002年10月末から開始1年間でボーダフォン・ライブ!の加入者300万を獲得しており、傘下のSFRを通じてフランスでも勢力を拡大する意向である。オレンジでは同11月から「オレンジ・ワールド」をまずはお膝元のフランスなど3ヶ国で開始すると発表、これまで提供してきたWAPによるサービスを一新し、シンプルで利用し易いサービスの提供を図っている。

 このようなトレンドの背景には、飽和状態となった移動通信市場でARPUを向上させる新たな施策として、インターネット接続や画像の送受信が可能なマルチメディア・サービスへの注目度が高まっているという現状がある。このようなサービスでは、画像の送受信にMMSを採用するのが主流となっている。これは、これまでヒットしたSMSを土台にしてユーザーに受け入れ易いサービスを提供するという戦略に端を発している。一方、ブイグ・テレコムのiモードは、MMSの利用を可能としながらも、基本的にはcHTMLに基くインターネット経由の電子メールがベースとなっている。

■iモードの収益性と導入の効果

 iモードは、実際に移動通信サービスとして事業者の業績に貢献しているのだろうか。ブイグ・テレコムによれば、iモード加入者の25〜30%はブイグへの新規加入者である。当初この数値は20%程度であったが、もっとも最近の数値ではこれが40%となっており、新規顧客獲得のツールとして実力を発揮しつつあると言えよう。また、ユーザーの囲い込みにも一役買っている。iモード・ユーザーのチャーン率は、通常の契約者と比較して1/3程度低い。収益を見てみると、ブイグ・テレコムでは、プリペイド・ユーザーのARPUは約14ユーロ(1,820、1ユーロ=130円で計算)、ポストペイドは54ユーロ(同7,020円)である。これに対し、iモード・ユーザーでは70ユーロ(9,100円)であり、このうちデータ通信のトラヒック収入は8〜10ユーロを占め、iモードの採用により着実にARPUの向上を果たしている。

 iモードの導入により株式アナリストの評価も向上しているようだ。クレディット・アグリコール銀行傘下で投資家向け株式調査を手掛けるクレディット・アグリコール・インドスエズ・シェブール(Credit Agricole Indosuez Cheuvreux)では、「iモードはフランスでは一般消費者にとって新しいタイプのサービスであり、先行きは不透明である。また通信業界が不況であり、株価全体が下落傾向にある」と否定的な要素を挙げる一方で、「ブイグのコンシューマー向けサービス自体は他2事業者のものと比較しサービスとしての競争力が強く料金も低価格である」としてこれを評価し、現時点で株式を購入するには、仏移動通信事業者3社の中でブイグのものが「ベスト・ストック」であるとしている。このような状況からもうかがえるように、これまでのブイグのiモードは現時点では成功を遂げているといって過言でないだろう。

【図表2:マルチメディアに特化したコンシューマ向け携帯電話サービス一覧(フランス)

■iモードがフランスで好調な要因は?

 これまで批判する記事の目立っていたiモードがフランスにおいては好調な原因は何だろうか。ブイグ・テレコムのiモード部門、技術およびロードマップ部長のニコラス・セドリック氏によれば、最大の要因は日本での成功事例を忠実に模倣した点にあるという。

 ブイグではiモード提供に際し綿密に日本での成功事例を研究し、ドイツやオランダなど欧州での先駆者の実態を観察したとしている。この結果判明したことは、まず他国ではユーザーがiモードのサービス内容を理解していない傾向にあることを発見した。このためこの改善策として、まずはiモードで何ができるか、そのサービス内容を理解してもらうことを重点に広告戦略を展開した。他社と広告内容を比較すると、ボーダフォン・ライブ!が有名人を起用しイメージ戦略が比較的多いのに対し、ブイグでは、携帯電話でコンテンツを利用するシーンを見せるなどして具体的な内容となっている。こうしてサービス内容の周知に徹底した広告活動を展開する一方、販売体制も強化した。新規顧客が販売店に出向いた際、iモードの利用方法や内容を明確に理解してもらえるよう、商品説明や情報を適切に提供できる販売員の育成に尽力したとしている。

 ブイグのiモード展開では、早期参入のメリットも享受できる点が挙げられる。他事業者よりも1年程早期参入を果たしていることから、新しいもの好きで技術に明るいユーザーを獲得するには有利な状態にあったといえよう。

 一方、iモードにはサービス設計自体にも優位な点が目立つ。例えばコンテンツ・プロバイダ(CP)向けのプッシュ型コンテンツ発信の課金体系を見ると、MMSを利用するボーダフォン・ライブの場合、料金は発信者が支払う。このためCPがコンテンツを送信する場合は、MMS送信料を事業者へバルクで支払うという作業が必要になる。この状況を比較すると、CPにとっての環境はiモードに 軍配が上がるだろう。ユーザー料金を見てみると、iモードでは月額3ユーロの基本料金を設けている点が特徴的である。このように比較的低価格な月額利用料金を設定することで、ユーザーのサービス離れを食い止める効果があるという見解も出ているようだ。

■普及の課題と将来性

 これまでレポートしてきたように、ブイグのiモードは比較的好調であり、他社よりも有利な状況も多い。この反面、普及の障害となる要因もいくつか挙げられる。

 まず、ブイグのiモードは、ポストペイドのユーザー向けにのみで提供されており、プリペイドでは利用できない点である。欧州はプリペイド・ユーザーの割合が最も高い地域の一つであり、フランスでは約4割を占める。またマルチメディア・サービスの強力なターゲットとなり得る若年層は、一般的にプリペイドで加入する傾向が強い。ブイグでは、現行のiモードのシステムでは、プリペイドでこれを提供するのは難しいとしているが、今後さらにiモードの普及を拡大させるには、この層への対処策が必須となるであろう。

 2つ目の課題として、対応端末数が少ないことが挙げられる。オレンジ・ワールドの対応端末がサービス開始時に7種類、ボーダフォン・ライブ!ではそれ以上の種類を確保しており、消費者の選択肢を広げている。一方、現在ブイグのiモード端末を提供しているのはNECと三菱電機の2社のみであり、端末も3種類に留まっている。しかも欧州では他の主要ベンダーと比較して日系ベンダーの知名度は低く、端末のバラエティという点ではかなり見劣りがする。今後サムスンなど対応端末を出荷することが決定し、ノキアとも交渉中であると伝えられているものの、対応端末数を増やすことは早急の課題と言えよう。

写真:ブイグのiモードの広告 3つめに、ブイグの事業者としての規模である。同社のフランスにおける加入者シェアは約15%であり、ライバルとなっている他事業者は欧州でも上位を争う規模の事業者だ。ビジネス・ユーザーは国際ローミングを比較的有利な条件で提供できるメガキャリアを選択する傾向にあり、このようなユーザーを確保するには苦戦を強いられることになるだろう。またフランスでは携帯電話の最低契約期間が1〜2年となっており、他事業者からユーザーを劇的に獲得するためには何らかの施策が求められる。

 しかしながら、これまでのブイグの業績は、iモードの海外展開では最大の成功事例として挙げられる。他国の実情を検証し自己の展開に役立てた姿勢はもとより、今後の展開で参考にすべき点は多々あるのではないか。

移動パーソナル通信研究グループ
リサーチャー 宮下 洋子

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