2004年4月号(通巻181号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:移動通信サービス>

欧米の携帯電話パケット通信データ・サービス戦略について

 長期的に見て、世界の移動通信事業者には音声収入の減少への対処という、共通課題がある。欧米主要国では、ますます人気が高まるSMSが、音声収入をカバーするものとして考えられており、SMSについての取り組みが活発化している。しかしSMSは、データ通信サービスではあるものの、あくまで音声通信網を生かしたサービスであり、本格的なデータ・サービス収入の基盤となるのはパケット通信を活用したサービスである。にもかかわらず、欧米におけるパケット通信系サービスの需要はいまだに低い状態にある。本稿では欧米のパケット通信を活用したデータ・サービスについて、Total Telecom誌掲載の記事「Data Services - Messaging still on top」の内容を中心に、パケット通信データ・サービス市場の概況と各社の戦略を概説する。

 2004年2月のTotal Telecom誌記事によれば、ヨーロッパの移動通信事業者のデータ通信収入のうち、実に95%がユーザー間のSMS利用によるものであるという。しかし、今後多額を投資して展開する3Gでは、高速パケット通信を生かしたサービス展開を行う必要があるため、各社は早急にパケット通信データ・サービスを普及させていかなければならない状況にある。そのため、新たなデータ収入源として最も期待されているのが、MMSである。2003年以降、各社で導入が開始されたMMSであるが、いまだほとんど期待に応えていない状況にある。そこで欧米各社は、MMSに関してさまざまな取り組みを行っている。以下に、欧米事業者のおもな取り組みについて紹介する。

■ユーザビリティの改善

 データ・サービス進展が遅れる原因として、まず利用者の使い勝手(ユーザビリティ)の悪さが挙げられ、これを改善する動きが各社に広がっている。オレンジのソル・トルヒーヨ(Sol Trujillo)CEOは、フランス国内市場において写真貼付メッセージ送受信サービスが低迷している現状について、その原因がユーザビリティにあるとコメントしている。「オレンジのユーザーは写真送受信サービスの送受信操作が厄介だと感じている。いくつかの携帯電話端末では、写真を撮って、送るために最高で17回のキー操作をしなければならない状態にある」として、こういったユーザビリティの改善により、データ通信利用を活発化させたいしている。

 同様に、WAPの利用についても同様のユーザビリティの問題があった。この改善についても各社が取り組みを始めている。ボーダフォンの「ボーダフォン・ライブ!」をきっかけに、O2、オレンジをはじめ欧米各社のWAPポータルが改善された。ユーザビリティの向上に伴い、WAPについても、スポーツ・コンテンツを中心に人気が高まり始めている。米国ではスポーツ番組を提供するESPNのモバイル・ポータルは1日あたり平均約100万ページ・ビューを記録している。テリアソネラでも、GPRSユーザーの6割が月に一度はWAPを利用している状態になってきた。クレディ・スイス・ファースト・ボストンの予測によれば、2004年末までにはヨーロッパの移動通信事業者の加入者の25%が少なくとも月に一度はWAPを閲覧するだろうと予測している。

■人気コンテンツの推進

 データ・サービスの低迷といわれながら、少しづつ人気が高まり始めたコンテンツもあり、こういった人気コンテンツをより強力に展開する動きも見え始めている。人気コンテンツとは着メロとゲームである。Mobile Media誌によれば、世界のモバイル・インターネット市場において、エンターテイメント系コンテンツとして最も収益が高いのは着メロであるという。また昨今のゲーム市場の拡大も注目される、としている。例えばスウェーデンのテリアソネラでも着メロ、Javaゲームの利用が活発化している。同社はデータ通信サービス普及のため、これまでニュース系コンテンツを中心にマーケティングを行ってきた。それにもかかわらず着メロは高い人気を見せており、また2003年末頃から、Javaゲームの人気が急上昇しているという。

  こういった流れを察知して、移動通信事業者はゲーム提供のため主要コンテンツ・プロバイダーとの提携を進めている。T−モバイルはニューライン・シネマなどと提携し、映画「ロード・オブ・ザ・リング」のゲーム・コンテンツ提供を行う。アメリカではベライゾン・ワイヤレスが日本の大手ゲーム・コンテンツ・プロバイダーであるコナミ、スクウェアと提携し、ゲームの積極提供を始めた。

■コンテンツの選択と集中

 一方モバイル・コンテンツの展開にも、「選択と集中」が必要であるとの考え方も出てきた。T−モバイルのクラウス・テーベ(Klaus Tebbe)副社長はTotal Telecom誌インタビューに対して、今後のサービス展開には選択と集中が必要との考えを示している。「人気のあるスポーツ情報のこまめなアップデートなど、特定の人気コンテンツを充実させることが重要である。全方位的に情報をカバーしたブラウジング・サービスは必要無い」とコメントし、より人気のコンテンツに集中して充実させることで、データ・サービス普及を狙う考えを示した。

■課題

 このように欧米においても、音声収入をカバーするための、データ通信収入拡大に向けた取り組みが行われている。一部では、パケット通信活用のキー・コンテンツとしてプッシュ・ツー・トーク(PTT)を導入・推進する動きもある。これはモバイル・インターネット利用が低迷する法人において、データ通信収入拡大を期待しての動きであるとも言われる。とはいえ、各社のデータ通信通信収入の中核はやはりMMSである。したがって、上記種々の施策に加え、無料お試しキャンペーンなどによる認知度向上や、利用促進を活発に行っている。しかし、それでもまだまだ取り組みは弱いと感じる。なぜならMMSには非常に大きな使命が課せられているからである。すなわち、現在データ通信を支えているSMS収入を代替し、かつそれを上回るほどの収益を生みだすことを期待されているのである。音声収入の減少が続く日本では、定額制の導入にまで踏み切ってまで、パケット通信サービスの普及を推進している。ここまで競争が過熱すると、もはやメッセージング1つ1つでは、高収入が期待できない。欧米のデータ通信収入への期待とは裏腹に、データ通信の価格は予想以上に急激に低下する可能性を秘めている。欧米でMMSの普及がこれ以上遅れれば、欧米事業者でデータ通信利用が活発になったときは、既に期待したほど高収入を生まないものとなってしまうことも予想される。

移動パーソナル通信研究グループ
リサーチャー 竹上 慶

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