2005年1月号(通巻190号)
ホーム > レポート > 世界の移動・パーソナル通信T&S >
世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:市場・企業>

ヴァージン・モバイルの新たな動き

 現在ヴァージン・モバイルは英国、アメリカ、オーストラリアでMVNOとして携帯電話サービスを提供しており、2005年3月にはベル・モビリティとの合弁によりカナダでも事業を開始することを既に発表している。本稿では同社の最近の動向について概観する。

■英国での状況

 英国ヴァージン・モバイルは2004年7月26日、ロンドン証券取引所に上場した。上場後初の中間期決算となる2004年上半期業績は好調で営業利益は4,730万ポンド、前年同期比で14%の増加となった。同社は引き続きクリスマス・シーズンも好調な販売を見込んでおり、2004年通年では、依然として10%台後半という高水準のサービス収入増加率となると予想している。しかしながら、新たなMVNOとして2003年夏にはO2とテスコの合弁会社であるテスコ・モバイルが参入し、更に2005年3月にはデンマークTDCがイージー・グループのブランドを使って同市場へ参入することを表明しており、MVNOによる競争は激しくなりつつある。

 このような状況の中、2004年12月12日、数週間以内に発表が予想される新たな3G免許競売にヴァージン・モバイルも入札する模様であることをビジネス紙が報じた。本件に関して、規制当局オフコムがまだコンサルテーション文書を発表していないため真偽は明らかではないが、もしこれが本当であればこれまでMVNOという形態で展開してきた同社の英国での携帯電話事業は新たな段階へ向かうであろう。

■米国でも株式公開か?

 2004年夏にヴァージン・モバイルがロンドンで株式を公開したが、今度はヴァージン・モバイルUSAが株式公開を計画していると噂されている。2004年11月22日付フィナンシャル・タイムズ紙によれば、同社は2005年下期に株式公開を実施する模様で、ロンドン証券取引所上場に際してのアドバイザーであったJPモルガン、モルガン・スタンレーを含む5つの投資銀行に助言を求めているようである。同紙は、実際に株式公開するか否かは英国ヴァージン・モバイルの株式出来高や米国の市場状況によるであろうと述べている。これについてヴァージン・モバイルは口を閉ざしているが、ある専門家は実際に株式公開すれば、株式総額は20億ドルになると見ている。米国での上場が実現すれば更なる事業拡大に向けた資金調達が可能となることは間違いないようである。

■インド、中国で市場参入を目指す

 MVNOとして最初に事業を立ち上げた英国の市場環境が変化しつつある中、ヴァージン・グループ会長のリチャード・ブランソン氏は2004年11月27日、インドでMVNOとして事業を開始するために現地携帯電話事業者との協議を開始したことを明らかにした。同氏によれば同国の4大事業者と話し合いを始めており、上手くいけば18カ月以内にサービスを開始できる見込みである。同氏は同国の状況について、事業者のサービス展開状況から判断してネットワークを他事業者、すなわちMVNOに 利用させることができる時期が近づいていると見ている。更に同氏はこの発表から10日後の12月7日、 同社と中国の携帯電話事業者のそれぞれが1億5,400万ポンドずつ出資をして中国に携帯電話事業の合弁会社を設立することを目指して協議をしていると発表した。中国での事業についても、サービス開始には12〜18カ月かかる模様である。

 インドでは電気通信分野における企業の外資出資比率を49%以下から74%以下に引き上げる動きがあるため、現地事業者の買収も可能となるかもしれない。一方、中国ではインドより厳しい外資出資制限があり、既存事業者の買収はできない。移動体通信分野における合弁会社設立に際しての外資による出資も2004年12月11日に北京市、上海市、広東省広州市において25%以下までに開放されたばかりである。今後は2007年までに49%以下までに緩和されることとなっているが、合弁会社を設立しても実際にネットワーク事業者となることは困難であることが予想される。しかしながらヴァージン・モバイルは外資出資制限に関係なく、事業者の株を買収することに関心は持っておらず、あくまでもサービスを提供するために既存ネットワークに便乗したい意向である。これに関して中国での事業についても同様の考えである。同社は自前でインフラストラクチャーを構築する必要がなくネットワーク・コストを削減できるため、ネットワークを保有する他事業者のネットワークを使うことに意味があるとしている。ネットワークに費用がかからない分、同社はその費用をマーケティングや顧客へのサービスに充てることができ、それが同社にとっての大きな利点であると考えている。

 ヴァージン・グループのアジア進出に関して、ヴァージン・モバイルの進出意向発表と同時に同グループ傘下の航空事業であるヴァージン・アトランティックもインド、中国へ進出する意向であることが発表された。ヴァージン・アトランティックは英国とのつながりを持つインドおよび香港への路線を就航させるとともに、英国企業も多く進出している中国本土へも路線を拡大したい考えである。この航空事業と携帯電話事業の同一国での展開がグループのブランド力を高め、各事業に相乗効果をもたらすことが期待される。両社が成功すれば、それぞれの強みを活かした新たなサービスも生まれるかもしれない。

 MVNOとしてインド、中国でサービスを提供できるかどうかは現在未定であり、今後どのようなサービスを提供していくかも明らかにされていない段階でヴァージン・モバイルにとってこれらの事業展開が有益か否かを判断することは時期尚早であるといえよう。しかし、インド、中国はこれまで事業を展開、成功している欧米諸国とは大きく異なる市場であり、事業展開は決して容易ではないはずである。特に中国市場における規制は予想以上に厳しく、また現地社員を雇って現地オペレーションをしなければならないということが同社にとって困難となることは間違いない。同社がサービス開始に向けてどのようにこれらの困難を乗り越えていくかが注目される。また、同社はインド、中国以外にもメキシコ・南アフリカ・ナイジェリアでの事業展開も視野に入れており、今後の海外戦略も興味深いところである。

移動パーソナル通信研究グループ
リサーチャー 武井 ともみ

▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。