2005年1月号(通巻190号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<トレンドレポート>

先送りされる中国の第3世代携帯電話の免許付与

 世界最大の携帯電話加入数を持つ中国で、第3世代携帯電話(3G)の免許付与が先送りされ、見通しが立たない状況にある。その背景と今後の見通しについて考察するとともに、中国の端末メーカーが経営不振に陥っている背景や携帯電話ネットワーク機器メーカーが欧州市場に先端技術で進出するなど攻勢を強めている状況についてレポートする。

■3Gの免許付与で立往生する中国政府

 中国の携帯電話加入数は2004年10月末で3億2,500万になった。しかも、毎月数百万の加入数が増加している。だが、ユーザーからの強い要望があるにもかかわらず、第3世代携帯電話(3G)の導入は遅れ、政府は未だに免許付与の時期すら明らかにしていない。

 中国は3Gのプレーヤーになることを強く望んでいる。中国政府は3Gの開発に影響を与える市場の力を全世界で行使したいと考えて、すでに広く受け入れられている2つの3G標準であるUMTS(WCDMA)、およびCDMA2000に対抗するため、中国が推進する3G標準であるTD−SCDMAの開発を主導し支援してきた。中国政府は、中国が3Gの標準で他の選択肢を持つことが出来れば、外国企業(特に米国のクアルコム社)に支払うロイヤリティを減らすことが出来るだけでなく、中国のハイテク企業が世界中でより強力に活動するための支援になると期待していた。

 3Gにおける成功が、その他のハイテク分野においても中国発の標準を先導すると考えることは理にかなっている。しかし、問題は中国が3Gの標準の開発に着手したのが遅かったことである。そして、外国企業(主としてドイツのシーメンスが大唐電信技術(Datang Telecom Technology)など中国の複数のパートナーとTD−SCDMAの開発に長年協力してきた)からの支援を受け入れたものの、いまだTD−SCDMAに準拠したネットワークはどこにも存在しない。理由は単純で、TD−SCDMAは想定した能力を発揮できるまでには至っていないからだ(注)

(注)Why Beijing has 3G on hold(BusinessWeek online / November 23,2004)

 テレコム産業人の多くは、中国の情報産業部はこれらの3つの全部を3Gの標準として選択するだろうと長い間推測していた。しかし、中国発の標準が他の2つの標準(UMTSとCDMA2000)と概ね同程度と見なされるまでには到達していないことは明らかだ。だから、中国政府は立ち往生しているのだ。中国政府は2004年末までには3Gの免許付与を決定するだろう、というのが従来の業界の常識であったが、年の瀬が迫るにつれて何も起きないだろうということが明確になった、と前掲のビジネスウイーク誌は書いている。

■ 2005年中頃がタイム・リミット

 去る11月の中旬に香港で開催された3G見本市に参加した多くの人達は、この立ち往生はいつまで続くのか、という疑問を抱いたという。さらに、「ネットワークは不安定で信頼性に欠け、十分なTD−SCDMAコンパチブル端末を確保できない。」という中国情報産業部のTD−SCDMAに関する試験結果が報道されるに及んで、様々な憶測を呼んだようだ。

 前掲のビジネスウイーク誌によると、TD−SCDMA開発促進の最も積極的な外国企業の一つであるノーテル中国の幹部は、「確かに、技術の点で遅れていることもあるが、期待が高過ぎて、そのことがうまくいっていないという評価になっている。期待は持てるが、TD−SCDMAが商用化される前に、もっとやらねばならないことがある。」と語っているという。

 我慢が出来なくなりつつある人たちもいる。「確かに、TD−SCDMAは期待したレベルに達していない。しかし、TD−SCDMAが商用レベルに達するのを待って、これ以上3Gの導入を遅らせることは、中国にとって極めて大きなリスクとなりつつある。TD−SCDMAのために3Gの将来を犠牲にすることは、中国のためにほとんど意味がない。」とクアルコム中国の幹部は語っている。(前掲ビジネスウイーク誌)中国政府は2008年に北京で開催されるオリンピック競技を、経済及び技術力の展示場にすることを決定しており、3Gネットワークが実際に使われている状況を強く望んでいるという。

 このタイム・スケジュールから逆算すると、中国政府の「先送りゲーム」は間もなく終わらざるを得ないだろう、とビジネスウイーク誌は指摘している。3G免許付与の遅れが今後も続けば、3G端末を製造し世界中で販売したがっている華為技術(Huawei Technologies)やZTEのような会社を台無しにしかねない。強力な国内市場がなければ、これらの中国企業はサムスン、LG、ソニー・エリクソン、ノキアおよびモトローラなどの競争相手に比較して、著しく不利な立場に立たされることになる。2005年が3Gの免許を付与する年になるだろう、とビジネスウイーク誌は書いている。

 シーメンスは、TD−SCDMAに特化した合弁会社を2004年に華為技術と設立して開発を促進している。シーメンスは不満足な結果を出した最近の試験には参加していない。2004年12月から、同社による独自の試験を開始する予定であり、その結果については自信を持っている、と同社の幹部は語っている。2005年中頃には、商用に供する設備を出荷出来るという。

 TD−SCDMAに関心を示すAnalog Devices社(米)のような会社もあるが、TD−SCDMAに強い関心を示す国や企業が中国以外にほとんどないことも大きな問題である。関心が高まるまで、TD−SCDMA標準で動く携帯電話機を製造するために必要な投資のインセンティブがメーカーに働かないからだ。その結果、現在利用可能な端末は大きく不恰好(冷蔵庫位の大きさだという)である。TD−SCDMAの商用化に向けて、なすべきことは多く、残された時間は少ない、と前掲のビジネスウイーク誌は書いている。

■リークされた3G免許付与計画

最近、中国の新聞“China Daily”に、政府の極秘レポートがリークされ掲載された(注)。その記事によると、このレポートは国家発展及び改革委員会が作成し、中国の最高意思決定機関である国家諮問委員会に提出されたもので、国が過半を出資する固定通信会社及び携帯電話会社に3G免許を付与するのが適当とする内容だという。

(注)China’s 3G licencing plans leaked(Total Telecom online / 01 December 20

 この様なリークは、正式決定の前に世論の動向を観測するために、中国政府が時々用いる手法である。従って、このレポートの内容が政府の方針として具体化されるかどうかは分からない。また、このような重要な決定には、情報通信部に権限がないことがある。

 さらに同レポートは、現在のGSM網の自然な進化として中国移動にWCDMAの免許を、すでに5,000万回線のCDMA回線を構築している中国聯通にCDMA2000の免許を付与することを勧告していると報じている。ここまでは大方が予想していた通りだが、以下の固定通信2社(中国電信及び中国網通)に対する対応が、従来の噂や憶測と著しく異なっている。このレポートは、固定通信2社にTD−SCDMAの免許を付与するが、夫々の営業区域を固定通信の営業区域内に限定することを勧告している。中国電信は主として南部を、中国網通は主として北部を営業区域にしている。

 このレポートの青写真によれば、中国電信は2005年の3月までに上海、江蘇、浙江及び広東に商用ネットワークを構築して試験を開始し、試験が成功すれば6月に商用サービスに移行するという。試験の結果によって、固定通信2社はTD−SCDMAのネットワークだけで運用するか、WCDMAのネットワークを併設するかを決定する、とこのレポートは勧告しているという。なお、中国の固定通信の加入数は3億1,100万加入である。

 中国の通信産業でもう一つくすぶっている問題がある。それは、今後3Gやブロードバンド事業に多額の投資が必要になることが予想されるが、反面競争が激しくなり料金が値下りする傾向にあり、このまま推移すれば利益の減少、株価の低落など経営基盤を揺るがしかねない状況に陥らないかと、政府が危惧していることである。このような過当競争を回避し、規模の利益を追求できるようにするために、事態が深刻化する前に政府主導で合併に踏切るのではないか、といった噂や憶測が飛び交っている。

 ところで合併のシナリオはどんなものか(注)。一つのシナリオは、中国移動、中国聯通、中国電信および中国網通の4社(いずれも持ち株会社をニューヨーク証券取引所に上場)を2社に再編成する案である。もう一つのシナリオは、持ち株会社の一社を廃止し、その会社の移動通信網を残りの3社が「山分け」するというものだ。統合される一社は、異なる2つのネットワークの維持で苦闘している中国聯通の可能性が高いという。何も決まっていないし、何も起きないかも知れないが、とウォール・ストリート・ジャーナルは書いている。

(注)China’s telecom outlook dims as Beijin flexes its muscles(The Wall Street Journal online/November 17、2004)
この他、中国通信業界を巡る不透明な問題は、国が出資する通信会社と機器製造会社との契約を含む通信産業全般の活動に、「腐敗防止」の観点からの査察が開始(04年11月12日)されたことだろう。

■不振に喘ぐ中国の携帯電話機メーカー

 中国の携帯電話機メーカー各社が軒並み不振に喘いでいる。国内需要は堅調(2003年比8%増)だが、新製品の開発遅れなどで外資系メーカーにシェアを奪われているのが原因だ。生産過剰感が強く、在庫も急増している。急成長を遂げてきた中国の携帯電話機メーカーも、ここにきて踊り場を迎えたようだ(注)

(注)中国の携帯電話各社 競争激化で業績悪化(日本経済新聞 夕刊 04.11.15)

 中国における2004年7〜9月期の携帯電話機の販売台数は1,750万台で、前四半期比10.8%の増加になった。内訳はGSM電話機1,507万台、CDMA電話機243万台である。例年販売が盛り上らない4〜6月期の販売は前四半期比23%の減少だった。7〜9月期も販売が盛り上る時期ではないが、メーカーが在庫一掃セールや販売キャンペーンで攻勢をかけたことで販売が伸びた。第4四半期は休暇シーズンにあたり、販売はさらに伸びることが期待できるという(注)

(注)Chinese makers lose out as handset market grows(Total Telecom online / 30 November 2004)

 アナリストの分析によれば、第2四半期における国内メーカーの販売シェアは44〜45%だった。しかし第3四半期では、GSM市場で4%、CDMA市場で6%のシェアを海外メーカーに奪われたようだ。寧波波導(Ningbo Bird)、TCL集団及び夏新(Amoi)の中国大手3社は、いずれも販売数を減らした。海外の巨大携帯電話機メーカー、特にノキアとモトローラによって仕掛けられた値下げ攻勢に対し、対応が遅過ぎたことが第1の原因であるという。

 ノキア、モトローラ、サムスン、NECなどの外資系携帯電話機メーカーは、2004年に入ってから折り畳み式やカメラ付き機種などを積極的に投入したのに対し、開発力に劣る国内メーカーは新製品開発が遅れ、販売が停滞したのが第2の原因と見られる。販売不振は生産能力の拡大を急いできた中国国内メーカーに、膨大な在庫をもたらしている。2003年には中国メーカーの国内シェアが56%まで高まったが、2004年には50%を切るとみられている。

■3Gで世界市場に挑戦する華為技術

 そんな中で、西欧のより規模の大きなライバルとの競争力を増しつつある中国の低コスト通信設備メーカーが華為技術(Huawei Technologies)である。同社は、最近開発したWCDMAの標準に準拠した3G携帯端末2機種を市場に投入して、世界の3Gの端末リーグに参戦しようとしている。さらに、2005年の上半期には3G用データ・カード市場にも参入する予定である。

 同社は従来、中国国内と開発途上国向けに通信機器を販売してきたが、最近3G端末を世界市場で販売するよう方針を転換した。2005年には欧州を含む市場で、かなりのシェアを獲得することを期待している。華為技術は、ネットワーキング及びその他のバックエンド用通信機器メーカーとしてよく知られており、そのライバルはシーメンス、エリクソン、ノキア、ノーテル、ルーセント及びシスコなどである。携帯電話機メーカーとしての新たなライバルは、モトローラ、およびLGなどである(注)

(注)Huawei enters 3G phone market(The Wall Street Journal online / 16 November 2004)

 華為技術の2003年の売上げは38億ドルだったが、中国以外での売上げを倍増させ10億ドルを達成した。同社が新規に参入する携帯電話機の売上げ目標は4億ドルである。また、同社は香港の携帯電話会社サンデー・コミュニケーションズが展開する3Gにネットワーク機器を供給しているが、サンデーの新3G端末も同社が供給するとみられている。

 さらに最近、華為技術はオランダの携帯電話会社Telfort BV(注)に、3G用ネットワーク機器を売り込むことに成功した。決め手となったのは同社の技術力と低価格だった。取引価格は2〜4億ユーロとみられている。ネットワークの工事は2005年夏に開始される。同社が3G用ネットワーク機器を欧州に本格的に出荷するのは初めてのことである。同社が欧州および香港以外で3Gネットワーク機器を出荷しているのは、アラブ首長国連邦のEmirates Telecommunications、モーリシャスのEmtelおよびマレーシアのテレコム・マレーシアである。しかし、これらの携帯電話会社は3G端末を華為技術に発注していない。

(注)2003年10月に投資会社に買収されるまでは英国のmmO2のオランダ子会社。現在の支配的株主はオランダの投資家MarcelBoekhoorn、加入数約200万、04年の売上高4.25億ユーロ、利益は0.3億ユーロ。
(Telefort brokered ‘attractive’ 3G deal with Huawei-CEO / Dow Jones newswire /09 Dec 04)

特別研究員 本間 雅雄
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