2006年12月号(通巻213号)
ホーム > レポート > 世界の移動・パーソナル通信T&S >
世界の移動・パーソナル通信T&S
<移動通信サービス>

モビルコム、VoIPサービスのトライアルを開始

 モビルコム・オーストリアは2006年10月、携帯電話とブロードバンド回線に接続したパソコンで利用するVoIPサービス「A1オーバーIP(A1 over IP)」のトライアルを開始した。VoIPのプロバイダーはこれまでボネージやスカイプといったベンチャー系企業が主流であったが、2006年に入り移動通信事業者による参入も目立つようになってきた。

 今回のトライアルは、モビルコムの既存の携帯電話加入者を対象としている。サービスを利用するにはまずパソコンをDSLやケーブル、Wi−Fiなどのブロードバンド回線に接続し、対応ソフトウェアをインストールする。これにより、他のトライアル参加者やSIP(Session Initiation Protocol)対応のIP電話利用者に対するVoIP通話が可能となる。ユーザーIDには「0664」で始まる同社の携帯電話番号を利用し、この携帯電話番号宛の通話には、携帯電話とパソコンの双方が鳴る構造となっている。さらにSIPに準拠した携帯端末からの発信も可能であり、テレビ電話やIM(Instant Messaging)などの機能も利用できる。このシステムはカナダのソリューション・プロバイダー、カウンターパス(CounterPath Solutions, Inc)のソフトフォンのライセンスを受けて構築されている。トライアル・サービスは無料であり、当初2千ユーザーに限定して既存加入者に対しインターネットからオープンに利用者を募った。モビルコムによれば、ユーザーの反響は芳しく、VoIPのサービス領域の拡大やサービスの有料化も検討している。システムは当初独自規格である「OpenSER」を採用しているが、これをIMS(IP Multimedia Subsystem)ベースのシステムへ移行する。

 今回のトライアルで画期的な点は、パソコンと携帯電話に同時に着信することが可能であり、双方が同時に着信音を鳴らしいずれの媒体で着信を受けるかが決められる点である。さらに注目すべきなのは、移動通信事業者が無料VoIPサービスを提供するスカイプ等のベンチャー企業と同じ領域へ参入し、ユーザーIDに携帯電話番号を利用している点だ。これによりモビルコムでは、通信基盤やサービスが着実に融合へと向かいつつある通信業界で、顧客との最大の接点とも言える携帯電話番号を武器にユーザーを取り囲む戦略である。モビルコムは、オーストリアで約4割の加入者シェアを持つ同国最大の移動通信事業者であり、3Gサービスを欧州でも早期に手がけるなど新たな技術やサービスの導入に前向きな姿勢をとる傾向が強い。

 移動通信事業者はこれまで、移動通信網による音声通話収入のビジネスモデルを脅かす恐れのあるVoIPサービスに対しては、概して後ろ向きの姿勢を見せてきた。しかしこの守りの姿勢にも明らかに変化が見られるようになった。この背景には、スカイプなど無料IP電話ソフトが広範にかつ急速に普及しているという現状がある。モビルコムでは今回のVoIP着手について「VoIPはすでに現実であり、もし我々が手掛けなければ他社に先を越され、顧客を奪われるだけだ」ともコメントしている。英国ではハチスンがスカイプと提携し3G網でのVoIPサービスを始めている。英調査会社、アナリシス・リサーチでは、西欧では2015年までに携帯電話による通話の33%がVoIPとなるとも予測している。

 一方、IMSを軸とするFMC(Fixed Mobile Convergence)サービスを見てみると、ここでは日々様々な技術やソリューションが登場している。融合するネットワークを活用し移動や固定通信事業者、インターネット業界、CATV事業者など様々なプレイヤーがパイを奪い合うこの市場では、「クワドルプレイ」 「Web2.0」、「IPTV」などといったキーワードが盛んに飛び交い、刷新的さをアピールするソリューションの発表が相次ぎ、新たなサービスやビジネスモデルの模索が続いている。しかしながら画像付マルチメディア・サービスなどの付加サービスでは技術的なハードルも高く、品質が確保できないという業界関係者の声を頻繁に耳にするのも現状である。IMSによるFMCサービスの商用化では、当面はIPベースの音声通話を実現するアプリケーションが主流となることが予測される。

「A1 over IP」で可能となるサービス

パソコン画面のイメージ

宮下 洋子
▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。