2007年7月号(通巻220号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:市場・企業>

米MVNOのアンプド・モバイル、会社更生手続きを申請

 米国の新興MVNO(仮想移動網通信事業者)であるアンプド・モバイル(Amp’d Mobile)は2007年6月1日、米連邦破産法11条(チャプター11)を申請したことを明らかにした。米国では2005年秋から2006年春にかけて新興MVNOの設立が相次ぎ、その中でも同社は若年層向けサービスで注目を集めていたが、加入者獲得で苦戦が伝えられていた。同社の会社更生手続き申請は、MVNO事業の難しさを改めて浮き彫りにする格好となった。

■ブースト・モバイル創業者によるMVNO再参入も「債権回収不能」

 アンプド・モバイルが注目を浴びた理由は、若年層をターゲットにヒップホップ系の音楽やスポーツ等のコンテンツ提供で既存大手通信事業者と差別化するという戦略でMVNO「ブースト・モバイル(Boost Mobile)」(約400万加入、2006年12月末)の立ち上げに成功したピーター・アダートン氏が、ネクステル(当時。現スプリント・ネクステル)へ同社を売却した後数年を経て、再度参入したという点にある。しかし、ブーストでの成功の再現は(現時点では)ならなかった。アンプド・モバイルが会社更生を申請した直接的な理由は、約20万とされる同社顧客数の約40%が通信料の支払いを滞納し、その回収が進まなかったことである。若年層を相手にポストペイド・サービスを提供していた同社であるが、これがプリペイドでのサービス提供であれば回避できたであろう。

■不振の新興MVNOと、好調な大手MVNO

 2006年12月に早々と撤退したESPNモバイルは、携帯電話向けコンテンツ・プロバイダー「モバイルESPN」として移動通信業界に再参入したが、ファミリー向けをうたうディズニー・モバイルや、比較的裕福な若年層をターゲットに、大手SNS「マイスペース(MySpace)」との提携で注目されたヘリオ(Helio、韓国SKテレコムと米大手ISPアースリンクの合弁)なども加入者獲得での苦戦が伝えられている。その背景には、大手移動通信事業者(MNO)によるファミリー向け料金プランの充実、GPSによる位置情報サービスの提供、ウェブ2.0系といわれるような企業(YouTube等)との提携など、顧客ターゲットを絞って付加価値サービスを提供するプランを描いたMVNOにとって、MNOとの差別化が難しくなっていることがあるだろう。また販売チャネルの充実度で見劣りすることも新興MVNOにとっては課題であろう。

 その一方で、既存大手MVNOの好調さが伝えられている。ヒスパニック層をターゲットにプリペイド中心の安価なプランを提供するトラックフォン(TracFone)は約720万加入(2006年9月末)、バージン・モバイル(Virgin Mobile)USAは約460万加入(2006年12月末)と、順調に加入者を伸ばしている。両社に共通するのは、低価格戦略を前面に出し付加価値サービスでの差別化を狙わないこと、および新興MVNOに比して充実した販売チャネルを持っている(トラックフォンを取り扱う小売店舗の数は約6万といわれている)ことである。なお両社のARPUは大手MNOの半分程度と言われているが、それゆえ大手MNOがこうしたターゲット層にあまり積極的に乗り出してこないという点も両社にとっては好都合であろう。

■MVNOの市場参入機会

 日本でもここ数年、MVNOをめぐる議論は盛んであるが、海外で成功したMVNOを見ると、その多くは「販売チャネルの充実」「安価な料金プラン」「プリペイド」「ブランド力・知名度」「市場成長期に参入」「MNOとの補完関係」といった特徴を持ち、各社はそのうちのいくつかで共通しているように見える。また、市場からの退出を余儀なくされるMVNOも数多い。市場で参入の機会をうかがうMVNOにとって、その見極めはきわめて難しいものと思われる。

岸田 重行
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