2008年6月号(通巻231号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:ネットワーク&スタンダード>

IEEE802.21:異なる無線システム間のシームレスハンドオーバー

 米国のIEEE802委員会で検討されているハンドオーバー規格802.21「MIH(Media Independent Handover)」が同委員会で最終的な承認段階を迎えており、2008年第2四半期末までに標準化が完了する見通しという。802.21は、Wi−Fi/モバイルWiMAX/W−CDMA/CDMA2000のように無線システムが異なっていても、通話や通信を途絶えさせることなく利用したいシステムを切り替える技術である。本稿では、IEEE802.21規格の概要と、シームレスハンドオーバーを巡る動向を紹介する。

■ IEEE802.21とは

 IEEE802.21は、既存の802系有線および無線システム(802.3「イーサネット」や802.11「無線LAN」、802.16「広帯域無線アクセス=WiMAX」等)と非802系無線システム(3GPP系や3GPP2系などのセルラー)の間でシームレスなハンドオーバーを実現する規格である。異なる無線システム間のハンドオーバー(Heterogeneous HandoverもしくはVertical Handover)の実現をターゲットとしているが、単一無線システム内でのハンドオーバー(Homogeneous HandoverもしくはHorizontal Handover)も可能である。

図:802.21対応システムのレイヤー構造図:802.21対応システムのレイヤー構造 802.21の役割は、ハンドオーバーの実施に関わるレイヤー2(リンクレイヤー)の制御であり、ハンドオーバー前後のパケット転送やそのためのシグナリングは既存のレイヤー3以上のハンドオーバーの仕組み(例えば、IETFのモバイルIP等)を利用する。802.21がレイヤー2の状態(イベント)を監視し、それをレイヤー3以上に伝えることで、レイヤー3単独では不可能であった最適な無線リンクの選択や短時間かつ無切断でのリンク切り替え、省電力動作を実現する。米インターディジタルの実験によると、802.21の適用でハンドオーバー時間がレイヤー3単独制御の場合の約5分の1に短縮したという。

 ハンドオーバーは、携帯端末側に実装する小規模なクライアントソフトが周囲の無線環境(トリガー)を監視して制御をかける「端末主導型」の他に、ネットワーク側の802.21情報サーバーがハンドオーバー可能な無線システムのリストを持ち、リンクレイヤーの状態や上位レイヤー(サービス)によって制御をかける「ネットワーク主導型」、およびそれらの中間解(ネットワークが保有する情報を使って端末が制御をかける等)があり、様々な要素を加味した制御が可能である。

 802.21規格の標準化は最終段階に入っている。4回目のスポンサーバロットが2008年6月に完了する見込みで、その際に出されるコメント次第ではあるが、2008年7月のIEEE802 LMSC EC(LAN/MAN Standards Committee Executive Committee)の承認後、RevCom(Standards Review Committee)の承認を経て最終批准され、正式規格となる見込みである。

図:802.21規格の標準化スケジュール

■従来とは異なる系列の無線システムを導入する動き

 業界内でモバイルWiMAXやLTEといった新しいモバイルブロードバンド通信規格の動向に関心が集まるなか、各携帯電話事業者は3.9Gやその後の4G時代に主流となる無線通信規格を見据え、3GPPや3GPP2といった従来属していた系列を見直す動きを活発化させている。例えば、3GPP2系のCDMA2000方式を採用していた米スプリント・ネクステルがIEEE802系のモバイルWiMAXの採用に動き、同じく3GPP2系の米ベライゾン・ワイヤレスは3GPP系のLTEの採用を表明した。また、3GPP系のW−CDMAを採用するボーダフォンは、LTEとモバイルWiMAXの使い分けを検討している。また、同じ系列であっても3.5Gまでと3.9G以降では無線アクセス方式が異なる(注1)。

(注1):3.5G(3GPP系のHSPA、3GPP2系のEV−DO Rev.A/B)は符号分割多元接続(CDMA)、3.9G(3GPP系のLTE、3GGP2系のUMB)やモバイルWiMAXは直交周波数分割多元接続(OFDMA)

■異なる無線システム間を対象としたハンドオーバー技術の今後

 新しい無線通信システムの導入には設備更改が必要で、そのエリア展開は一朝一夕には進まないことから、長期間に渡って新旧システムを併存させると共に、サービス利用上支障がないように両者を連携させる必要がある。例えば、音声通話やデータ通信は、どちらのエリアに移動しても中断なく利用できることが望ましい。モトローラは2008年3月26日、業界で初めてCDMA2000 1x EV−DO Rev.AとLTEネットワーク間のハンドオーバーを成功させたと発表した。双方のパケット交換ネットワーク上で、VoIPやビデオストリーミングを切断なしで継続的に利用可能であるという。モトローラが使用している技術の詳細は不明であるが、前述のIEEE802.21規格を含め、このような異なる無線システム間のハンドオーバーを実現させる技術は、新規格へのマイグレーションにおいて極めて重要な要素となりそうだ。これは、例えばCDMA2000からW−CDMAへの見直しを早々に進めた韓国の携帯電話事業者(SKTやKTF)が、両規格間のシームレスハンドオーバー技術(Inter RAT Handover)を検討したことからも理解できる。異なる無線システム間のシームレスハンドオーバーは、今後は当たり前の機能になってゆくものと思われる。

石井 健司
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