2009年2月号(通巻239号)
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世界の移動・パーソナル通信T&S
<世界のニュース:市場・企業>

AT&Tがモバイル検索サービス事業者のChaChaと提携

 2008年12月、AT&Tはモバイル向け検索サービスを提供する新興企業のChaChaと提携することを発表した。AT&Tは最近、モバイル向けサービスやその利用環境の強化を目指し買収や提携を積極的に展開しており、今回の提携もこうした動きの一環と考えられる。本稿ではAT&TとChaChaの提携の概要やその狙いに加え、AT&Tが最近行った買収や提携の傾向について考察する。

■ユーザの質問に対してガイドが回答するモバイル検索サービスを提供

 ChaChaはインディアナ州(Carmel)に本社を置き、2008年1月からユーザの質問に対してガイド(注1)が回答するというモバイル向け検索サービスを提供する新興企業(従業員は約75名)である。ユーザは携帯電話からSMS若しくは音声(注2)で質問(注3)すると、数分後にガイドからSMSで回答を受け取ることができる。サービスは24時間無料(通話料、SMS送信料は別途必要)で利用可能となっている。質問はスポーツや文化、科学、政治、旅行、ビジネスなど幅広い分野をカバーしており、質問の内容に応じて専門のガイドが回答するシステムとなっている。

 ChaChaはこれまで2,700万の質問に回答しており、Nielsen Mobile社は、現在最も成長しているモバイル検索サービスだとしている。 2008年6月時点でのユーザ数は100万以上(定義などは不明)に達し、53%がリピーターとなっている。業績は公表していないものの、SMSで送付する回答に掲載する広告を主な収入源としている。ChaChaのサービスは、検索用語に関連するウェブへのリンクを表示する一般的な検索サービスと比較して、質問に対する回答そのものをSMSで送信することから、ユーザはウェブを一つ一つ探す手間を省くことができることに加え、求める回答を即座に得られる点を売りにしている。

(注1)18歳以上で英語を話すことなどが条件。時給3ドル〜9ドル。現在約55,000人。

(注2)音声対応サービスは2008年4月から開始。

(注3)音声は1−800−2ChaCha(1−800−224−2242)へ発信、SMSは242242へ送信。

■AT&Tはモバイル向けサービスの強化、ChaChaは利用者の拡大に期待

 今回の提携により、両社は共同プロモーションの展開に加え、ChaChaのモバイル検索サービスの高度化やテキスト広告などの開拓に取り組むとしている。しかし、その詳細は明らかになっていない。AT&Tは今回の提携に関して「音声およびローカル検索サービスを顧客のニーズに合ったものとする新たな方法を模索している。(中略)ChaChaとの提携は情報を人々の手元に直接届ける絶好の機会となる」と述べている。同社は、今後成長が見込まれるモバイル検索サービスをより正確かつ魅力的なものとすることで、モバイル向けサービスを強化することに加え、ローカル検索と組み合わせることで、広告など新たな収入につなげる狙いがあると思われる。一方、ChaChaは「我々のモバイル検索サービスをAT&Tの顧客に提供する機会が得られることを嬉しく思う」とコメントしており、AT&Tの持つ強力な顧客基盤へ自社のサービスの利用を拡大するチャンスと捉えているようだ。

■AT&Tは「携帯電話」を事業の中心としたい考え

 AT&Tは固定電話やブロードバンド、TV、携帯電話を連携させた様々なサービス(注4)を提供している。さらに、コンテンツをTVだけでなく、パソコンや携帯電話からも利用できる環境の実現を目指す「スリー・スクリーン戦略」を推進しており(詳細は2008年12月号を参照)、携帯電話が戦略の中心的な役割を担うとしている(注5)。また、優良なコンテンツやサービスを提供する事業者の発掘にも積極的に取り組む考えを表明していることもあり、今回の提携はこうした戦略を実現するためのものと考えられる。実際、AT&Tは最近、GPSを活用した企業向けの車輌管理サービスの提供でテレナブと提携したのに続き、Wi−Fiカバレッジの拡大を目指しWayportを買収するなど、積極的な動きを見せている。                             

(注4)屋内の様子をパソコンや携帯電話から確認可能な遠隔監視、外出先から携帯電話を通じたIPTVの録画など。

(注5)AT&Tは2008年2月のGSMA MOBILE WORLD CONGRESSの講演の中で「Wireless at the Heart of the Three Screen(携帯電話はスリー・スクリーン戦略の中心)」と言及している。

■ChaChaのビジネスモデルには限界があるとの見方も

  携帯電話からインターネットに接続することで必要な情報を検索することが可能なことから、ChaChaの将来性に疑問を呈する声もある。しかし、米国では2008年6月の1カ月で750億のSMSが送信されたことに加え、SMSの利用者が全モバイル加入者の77%に達するなど利用が活発である。一方、携帯電話からインターネットに接続したユーザは36%に留まる。したがって、モバイル加入者がChaChaのサービスを利用する環境は整っていると言える。こうした米国の市場環境は、ChaChaの検索サービスの成長を後押しする可能性のある要因の一つだろう。しかし懸念事項もある。ChaChaに送られる質問内容の多くは悪戯目的のものであるとも言われており、同社のモバイル検索サービスが収益に結び付いているのか不透明さが残る。実際にガイドの給与支払いが滞っているなど資金繰りに対する様々な問題も指摘されている。同社は今後、回答を有料化するなど新たな収入源の確保を模索しているとも言われているが、提携の成功にはこうした経営上の課題の解決が急務となる。

■今後はサービスを強化する買収へシフトするか

 AT&Tは過去数年、買収を通じその事業規模を拡大してきた。しかし、米国の移動体事業者大手4社のシェアが約85%に達したこともあり、大手同士による再編は一巡した感もある。同社は最近、ルーラルエリアでのカバレッジ拡大やローミングコストの削減を狙い、特定エリアで事業を展開する中小規模の移動体事業者を買収しており(注6)、今後はこうした動きと並行してモバイル向けサービスやその利用環境の強化を目指し、さらなる提携や買収を展開する可能性がある。AT&TとChaChaの提携はこれまでの買収とは一線を画すものだと言う意味で非常に興味深い。今後の取り組みや業績への効果が注目される。

(注6)2008年6月に米国中西部・南部など16州で事業を展開するDobson Communicationsを買収した。

浦原 高志
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