2009年4月号(通巻241号)
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コラム〜ICT雑感〜

ガラパゴス?

 最近、ICTに関して新聞や雑誌で「ガラパゴス」という言葉を目にすることが増えた。一方、総務省はICTの国際競争力強化に向けて旗振りを行っている。昨年来のアメリカの金融危機に端を発した世界不況はますます混迷の度を深め、これまで日本の産業を牽引してきた自動車産業もトヨタが営業赤字になる見込みなど日本経済にも深刻な影響を及ぼしている。そこで自動車産業よりも経済波及効果が大きいといわれるICT産業に日本経済立ち直りの牽引車になる期待が膨らんでいる。ICTの国際競争力強化のためには、先ず「ガラパゴス」から脱してグローバルスタンダードの「進化」を遂げる必要があるだろう。「ガラパゴス」でよく引き合いに出される第二世代の携帯電話は日本の優れた技術を持ちながらグローバルスタンダードになり得ず、海外出張、海外旅行では利用が出来ないという世界と互換性のない携帯電話となってしまった。

 中国では今年はじめ携帯電話の3Gライセンスが発給されたが、携帯加入者数では6億を超え、毎年1億の加入者が増える強大なマーケットである。本来ならば3Gで先行する日本の携帯メーカーにとってはビッグビジネスのチャンス到来のはずである。しかし、残念ながら日本携帯メーカーは既に次々と中国市場から撤退してしまっている。何故このような状態になってしまったのであろうか。その原因のひとつとして携帯メーカーに限らず日本のメーカーの中国におけるR&Dの拠点展開の遅れがあるのではなかろうか。欧米、韓国のメーカーは中国を巨大なマーケットと見ておりマーケットの中で商品開発を行うのに較べて、日本のメーカーは技術の流出を恐れてコアの技術開発は国内で、ノンコアの技術のみを移転して商品開発をするといわれている。欧米、韓国のメーカーにとっても知的財産の問題は重要であるが、ビジネスチャンスと技術流出のリスクを天秤に掛けてコア技術の中国移転に踏み切っていると分析されている。

 北京の北西部に「中関村」という中国のシリコンバレーがあり、ここには北京大学、清華大学など39の国家レベルの大学、213の研究機関、9,700社の企業が集積している。今回の経済危機以前から既に「海亀族」という優秀な中国頭脳の中国への回帰が始まっている。中国の貿易黒字で生み出された巨額の資金がイノベーション投資に回り、ベンチャー企業が興るという条件が整っている。欧米、韓国のメーカーは中国の優秀な頭脳を使いながら中国という巨大なマーケットでグローバル競争力を身につけている。一方、日本のメーカーはマーケットから離れた国内で技術開発の上流部分から国内の会社と協力して商品開発を行うため、出来上がった製品は品質は良くても現地のニーズに合わない高コストなものになり競争力を失っている。

 今後ICTの国際競争力強化のためには知的財産の流出というリスクをとっても中国現地にR&D拠点を設け、現地のニーズに合う製品を作り出していかなければならない。また、次世代のネットワーク構築にあたってはブロードバンドで先行する日韓と巨大なマーケット、イノベーションの潜在力を有する中国が協力して東アジア発の国際標準を図るべきである。また、ソフト、アプリケーション開発では米国西海岸の「シリコンバレー」のイノベーション力は依然として大きな影響力を有している。日本経済が再生できるかどうかの鍵は日本のICTが国際競争力を持てるかどうかにかかっていることは間違いない。内向き志向が強まる中で、米国とアジアの両方を睨みながら日本のICT産業の真のグローバル化が出来るかどうか岐路に差しかかっているように思う。 

グローバル研究グループ部長 真崎 秀介

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