2009年5月号(通巻242号)
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InfoComモバイル通信T&S

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巻頭”論”

ガラパゴス現象とは?

 日本のモバイル市場・産業は特殊日本化しており、海外に通用せず国際競争力がない、これをガラパゴス化または、ガラパゴス現象と指摘されています。メディア的には目を引くショッキングな命名なので、多くの人達に既に受け入れられた用語となっています。なかでも携帯通信事業者が作り上げたビジネスモデル、例えば採用された技術標準、オペレータ・ブランド端末と販売奨励金、世界の主流と異なるサービス開発などが日本の通信機器メーカーが海外展開する体力・気力を失わせた、との指摘が見られます。この一連の事象を称して「ガラパゴス」と言っているのでしょう。

 私は、これについて感想(決して反論ではありません)が2点あります。
 先ず、真実のガラパゴスは自然環境が大切に保護された貴重な生物多様性のある世界であって、決して世界の流儀に合致しない、棄て去るべき存在ではない、ということです。1978年世界自然遺産第1号登録のガラパゴスに対して失礼な言い方ではないかと思っています。少々、本質から的外れの議論になってしまいましたが、私は日本の現状はガラパゴスではなく、むしろ、その時代の環境に最も良く適応した“恐竜”の姿が相応しいと思います。つまり、新しい移動体通信技術が導入され、年率10%の人口普及率上昇で拡大する成長期の環境に最も適した姿になったという訳です。これは、携帯通信事業者だけが誘導したものでなく、通信機器メーカーも、販売代理店も、効率よく適応したものです。お蔭で世界で最も進んだサービスが最も普及した国と見られるようになり、ユーザーもそのことに満足を感ずるようになりました。もちろん、ローミングなど世界と標準が合わないことによる出遅れは不満として残っていましたが、成長することに忙しく後回しにされました。

 ところで、この恐竜化が進む中で、世界中で極く普通の2つのサービスが日本で姿を消したのは大変残念なことです。一つは、プリペイド式携帯電話サービスであり、2つ目は、ショート・メッセージ・サービス(SMS)です。前者は世界の多くの国では、むしろ主流のサービス形態で一般の利用者のほか、2台目需要や短期利用者、外国人の利用など多くの需要があり、人口普及率を高める(多くの国々では100%以上になります)ことに繋がっています。日本では、犯罪に利用される恐れからほとんど取り扱いがされていません(注)。人口普及率で日本より20%も高い国があるし、携帯電話市場の発展途上国ではほとんどがプリペイド式であることから、これこそ日本が「ガラパゴス」なのではないかと思います。本人確認や使用者チェックなどを工夫した上でサービスを再検討したらよい時期かと思います。

(注)例えば、NTTドコモでは、2005年3月31日に新規受付を終了しています。また、後者のSMSについても同様で、手軽に電話番号でメールがやり取りできるサービスなので海外との携帯メールでは重宝するサービスです。今後、ますます増える外国からの旅行者を迎える際に、SMSのサービスの向上(料金水準を含めて)と利便性の追求が求められています。多くの国では、音声サービスに匹敵するレベルに達しています。これもガラパゴスの一つでしょうか。

 恐竜となった日本の携帯電話サービスは、環境にあまりに上手に適応した結果、その変化に脆弱なものとなってしまいました。絶滅の危機にさえあります。問題は(1)変化に強くなること、(2)多様化すること、(3)素早くなること、に尽きます。要するに、哺乳類になれ、と言うことです。オープンで、幅広い、利用者の需要に応えるサービスをリスクを取って(即ち、ポートフォリオを組んで)進めることです。それには、水平分業モデルでも垂直統合モデルでもどちらでもよく、変化・多様化・スピードに耐えて適者生存を実現することが第一です。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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