2009年5月号(通巻242号)
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InfoComモバイル通信T&S

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コラム〜ICT雑感〜

IT革命の行方

 イギリスで先行した産業革命では機械工業化による産業の変革とそれに伴う社会構造が変革し工業社会が実現するのに1760年頃から1830年頃までの約70年を必要とした。農業革命、産業革命に次ぐ3度目の革命といわれるIT革命(情報革命)は、1980年代以降のコンピュータ・情報通信技術の革新により社会構造やライフスタイルへの約2世紀ぶりの劇的な変化をもたらす可能性がある。これまで経過した約30年は産業革命達成に要した期間の約半分に相当し、今我々は残された後半の四半世紀という新たな局面を迎えているのではないだろうか。情報入手の高速化・広範囲化や商取引の直接化といったネット世界での新しいスタイルが確立される一方、リアル社会でのライフスタイルや文化の面での変革がまだ本格的ではないのが現状である。元気がないと言われて久しい日本も、携帯電話の個人利用の先進性やFTTH、ADSL、CATVによるブロードバンドネットワークの装備面、利用価格の安さでは世界的に高い水準を達成しており革命後半での出番は充分残されているのではないだろう

飽和の兆候

  • 4月下旬に発表された携帯3社(ドコモ、KDDI、ソフトバンク)の2008年度の携帯電話端末の販売台数が前年度比で大幅に減少し4,000万台を割り、2009年度はさらに減少する見通しとなっている。新販売方式導入に伴う端末価格の高騰や事業者による期間拘束型プランの浸透、不況による消費低迷により買い替えサイクルの長期化が進行していることもあるが、携帯電話(PHS含む)の契約数が2009年3月で1億1,200万を突破し人口普及率も88%となり量的拡大は飽和状態に近づいていると見られる。
  • 固定網のブロードバンド化についてもFTTHの伸びが鈍化し始めている。2008年12月末での国内FTTH契約数は1,442万契約で暦年での純増数が309万契約、前年の340万契約に比べサービス開始以来初めての減少に転じている。景気悪化による住宅販売戸数の大幅な落ち込みに伴う新規契約獲得の伸び悩み等が原因とされているが、ADSL、CATVも含めたブロードバンド契約数が同期で既に3,000万契約を超えており光ファイバーならではの有望サービスの登場が待たれるところである。

 サービス利用促進の面ではモバイル事業者による新しいサービスへの取り組みが次々と打ち出されデータ通信のARPUが着実な増加を続けており、今後マーケットの大ブレイクが期待される動画配信ビジネスについても、通信・放送事業者を中心としたプレイヤーによるサービス拡大に弾みがついている。また、技術革新や社会のニーズに追随できずコンテンツ流通の大きなハードルとなっている著作権処理の制度を巡っても著作権法改正が現在進行中であり、さらにそれを待ちきれないお金を流す仕組み作りも進んでいる。

新たな飛躍へ

  • NTTドコモは新たな収益源の創出のため異業種との戦略的提携を活用してパーソナル化、ソーシャルサポート(ヘルスケア、環境・エコロジー事業)、サービスの融合を推進している。2008年11月に開始した「iコンシェル」(生活行動支援サービス)は4月11日で既に100万契約を突破しており、またTV通販との融合によるモバイルeコマース市場の拡大にも取り組もうとしている。
  • KDDIと三菱東京UFJ銀行が設立した「じぶん銀行」が2008年7月に営業開始し4月4日に50万口座を突破、生活密着型の「ケータイ銀行」を提供することによる新しいライフスタイルの提案に挑戦している。                                 
  • ソフトバンクはデータ通信のARPU向上に大きく力点をおきモバイルインターネットコンテンツ の充実により経営基盤の強化を目指している。
  • NTTぷららの提供する「ひかりTV」がサービス開始1年で50万契約を突破した。2008年3月サービス開始のNGNの帯域保証機能を活かした個人向けIPTVサービスで、地上デジタル放送の再送信やHD画質の動画コンテンツを訴求したもので、NTTの旧IPTVサービス(4thMEDIA、OCNシアター、オンデマンドTV)が10万契約に達するのに3〜4年かかっていることと比較するときわめて順調な利用が進んでいる。
  • 「第2日本テレビ」などテレビ各局が開始した動画配信サイトについても利用者数が伸張している。「NHKオンデマンド」は2008年12月のサービス開始以降、PCサービス向けサービスに加え、「アクトビラ」や「J:COM」、「ひかりTV」経由のテレビ向けサービスを展開しており、3月末現在で無料の会員登録数は4万3,436人、このうち月額1,470円で指定番組を視聴できる「見逃 し番組見放題パック」の契約者数は8,805人となっている。コンテンツが単品またはパック購入さ れた件数は3万9,893件となっており、有料映像配信サービスが緩やかながら立ち上がりの兆候を 見せ始めている。番組提供に当たっての著作権処理について、事前同意の確保に充分な努力を続け る一方で連絡の取れない番組出演者に対する金銭的補償の仕組みを構築することで、事前同意のと れない著作物使用の違法性を回避するという見切り発車を選択している。具体的には日本芸能実演 家団体協議会(芸団協)の実演家著作隣接権センター(CPRA)を通じてネット上で番組出演者 に名乗り出るよう呼びかける一方、名乗り出た出演者に補償金を支払えるよう供託金を預けている。
  • 権利者団体側での取り組みも徐々に進んでおり、映像コンテンツの著作隣接権についてテレビ番組 出演者権利処理一括受付組織が2009年5月発足の運びとなった。前述の「芸団協」ならびに「日本 音楽事業者協会」、「音楽製作者連盟」の3団体が仮称「映像コンテンツ権利処理機構」を立ち上 げ2010年4月よりネット配信に限り業務開始の予定としている。3団体にはテレビに出演する芸能 人の7〜8割が加盟しているとされコンテンツの流通促進が期待される。

 情報通信インフラの量的充実が飽和状態までに近づきつつあることと、新しいライフスタイルや文化の創出による飛躍が進まないことに加え、2008年の景気後退の影響で企業の投資意欲の減退や消費者の購買意欲の低迷が生じIT革命の行方は不透明になっているが、このような逆境的な時期こそ企業においても個人レベルにおいてもITを新規ビジネス創出やライフスタイルの革新のために上手に使いこなす智恵を出すチャンスの時期でもあり、新しい発想による新しい飛躍が起こることに期待したい。

マーケティング・ソリューション研究グループ 取締役 清水 博

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