2009年7月号(通巻244号)
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巻頭”論”

通信事業者の事業ポートフォリオ

 悪化の一途にあった景気動向も下げ渋りあるいは当面の底が見えた状況となっていますが、2009年3月期決算において電気通信事業者は相対的に良好な業績を達成しています。NTTは、連結ベースで日本一の利益を挙げましたし、また、KDDIもソフトバンクも比較的好調と言ってよい業績でした。ただ、これら大手通信事業者の収入内容を見ると引き続き大きな構造変化が起っていて、その流れがますます勢いを増しているのが分かります。即ち、電話からデータ(IP)への収入構造の変化に各社とも取り組んでいるということです。

 従来からの通信事業者にとって電話が収入の大宗であった期間は既に百年を超えており、企業風土あるいはDNAと言える状況となっていると思います。そして、更に重要な影響をもたらしたのは、電話収入の巨大さとインフラ性故に、どうしてもモノカルチャー的企業行動となりがちでインフラ構築以外の取り組みが後回しになる傾向にあったということです。特に公共企業体を母体とするNTTにおいてはそれが顕著であり、本来企業が持つべき事業ポートフォリオの発想が十分に発揮されて来なかったことがあげられます。ビジネスにおいては、成長性、安定性の両面から事業ポートフォリオを常に考えておく必要があります。情報通信分野においては、中核技術として、(1)ディジタル化、IP化、(2)ブロードバンド化、(3)境界を越える融合技術があり、これに立脚した事業ポートフォリオを構築すべきです。即ち、供給サイドに立ったインフラ構築に加えて需要サイドへの転換が必要です。大きな流れとして設備ベースから顧客ベースへ、回線からアカウントへ、のパラダイムシフトが起っているのです。

 具体的な取り組みとしては、タテ、ヨコ、グローバルの3次元の組み合わせが必要です。

 先ず、タテとは、上位レイヤーのプラットフォーム・ビジネスです。認証、配信、検索、決済などさまざまな機能がありますが、問題はビジネスモデルとして何に収入を求めるのか、課金(コミッション)、定額料金(サブスクリプション)、広告収入、の3つをどう組み合わせれば事業として成立し得るか、をよく研究する必要があります。今のところ、販売促進につながることから広告モデルが主流のようですが、アカウント(顧客ベース)を重視した事業としての発展性、拡大性から見ると定額料金プラス課金を基本に追加的な収入として広告を加えるのがベターだと思います。

  第2は、ヨコ、即ち、境界・垣根を越えたビジネスを生み出すことです。音楽、映像、放送、金融、クラウド・コンピューティングなどの動きは既に始まっていますが、更に、物流、物販、環境・エネルギー、健康・医療まで事業分野は拡がります。通信事業者が得意なのは、コンテンツの産業化ではなく、逆に、産業(社会・経済活動)のコンテンツ化ではないでしょうか。ライフ・ログやソーシャル・ログの活用など解決すべきことは沢山ありますが、需要サイドに立ってヨコに融合するビジネスを追及する時です。新しいサービスが登場することでしょう。

 最後のグローバルは当然のことでしょう。産業や社会活動が国際化している以上、日本国内だけで「タテ」、「ヨコ」を考えてはいけません。国際通信、国際ローミング、ソリューション、海外キャリアなど多岐に渉りますが、忘れてはならないことは、アップルやグーグル、またはRIMの事業活動は本国に設置されたサーバーをベースに行われていると言うことです。通信事業はインフラであり公共性が高いのですべての取り扱い、例えば、通信処理や情報処理が当該国で行われるべきであるという考え方も、いずれ幻想となる時代が来るでしょう。こうしたグローバル化に資本規制はもはや役に立ちません。ですから、グローバルを舞台としたビジネスが国益や国(利用者を含めた)の安心・安全のために重要なのです。

 タテ・ヨコ・グローバルの事業ポートフォリオを展開するとしても通信事業者にとってコアのインフラは重要です。そのインフラをブロードバンド化・IP化へと転換を進めると同時に、事業を顧客(アカウント)中心にシフトするよう垂直・水平的に統合、連携する途を更に追求してもらいたいと思います。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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