2009年7月号(通巻244号)
ホーム > InfoComモバイル通信T&S >
InfoComモバイル通信T&S

※この記事は、会員サービス「InfoComモバイル通信ニューズレター」より一部を無料で公開しているものです。

テクノロジー関連(無線:ワイヤレス)

日本におけるLTE展開の各社比較〜総務省の公開情報から読み取れるもの

[tweet]

 2009年6月10日、総務省は「3.9世代移動通信システムの導入のための特定基地局の開設計画の認定」について発表した。3.9世代方式導入にあたって、1.5/1.7GHz帯の新規周波数帯域を申請のあった4社に割り当てるというものである。     

 この発表の際、各社の開設計画の一部が公表され、その中には極めて具体的な数値も含まれている。この公表データからいくつかの背景を読み取ることができる。

LTEのエリア展開スタンス

 開設計画の表内に「エリア展開」欄が2カ所(上段「3.9世代等の導入」、下段「1.5/1.7GHz帯の使用」)あるが、これらを見ると、各社のエリア展開の重点の違いが推測できる。

 2014年度末までの計画での比較ではあるが、「3.9世代等の導入」において「1.5/2GHz帯」で約20,000局を設置するとするNTTドコモが人口カバー率を約50%とし、基地局数ではNTTドコモの半数以下(9,000局)とするソフトバンクモバイルが人口カバー率を約60%と見込んでいる。市町村の役場の所在地点をカバーすれば、その市町村の人口をカバー率にカウントできるという決め事からすれば、相対的に「人口の多い地域へ重点」を置くNTTドコモと「人口の少ない地域への面的なカバーを優先」するソフトバンク、といったスタンスの違いがあると考えられる。

 同様に「1.5/1.7GHz帯の使用」においてイーモバイルとKDDIを見ると、イーモバイルはKDDIに対し、ほぼ同じ基地局数でありながら人口カバー率で約20ポイント上回る見込みであり、KDDIよりも面的なカバーを優先させるものと考えられる。この帯域については、KDDIとNTTドコモにおいても計画している基地局数と人口カバー率が近く、似たようなスタンスにあるように思われる。

LTEへの加入者移行

 また3.9世代等での「加入数見込み」を見ると、加入者獲得および移行ペースの読みに違いがある。2014年度末時点での加入数見込みを、現在の携帯電話加入数で除算してみるとNTTドコモは「約1/3」、ソフトバンクモバイルは「約1/4」、KDDIは「約1/3」となる。2014年度末時点で各社の加入者シェアがあまり変動しない前提で考えると、ソフトバンクモバイルでは3.9世代等での加入者獲得および移行ペースをやや弱めに見積もっていると言えよう。ちなみにイーモバイルの2014年度末見込みは2009年5月末時点の加入者の「約2倍」となる。

1基地局当たり設備投資額

 基地局数と設備投資額から、1基地局当たりの設備投資額が見えてくる。1.5/1.7GHz帯での大手3社の数値を見ると、1基地局当たり約2,000万円と算出できる。一方、イーモバイルの場合は約1,000万円となり、大手3社とは大きく異なっている。基地局は、その大きさや機能等で費用が異なり、また設置の目的(面的なカバーか、設備逼迫の緩和か、等)によって必要な基地局も異なると考えられるため、単純な比較は難しいが、加入数規模やターゲット市場の違いから、イーモバイルが1基地局当たり費用を抑えることは可能であろう。

LTEの速度競争

 表を見る限り、LTEに採用するMIMO技術は各社とも「2×2」で同じであるが、通信に用いる帯域幅としての想定が「5MHz」のイーモバイル、ソフトバンクモバイル、「10MHz」のKDDI、「15MHz」のNTTドコモ、と大きく異なっている。通信速度の上限値は、1通信に用いる帯域幅に比例するため、現状の想定でサービス提供が始まるとすれば、NTTドコモが最も高速なサービスを実現する可能性が高く、その場合は競争上有利になる。もっとも、所与の周波数帯域の枠の中で、1通信に用いる帯域幅を広げると収容できるユーザー数は反比例して少なくなるため、加入者数が多い通信事業者はそれだけ設備をきっちり設置する必要がある。

本命視される700〜900MHz帯、2GHz帯の扱い

 大手3社の3.9世代等の導入にあたり、現在サービス提供している周波数帯と今回の1.5GHz帯との使い分けについては、過去の各社発言や今回の開設計画から以下の進め方になることがわかる。

NTTドコモ・・・まず2GHz帯でLTEを導入し、1.5GHz帯には後からLTEを導入

KDDI・・・800MHzと1.5GHz帯でLTEを導入。2GHz帯ではLTE導入までEV−DOを3本束ねて高速化

ソフトバンクモバイル・・・まず1.5GHz帯でHSPA、DC−HSDPAを導入。その後2GHz帯でLTEを導入

 今回の割り当ては1.5/1.7GHz帯であり、大手各社がサービス展開の中心として考えているであろう「800MHz帯」についてはNTTドコモとソフトバンクの欄からは読み取れない。またKDDIの欄からは「2GHz」でのLTEについてのスタンスが読み取れない。また、どこまで「1.5GHz」に投資するのかも不明である。
また、海外との周波数の調和については各社とも強く意識しているであろう。世界的に見ると、現在W−CDMAサービスは2GHz帯で提供されている(例外はある)が、米ベライゾン・ワイヤレスはLTEを700MHz帯で導入するとし、欧州各国では地上波テレビのデジタル化に伴って空く700MHz帯(デジタル配当と呼ばれる)を携帯電話向けに付与する方針であるなど、700〜900MHz帯はいずれ世界の多くの国でLTE等に利用される可能性が十分にある。この帯域は電波特性から2GHz帯よりもエリアカバーに有利であるため、設備投資効率の面からも重要視される。
また、こうした複数の周波数帯にどのような端末を対応させるのかも重要な観点である。USBドングル型かハンドセット型か。さらに、音声通信をどう提供していくのか。KDDI小野寺社長は3.9世代導入当初からハンドセット型端末の投入を考えているとしており、また同社では音声通信を当面CDMA2000 1xで提供する考えを明らかにしている。ソフトバンクモバイル孫社長は、3.9世代導入当初はデータ通信端末がメインになるとしている。各社の3.9世代への取り組みはかなり違ったものになると思われ、今後の動向は読み切れない。

岸田 重行

▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。