2009年7月号(通巻244号)
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コラム〜ICT雑感〜

求む「マイケル・ジャクソン」的マルチ融合携帯端末!

 先日(と言ってもこの文章が活字になる頃には既に旧聞に属す話題となっていると思うが)、マイケル・ジャクソンが亡くなった。同年齢であり、彼の活躍した80年代に若手社員時代を過ごした私にとっては、バブル経済の経験とともに非常に印象の強い存在であり、それだけにその死はショッキングな出来事であった。

 マイケルの最大のヒットアルバムとなった「スリラー」は世界で1億400万枚のセールスを記録したということだが、そのリリースは1982年、ちょうど音楽CDが発売された年でもある。その後、マイケルは「キング・オブ・ポップ」と呼ばれ、音楽業界のトップスターに登りつめることになるわけだが、音楽媒体としてのCDもその後、オールドメディアのLPレコードのお株を奪い(音楽CDの販売数は1986年にLPレコードの販売数を追い抜いた)、音楽媒体のトップの座に君臨してきた。ところが、最近、iPodとiTunes Storeに代表される楽曲のインターネット配信の普及・拡大等の影響を受け、音楽CDの生産数は2000年をピークに年々減少を続けている(2000年ピーク時38万枚、2008年24万枚、ピーク時の約4割減)。

 また、マイケルが当時注目されたのは、音楽だけではなく、ムーンウォークに代表されるダンスパフォーマンスであり、これでダンスの歴史が変わったとも言われているのだが、そうしたダンスもフィーチャーした、当時としては画期的な「スリラー」の13分間もののプロモーションビデオが音楽情報番組MTVで放送され、更には音楽ビデオとしても百万本以上もの販売実績となった。まさに「音楽と映像の融合」のパイオニアであった。

 ビデオテープ(VHS)についても、その後、DVDに王座を明け渡し、最近では、ブルーレイなども発売されたが、「物」として映像記録媒体ではなく、インターネットによる映像配信サービスの提供や映像のダウンロード販売が活況を呈しており、更には一般消費者が自ら制作した映像を公開するYou Tubeのようなシステムが大はやりになるなど、今では音楽産業・映画会社・放送会社から情報(音楽・映像)を一方的に供給されるのではなく、自ら情報を発信することが当たり前の世の中となってきた。

 こうした世の中になったのだから、このような素晴らしいデジタル技術を利用でき、また利用することが得意な若者、若手アーティストの中から、マイケルを超えるような大スターがどんどん出てきてもよいようなものだが、必ずしもそうはなっていない。最近の新曲を聞いてもあまり耳に残らないし、残ったとしてもどこかで聞いたことのあるようだなと思うと、昔のヒット曲のカバーだったりと、残念ながら発達した技術の恩恵を受けていないと感じるのは、年齢のせいだろうか。それとも、ここでもロングテール現象とやらで、大ヒットが出ない代わりに、そこそこのものが少しずつ売れて、全体としては算盤が合う、ということになっているのかどうか。いずれにしても、音楽業界は、技術革新とともに、1982年当時とは大きく様変わりしてしまったが、こうした変化は、音楽業界が音・映像という最もデジタル化により品質(音質、画質)の向上が図りやすいものを商品とし、またデジタル化によりインターネットに乗りやすかったことが、劇的な構造変化をもたらした。しかし、こうした変化は、音楽業界にはとどまらない。ネットショッピングや消費者が売り手として参加するネットオークション、eコマース、ネットによる株式取引、等々、他の業界、分野にも、規模の大小はあるが変化は確実に起きている。しかしながら、マイケル並みのスタープレイヤーは出現していないのではないか。

  最近、こうしたインターネットの利用環境を下支えするFTTHの普及の伸びが話題になることが多い。確かにこれまでは、パソコンを持っている人が、高速インターネット接続とIP電話をセットで利用し、従来のADSLと固定電話よりも安いかほぼ同じ値段、ということで、FTTHに乗り換えてきた。そういう意味で、従来はパソコンと電話がFTTH普及の最大の鍵だった、ということなのだろう。しかし、今後、パソコンを持っていない家庭や、携帯電話しか持っていない家庭、というか単身者世帯などに、FTTHが普及するには、一体、何が必要なのか。今、業界で注目しているのがテレビ、というわけで、2011年のアナログ地上波停止に伴う地デジ対応の液晶・プラズマテレビへの買い替え特需、更には環境対策・景気対策のためのエコポイント特需、を期待して、テレビにFTTHを接続しようという戦略。確かに、パソコンはなくてもテレビのない家庭はない、ということで、光ブロードバンドの普及の決め手となるか、注目されるところだ。

 しかしながら、今、テレビ+ブロードバンドで見られるのは、従来の延長線上のサービス。我も我もと争って光ブロードバンドに行列ができるほどの爆発的な普及、拡大に火をつけるには、マイケル並みのスタープレイヤーが必要だ。これまでのIP電話に代わるキラーアプリケーションとしてはTVの他に何が考えられるか。

 まず、電話やTVのように広く普及しているものであること、特に人口が減少していく今後は、世帯単位よりもパーソナルユースに対応し、個々人が使用するようなものであることが市場拡大の鍵となる。また当然デジタル技術になじむものであること、というようなことを素人なりに考えてみると、やはりここまで爆発的に普及した携帯電話やiPod的な携帯音楽・映像機器、すなわち「携帯情報(通信・放送・音楽・映像・ゲーム・書籍・マンガ・ワープロ機能等情報処理 等)融合端末」とFTTHとの融合、ということになるのではないか。

 ICTに限らず何の普及においても、魅力的なヒューマンインタフェース(使い勝手)、利用者が接する「端末」が重要。使ってもらってナンボの世界だ。家でFTTHコンセントに接続し(もちろん複数台の接続が可能)、必要な又は欲しい大量の情報を瞬時にダウンロード入手し「端末」に蓄積、外に持ち出して携帯電話としての利用はもちろん、電車の中で音楽を聴き映画・TVを見て電子書籍を読み、お客さんの所に行ってプロジェクターとして提案書を映写、喫茶店で営業日報を入力し会社へ送信、今日はこれで直帰しますとタイムカード機能で会社へ報告、家に帰って再びFTTHコンセントに接続し固定電話に早変わり、そしてまた情報を瞬時にダウンロード又はアップロードする、というようなFTTHと融合する「携帯情報融合端末」を6〜7万円程度で発売できないものか。私なら買います。求む「マイケル・ジャクソン」的マルチ融合携帯端末!

企画総務グループ/情報サービスビジネスグループ部長 伊藤 史典

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