2010年6月4日掲載

2010年4月号(通巻253号)

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InfoComモバイル通信T&S

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[tweet] 巻頭”論”

ブロードバンド回線は光の道と電波の道で

ブロードバンド通信回線の普及・展開についての議論が続いています。曰く、コンクリートの道から光の道へ、光ファイバーのエリアカバー率9割以上でもブロードバンドは3割の普及、など光ファイバーの全国展開に関する政策議論が激しさを増しています。この場合、ブロードバンド回線の整備を光ファイバー建設で行うという、いわゆるインフラ先行論が中心となっており、2015年までに日本の4,900万世帯全てに光ファイバー回線を敷くことが目標となっています。


その一方で、光ファイバー回線100%敷設をいち早く実現した地域が新潟県内や岡山県内にありますが、残念ながら光サービスの契約率は3割でしかないのが実状です。利用者をひきつけるブロードバンド・サービスが求められて久しいが、現状ではまだ十分に開発されてはいません。国や地方の行政サービスでもほとんどブロードバンド回線は活用されていないだけでなく、その前提条件となる国民共通IDの取り組みすら進んでいません。


日本国民全体への普及を目指す場合、テレビはほぼ全戸にありますが、1人1台ではありません。PC(=インターネット)の普及は70%程度でブロードバンドの利用の上では100%にはまだ遠い水準です。PCは初期設定をはじめ端末操作が難しく、情報流失やウィルス対策など管理面でどうしても制約が伴います。その点テレビは操作が易しく適当な端末ですが双方向性が十分ではないし、1人1台でないので個人特定のサービスは困難です。つまり、テレビ、PCには一長一短があり、光の道だけではサービスやコンテンツを充実しても限界があると考えられます。ブロードバンド普及率30%を引き上げるには、光の道に電波の道を加えること、つまり、電波の道と光の道を重層化・融合して取り組むことがポイントであると考えます。

日本の携帯端末・サービスは国際競争力がなく、世界と異なるその独自性からガラパゴスと揶揄されて来ましたが、一方、無線インフラ面では世界的に見て3Gの普及・展開が進んでおり、さらに、3.9G=LTEのエリア展開はオーバーレイ型で3Gと重畳してサービスされる計画となっています。携帯端末は、個人契約(又は個人所有)をベースに既に対人口90%以上の普及になっていますし、ネットワークと端末の組み合わせから、初期設定がほとんど無く、操作性の良さなどに特色があり、PCより幅広い層に利用が拡がっています。光の道と電波の道を政策的に重畳して取り組んでこそ、豊富なサービスやコンテンツが可能となります。

ここで問題となるのは、光ファイバーのみに着目してNTT東西の市場支配力を議論することでしょう。特に、一部の識者が主張する光アクセス回線のNTT東西からの分離、即ち、業界で指摘される「構造分離」は世界の大きな流れ、時代の動きにマッチしていないと言わざるを得ません。構造分離された事業の運営者は、国によって独占を保障された機関で光ファイバー回線の貸し出しを一元的に行う企業体が構想されていることに疑問を覚えます。タックス・ペイヤーから見ると、これ以上国の負担=負債を増加させる可能性には同意出来ません。また、既設の光ファイバーはNTT東西だけでなく、KDDIや電力会社などが敷設しており、これらの事業分離は法律的・経済的にはどうするのでしょうか。これまで政策的に取り組んできた設備競争はどうなるのでしょうか。ユーザーのみならず、債権者や株主の権利保護なくしては市場経済は成立しません。

さらに、ここでEUや米国での新しい動きに着目すべきでしょう。EUでは、欧州委員会がかねて立案していた固定通信事業者の卸部門の分離義務づけをEU理事会と欧州議会が修正を加え、政治主導の下で同一事業体の中における機能分離にすら極めて厳しい制約を付して、例外的なケースとして是正策は正当化されることがあり得る(may be justified)という、従来とは異なる内容を決定しました。また、米国では、3月、FCCがブロードバンド(ここでは100Mbps)回線の利用できる「全米ブロードバンド計画(NBP)」を策定し議会に提出しました。これには光ファイバーのインフラ整備に加えて、クラウド・コンピューティングなどのIT分野で世界をリードしようとする米国の意図と同時に、携帯端末・通信分野でも同様に米国発を追及しようとする姿勢が見られます。そのためには、iPhoneなどスマートフォン時代には大容量の無線通信インフラが不可欠であるとの認識を示しています。結局、無線周波数の確保が必要であり、国の周波数政策が急務となっているのです。そこで、放送局との周波数の再編成が求められ、米国では「放送はCATVなど有線で、通信は無線でまかなう」との見方も出ていると言われています。(日本経済新聞 2010年3月20日朝刊)

翻って、我が国では総務省タスクフォースで議論が進められていますが、行政や通信各社の思惑が絡み合って世界の大きな流れや時代の動きに必ずしも沿っている様には見えないところが残念です。日本国内だけでの議論に終始すべきではなく、単純な輸出振興だけでも本質的な解決には繋がりません。
ケータイ先進国日本の築き上げてきた特色を活かしたブロードバンド戦略が求められています。光の道だけでなく、電波の道を加えた、固定/無線、通信/放送の融合を進める政策、インフラ先行ではないサービス/コンテンツ振興策、加えて国内だけでなく世界、特にアジアに目を向けた情報のハブ(例えば、データセンターやクラウド・コンピューティングなど)としての日本の競争力追及を政策的に支援することなど、早急の課題が取り上げられることを期待したい。


株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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