2011年3月31日掲載

2011年2月号(通巻263号)

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InfoComモバイル通信T&S

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巻頭”論”

オーバーレイ(重層)化する通信ネットワークの活用

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 昨年12月24日に、NTTドコモが3.9世代と呼ばれるLTE方式のサービスをスタートしました。KDDIなど他の携帯会社もLTEを開始する計画を持っており、いよいよLTE時代に突入することになります。世界では、スウェーデンのテリア・ソネラ、米国のベライゾンなどが既にLTEを開始しており、それに続くサービス開始であり、従来からNTTドコモがコメントしていたとおりの先頭集団に加わった形でのスタートとなりました。

 今回のLTEの開始は、通信サービスの高速化の流れの中で見ると、固定(有線)と携帯(無線)の通信速度がようやく近接し、携帯通信において100Mbpsが現実的視野に入る画期的な事象と言えるものです。これは、単純に通信速度が64kbpsから100Mbpsに約10年かかって高速化されて来た単線的な進歩を意味するだけでなく、固定と携帯の通信速度が高速化と同時に近接することで、通信ネットワークのオーバーレイ(重層)化が現実のものとなることでもあります。即ち、これまでの通信技術をベースにしたサービスの変化は、電信から電話へ、アナログからデジタルへ、固定から携帯へ、というように選択(択一)的移行やどちらかを主流とする補完関係に基づいて進んで来ました。ネットワークはこれまで、(1)どちらかが良いのか、(2)どちらを適用するのか、など選別的指向から捉えられて来た傾向にあったと思います。

 特に、長らく電話サービスを中心に据えて来た我が国の通信サービスでは、携帯(移動体)分野のNTTからの分離の議論の際にも、固定電話の独占に対する携帯電話からの競争が強く主張された歴史があります。ネットワークサービスとして、どちらが良いのか、どちらが選択されるのかが第一の命題となっていた風潮がありました。従って、固定電話も携帯電話も両方とも使用しているユーザーの動向や利用の傾向などに必ずしも敏感ではなかった気がしています。現実に、固定電話と携帯電話とを両方視野に入れた経年的な統計データは必ずしも十分に存在していません。業界的にも、行政的にも両者は区分されて来た訳です。

 ところが、インターネットの普及とICTの進展がこうした事態を変えつつあることは御承知のとおりです。インターネットの基盤となっているIP化によって、技術の組み合わせとサービスの融合が飛躍的に進み、ネットワークも選別や補完の関係ではなく、両立・融合が現実化して来ました。特に、IP化という通信方式だけでなく、ユーザーにとって最も関心の高い通信速度においても、固定(有線)と携帯(無線)とで格差が小さくなるに従って、ネットワークのオーバーレイ化を前提とした利用方法が一層進むことになります。まずは、ネットワークのバックアップ手段がオーバーレイ化によって増加するので、サービスの信頼性・安定性が大きく高まることになりますし、「コグニティブ」機能を活用したデバイスやサービスがさらに普及していくことでしょう。

 ユーザーにとっては、通信手段を提供するネットワークが多数・多様に競争的に存在することが望ましく、IP化/IT化を通じてオーバーレイ化して行くことが求められています。LTEは、既存の3G及び3.5Gのモバイルネットワークに対してオーバーレイ化してエリアを拡大していく計画と発表されていますが、モバイルサービスだけでなく、エリアカバー率90%以上となっている光ファイ  バー・ネットワークとサービスやデバイスの融合を図りながら進めていくことが求められます。政府の政策となっている「光の道」では、光ファイバーの設置と利活用が前面に出ていますが、オーバーレイ化している携帯のネットワーク、さらには最近、大きな発展を見せているWi−Fi、無線LANをネットワークとして利活用してこそ、光ファイバーの利用率も向上するものと考えます。サービス面から見る限り、固定と携帯を区分して捉えることは、グローバル・スタンダードではなくなっているし、世界の潮流からは“ガラパゴス化”していると感じています。

 通信ネットワークのオーバーレイ化の動向を、社会に対する個人のあり方、即ち、個人と社会の関係性の変化、という側面から見ると、次のように、大きな社会的行動の変遷と重なるところがあるようです。

表

 これまで私達が形成してきた大衆社会では、個人の自立・自律を前提に、情報メディアとして、多数向けのマス・コミュニケーションと1対1のパーソナル・コミュニケーションを両立させながら進展して来ました。その間、ネットワークは、電話の自動即時化、長距離通信の大量・低廉化、パーソナル通信としての携帯電話の普及、など社会構造や社会的行動の変化と相互に連関して発展して来ました。そして、いよいよインターネットの時代を迎えた訳です。ネットワークのIP化は、技術的には、ICTの革新や光ファイバーと無線サービスの拡大などと並行して急速に進められ、今日のインターネット社会、SNSの隆盛、即ち、ソーシャル・メディアの一般化をもたらしました。

 個人の緩い相互関係というソーシャル社会では、大衆社会の標語であった、いつでも、どこでも、誰とでも、に加えて「今だけ、ここだけ、あなただけ」という、ブロードバンドとユビキタスとを加えた通信ネットワークが必要とされることでしょう。それこそ、ネットワークのオーバーレイ化が、これまで以上に求められることになります。光ファイバーも、3Gも、LTEも、さらにはWi−Fi、無線LANも、加えて、マルチメディア放送などもオーバーレイ化する通信ネットワークの一員となることでしょう。既に、個々のネットワークは存在しているので、これからは、いかに両立・融合して利活用していくのか、具体的なデバイスやサービスの開発とその運営体制をどのように構築していくのかが課題です。世界でLTEが開始され、光ファイバーの建設・普及が進む中、オーバーレイ化するネットワークの潮琉に我が国が先頭集団の位置を確保するには、テクノロジーだけではない、

 幅広いイノベーションが必要となります。日本の成長戦略の一つとも言えるでしょう。

 最後に、通信ネットワークのオーバーレイ化およびソーシャルな人間・社会関係(SNS)がもたらす通信ネットワーク上の新しい現象について2点触れておきたいと思います。それは、通信ネットワーク活用の2極分化ということです

 第一は、トラフィック集中への対応です。社会の多くが緩い人間関係を求めることは、現時点より多くの人達が、より緩いがデータ量としては大量となる映像情報を求めるようになること、また、時間的に集中した情報交換を求めるようになることを意味しています。従って、超高速ブロードバンドのオーバーレイ利用による対応、即ち、光ファイバーとLTE、Wi−Fi等の無線通信の重層的利用を現実のサービス開発とネットワーク管理面、さらには料金戦略や事業運営体制に取り入れる研究が必要です。

 第二は、逆にオーバーレイ化したネットワークの利用効率の向上策の追及です。通信ネットワークのオーバーレイ化とは、交通網に例えれば、航空、新幹線、在来線、高速道路、一般道、長距離バス、市内バス、タクシー、自家用車など様々な移動手段が提供されている状態です。交通網では全体の効率がしばしば議論となるように、通信ネットワークにおいても、ネットワーク全体の利用効率を個々のネットワークとのバランスを取りながらどのように高めていくのかが、通信会社だけの問題ではなく、社会的・経済的な課題となります。要するに、空き時間・空き設備の利活用方法が重要となると言うことです。このためには、いつでも、オーバーレイ化した通信ネットワークが簡便な手続き・手順で使用可能となるように通信モジュールのエンベッド化などの一般化を進めると同時に、制度論として、空き時間や空き設備についての通信サービスのデタリフ化(自由化)を図るなど、従来とは別の角度からの規制緩和の取り組みが必要となっていると考えます。オーバーレイ化していく通信ネットワークがもたらすイノベーションや新たな社会変化とその先の世界に注目しています。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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