2011年3月31日掲載

2011年2月号(通巻263号)

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コラム〜ICT雑感〜

クラウドの現在、過去、未来

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 最近、日々の新聞や一般誌の誌上で「クラウド」という言葉を見ない日はない。まずはイタリアでコンセプトを、次にパリやNYや東京のファッションショーで流行のトレンドをつくり、世界的流行を狙うファッション業界のごとく、アメリカ東海岸でコンセプトを、次にシリコンバレーで実証実験を行ってビジネスの世界に3文字熟語でトレンドをつくりだすのが得意だったIT産業といえども、ここまで一般に「クラウド」という言葉が普及するとは考えていなかったのではないだろうか?ビックコミック誌の「ゴルゴ13」にまで旬な題材としてとりあげられるまでなったことに正直驚いている。

 そんななか、昨年11月開催のシステム監査学会に、統一論題「クラウドコンピューティングとシステム監査」をみて参加された方も多いと思う。満席の会場での基調講演冒頭でNTTデータの山田伸一代表取締役常務執行役員が述べたように、クラウドが「礼讃」から冷静な「定着・利用」の段階に移りつつある証左でもあろう。山田氏は、今後のICTのトレンドは「クラウド」と「モバイル」であるとの指摘したが、まさしくそのとおりだと考える。

 ところで私自身は、「クラウド」という概念自体は別に新しいものではなく、かつてSunやIBMが提唱したネットワーク・コンピューティングやオンディマンド・コンピューティングと概念的には同じだと考えている。それではなぜここまでブームになったかといえば、もちろん「情報処理(コンピュータ&ソフトウェア)の仮想化技術の進展」もあるだろうが、「情報通信(ネットワーク)の技術革新」がキー・ファクターとなったと考えている。そこに「パーソナル端末(利用環境)の技術革新」が加わることにより、利用環境、情報通信、情報処理のそれぞれの要素における道具立てが整い、その上で様々なサービスの実現が可能となった。このことを一体的にわかりやすく概念的に捉える言葉が「クラウド」であったのだろうと解釈している。

 かつて「Web Services」という言葉が流行したことがある。SOAP、WSDL、UDDIという主に情報処理側の技術の発展を具体的な要素技術を盛り込むことにより概念的にうまく捉えた言葉であったが、ここには情報通信や利用環境を含む総合的な概念が含まれなかった故に、どちらかというと情報処理の技術サイドの言葉と捉えられ、一般まで普及することはなかったのでは考えている。

 さて、光やLTE等の通信環境、スマートフォンやタブレット端末のような利用環境、コンピュータの仮想化環境等の道具が整った、さてその次は?と問いたくなるのが人情であろう。

 私自身は、クラウド自体はいわゆるハイブリッドの方向に進んでいくだろうし、また、それぞれの環境のより一層の技術革新はあるだろう(それを支えるソフトウェアやチップの世界にも革新が起こるだろう)こと、そのこと自体が重要であることは勿論だと思っている。しかし結局は統合的に発展する技術をいかに使いこなしてビジネスや個人の要求に応えられるかが、より本質的なイシューであろう。そのとき「クラウド」という言葉自体はあらたな概念に包含され、新しい言葉が現れることだろうが、本質は全く変わらないと考えている。

企画総務グループ/情報サービスビジネスグループ部長 田川 久和

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