2012年3月27日掲載

2012年2月号(通巻275号)

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InfoComモバイル通信T&S

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巻頭”論”

スマートフォンがもたらす融合と競合の拡がり

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 最近のスマートフォンの普及・拡大は、多くの想定を上回る進展となっています。出荷台数ベースでは、今年度は2,300万台を越えて60%近くがスマートフォンとなると予想されていますし、また、契約数ベースでも今年3月末には約4分の1がスマートフォンとなりそうです。電車の中や街なかでも、本当に多くの人達がスマートフォンを使う姿が目につくようになっています。こうなると、従来型の携帯電話機=フィーチャーフォン(いわゆる、ガラケー)とは違う市場構造を既に作りだしているし、さらに、その市場構造に応ずるようにして、新しいサービスが生み出されてきています。一言でまとめると、「市場の融合とサービスの競合」であり、キーワードを取り上げると、タブレット、Wi−Fi、映像・放送系コンテンツおよびソーシャル・グラフとなります。以下、スマートフォンがもたらす市場構造変化の動向と今後の展望を考えてみます。

  スマートフォンが、本質は電話機ではなく、PCに匹敵するインターネット端末であることは、広く知られているところですが、新聞紙面では高機能携帯電話機といった注釈で記事になることが多く、従来型のいわゆる“ガラケー”(私は、この言葉は好きではありません)との比較で取り上げられています。しかし、これでは本質を見誤ることになるし、重大な変化を見落とすことになってしまいます。スマートフォンはもはや“フォン(電話機)”ではなく、持ち歩き可能な超小型のパソコンで、最初からモバイル通信回線網(モバイル・ネットワーク)とインターネットに接続できる、まったく新規の情報通信(ICT)機器と捉えるべきものです。従って、スマートフォンには最初の段階から、サイズの少し大きいタブレット端末という兄貴分が存在したのです。この両者は大きさの違う同類のものと考えられます。

  このスマートフォンが市場構造にもたらしたものには、まず、アプリケーション・ストアがありました。これは従来、モバイル通信会社の垂直統合下にあったアプリケーションやコンテンツの配信を、OSベースの新しい垂直統合モデルに移行させ、新しい市場となるアプ・エコノミーを成立させたことは周知のことです。また、他方、スマートフォンは1加入あたりのデータ通信量が10倍から20倍となるので、モバイル通信インフラ、特にアクセス網に対してトラフィックが過重となって設備不足をもたらしていることは、モバイル通信各社による設備増強投資が発表されていることを見ればよく分かります。

 その中の重要の方策の一つに、Wi−Fiの拡充によるデータ・オフロードがありますが、これがま
た、新しいネットワークとサービス市場に構造変化をもたらす原因ともなりそうなのです。つまり、Wi−Fiは光ファイバー回線の先端に装置される免許不要の小型無線基地局なので、公衆無線LANではモバイル通信の延長(補完)である一方、オフィスや家庭内では、光ファイバー回線の利便性を向上する方策とも言えます。Wi−Fiチップ内蔵のスマートフォンとタブレット端末は、モバイル通信と固定通信を結びつけ融合させる強力な道具=サービス機器となって登場していると言えます。これまで、固定とモバイルとの融合(FMC)が幾度も言われながら、回線割引の域内に止まっていますが、Wi−Fiの普及と活用によって、本格的なFMCが進むと考えられます。Wi−Fiが免許不要の自由な存在だけに、固定/モバイルの通信会社はもとより、数多くの事業者の参入が可能  なので、いろいろな形の結びつきを含めて融合し、また、新しい姿の競合を作り出すと想定できま
す。

 スマートフォン/タブレットとWi−Fiを組み合わせると、データ通信量の多い映像・放送系コンテンツの配信が可能となるし、これまでのPCとは違って、持ち歩きフリーなので位置情報との組み合わせ、また、場所を移すいわゆるプレイスシフトもサービスに取り入れられることになります。従来のタイムシフト・サービス(VOD等)に加えて、本格的なチャンネル間連携サービスが定着するでしょう。

 現実に、こうしたスマートフォン/タブレットの普及とWi−Fiの拡充を受けて、最近、映像・放送系サービスの増加・拡大が目立つようになっています。さまざまな動画配信サービス、多チャンネル・VODのCATVや「ひかりTV」、また、本年4月から始まるmmbiのNOTTVなどが挙げられます。これらの動きから見ると、まさに、放送と通信の融合であり、いわゆる映像系上位レイヤーサービス間の競合の激化を予想させます。

 動画配信サービスでは、「BeeTV」や「TVバンク」、さらに、ドコモの「VIDEOストア」などでスポーツ、映画、音楽などが配信されています。月額315円〜525円程度というのが既に相場となっているのも興味深い現象です。なお、BeeTVの契約数は、2011年10月末で185万と発表されています。加えて、既に老舗の域にある動画共有サービス「ニコニコ動画」でも有料(プレミアム)会員に力を入れており、対応端末をスマートフォンやタブレット端末に拡大しています。なお、月額525円の有料会員数は約150万とのことです。

 放送系では、「ひかりTV」の契約数が3月末で190万目標となっていて、順調に増加傾向にあります。なかでも、直近ではVODサービスの利用増加が著しいようです。ここでも、スマートフォンやタブレット端末で視聴できるVODサービス「ひかりTVどこでも」の提供が始まっていて、これまでのタイムシフト機能に加えて、場所を選ばず楽しめるプレイスシフトができる環境が既に整っています。こうしたマルチスクリーン機能も、他の動画配信サービス同様、インターネットを利用しており、固定とモバイル、放送と通信、通信とインターネットの融合と競合の典型と言えます。

 最後に、本年4月に始まる「NOTTV」について考えてみたいと思います。この放送サービスは、スマートフォンを受像機とするもので、月額420円で当初15都府県で開局されます。もちろん、現在のワンセグ対応端末と同様、携帯端末で(放送)映像を見たいという需要に応えるものですが、スマートフォンとタブレット端末の普及によって、動画配信サービスが数多く存在し競合しているので、通信サービス上にはない特色あるコンテンツを生み出さないと生き残れないだろうし、また一方で、ひかりTVのVODサービスのマルチスクリーン機能に対抗するためには、これまでの放送系コンテンツに対抗し得るものも求められています。競合の状況は厳しいと言わざるを得ませんが、「NOTTV」が放送サービスであっても、スマートフォン/タブレット端末という情報通信機器を受像機としている点に着目して、やはり、モバイル端末に急速になじみつつあるSNSをいかに活用していくかが、従来の放送系コンテンツにはないポイントではないかと感じています。SNSをベースに据えて、人と人との関係、すなわち、ソーシャル・グラフを取り込んだ番組(コンテンツ)作りをして通信回線とインターネットを活かした新しい放送サービスが可能となると考えます。コンテンツ製作においては、既存の放送局のスタイルだけでなく、各種の動画配信サービスにおける双方向性を取り入れる工夫が必要ではないか、と思います。これは新しいチャレンジです。

 スマートフォンの契約は3年後には、全携帯契約数の半数を超えると予想されるので、モバイルネットワークでのトラフィック逼迫対策は緊急度を増しています。まずは、Wi−Fiの普及と定着が急がれており、それに応ずるように、映像・放送系コンテンツの配信サービスの融合と競合が今後、一層、進むことでしょう。多くの配信サービスが無料サービスとして生まれ、淘汰を繰り返して、有料サービスとして生き残った現在の市場構造では、それぞれ契約数が200万近くのレベルに達して、新しいステージに入っています。従来、コンテンツの性格や分野、配信対象機器や通信回線などによって、住み分けられてきた映像・放送系の配信サービスは、スマートフォンの普及・定着によって、本格的に融合と競合に直面せざるを得なくなっています。その時に、既に獲得した有料契約数(約200万近く)と月額500円程度の支払い額が出発点となることは、明らかです。その上で、次は、コンテンツが決め手となります。SNS、ソーシャル・グラフをいかに取り入れるかに注目していきたいと思っています。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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