2012年7月24日掲載

2012年6月号(通巻279号)

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InfoComモバイル通信T&S

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巻頭”論”

SMS活用のすすめ〜携帯事業者をまたがる法人向けソリューション

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先日、当社情報通信総合研究所が事務局運営を担っている「次世代共創フォーラム」(NTT主催)のセミナーで、私がかねてから訴えてきたSMS(ショートメッセージサービス)を利用した、とても興味深い法人向けソリューションが取り上げられていましたので紹介します。

  それは、NTTメディアクロス社が提供している「空電(からでん)プッシュ」というサービスで、2011年6月1日から本格提供されているものです。このサービスでは、法人企業等のパソコンやコールセンターのCTIなどのセンター側から、NTTドコモ、au、ソフトバンクの3社の携帯端末に対してSMSをプッシュ型送信することができ、様々なチャネルと携帯端末を連動させて、業務効率や顧客満足度の向上を図ることができます。昨年の開始から1年が経過していますが、スマートフォンアプリ会員登録のための本人認証、パスワード再発行依頼をIVRサーバーで受付・自動で再発行、携帯端末を利用したパソコンのサポートサービス、病院の緊急連絡通知など緊急医療体制の構築、など様々な利活用が進んでいます(以上、同社パンフレットより)。

この「空電プッシュ」サービスのポイントは、まとめると以下の2点です。第一は、SMSという携帯回線に個有個別の電話番号を用いる国際標準の通信サービス方式を取り入れていて、端末等の通用度が極めて高いこと、第二は、複数の携帯事業者を対象としたサービスであり法人にとって利用の限定が少ないことです。

SMSは日本ではあまりなじみのあるサービスではありませんが、国際的には欧州電気通信標準化協会が国際標準規格に採用して、日本以外では、ほぼ世界共通のテキストメッセージサービスとして定着してきました。現状、世界で携帯メールと言えば、SMSを指すのが一般的となっています。一方、日本では第二世代(2G)移動通信システムの時代にPDC、CDMA、PHSと規格が並立したため、国内事業者間の電話番号でのメッセージ交換の方法は失われてしまい、iモードメールやEZwebなどの、いわゆるキャリアメールの普及が図られてきました。その結果、第三世代(3G)規格への移行後もしばらくは携帯事業者をまたいでのSMSの送受はできないままでした。それが1年前の2011年7月13日から携帯事業者5社間のSMS相互接続がようやく開始されるようになりました。世界に遅れること10年、この間日本のユーザーは“ガラパゴス”状態にあったことになります。

もちろん、世界中ではSMSの様々な利用方法が開発され、さらに、携帯事業者ではないSMSプロバイダーが数多く登場しています。特に、法人企業向けにSMSゲートウェイの運営に加えて、Saasベースのソリューションを手掛けたり、ASPやSIerと提携するケースも見られるようになっています。当然、SMSプロバイダーはSMSゲートウェイを通じて複数(又はすべて)の携帯事業者と接続してサービスを行っているので、法人企業側からは幅広い顧客ベースを対象としたサービスを展開できるメリットがあります。その上、こうしたサービスモデルが盛んな欧米では、SMSアプリケーション〜SMSゲートウェイ間、SMSゲートウェイ〜携帯事業者間で使われる通信プロトコルも、「SMPP」(Short Message Peer to Peer)が既に広く普及し一般的となっています。

  残念ながら、これまで日本ではこの種のサービスが取り上げられることはほとんどありませんでし
た。

しかし、ようやく昨年の4月1日にNTTドコモの「SMSセンタープッシュサービス」が開始され、主として法人企業向けに、テキスト型SMS、制御型SMSを会社のパソコンなどセンター側から電話番号指定で送信できるサービスが開始されました。加えて、前述のNTTメディアクロス社による「空電プッシュ」サービスが昨年6月1日から提供されて、日本にも本格的なSMSプロバイダーが登場しました。通常、法人企業から顧客等への連絡や通知手段は、電話とEメールが主なものですが、顧客側からすると既に固定電話を持たない人が多くなり、また、携帯電話には日常生活面からすぐに応答できない場合が多くなっています。その一方で、Eメールは迷惑メールへの懸念から他人に知られることを避ける傾向にあり、加えてアドレスはケタ数を多くした長い英数字の羅列なのでとても記憶できないし記載ミスが数多く発生して正確な把握が困難な状況となっているようです。要するに、顧客登録の現場では、最初の連絡・通知手段として携帯端末の電話番号にSMS送信することが有効と判断されています。SMSのプッシュ型送信の場合、電話番号で確実に配信される上、例えばURLへの返信率も高いと評価されているようです。URLの返信があれば、改めてEメールアドレスが取得され次回からはEメールアドレスへの送信も可能となる利点もあります(もちろん、Eメールアドレスの登録には本人同意が必要なことは当然のことです)。このように、SMSのセンタープッシュ型サービスとそれを利用したSMSプロバイダーのサービスには、Eメール送信にない特色があり、プッシュ型の一斉メールの効用に着目する法人企業は、例えば、コールセンターや流通配送、訪問工事を行う会社など、数多く見られます。

つまり、私たち消費者の生活スタイルが変わってきていることに注目したサービスと言えるのではないでしょうか。個人では、固定電話は持たず携帯電話だけ、連絡手段としてはメールを多く使っているが、プライベート用なので他人には携帯番号は教えても、Eメールアドレスはなかなか教えない、というのが日常の感覚となっているのではないかと感じています。そこに電話番号で送信できるメールであるSMSが見直されている理由があると思います。

さらに、これだけ携帯電話が普及して個人個人が誰でも所持している通信手段を対顧客関係で法人企業が利用する場合、特定の携帯事業者の回線だけでサービスすることは実際上考えにくく、携帯事業者すべてか、少なくともほとんどをカバーできる複数の携帯事業者に共通したサービスを必要としています。つまり、法人ソリューションに取り組む場合、サービスの拡張期であれば機器や回線の囲い込み戦略も当然重要ですが、他方、サービスが普及した段階では、他の競合事業者のサービスも合わせて取り込めるソリューションもまた、競争力の源泉となり得るものでしょう。今回ここで紹介した「空電プッシュ」サービスは、現在のところSMS利用のプッシュ型一斉メール配信サービスとしては日本で唯一の存在ではないかと私は思っています。ようやく、日本もSMSの利用方法で世界に追いついたことを感じています。今後、さらにSMSのサービス競争が進展して新しいサービスが生まれ、業務効率と顧客満足度の向上が図られることを期待しています。

株式会社情報通信総合研究所
代表取締役社長 平田 正之

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