2013年10月31日掲載

2013年9月号(通巻294号)

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サービス関連(国内海外、移動体市場、ARPU)

国内海外の主要携帯事業者のARPUの動向(2013年4〜6月期)
〜かつてのソフトバンクを思い起こすSprintの戦略

概観

世界の携帯通信市場は、料金値下げや割引拡大、VoIP利用による音声ARPUの減少等により総合ARPUは減少傾向にあったが、データARPUの増加により音声ARPUの減少が相殺され、徐々に総合ARPUが増加傾向に転じ始めている。2013年4〜6期では、NTTドコモとFT以外の総合ARPUは増加している。

ARPUの動向

総合ARPU(図表1)(別ウィンドウでPDF表示)
 前四半期と比較すると、昨年から増加傾向にあったAT&TとVerizonに加え、DTとKDDI、ソフトバンクがデータARPUの増加により総合ARPUも増加に転じた。FTとNTTドコモは引き続き減少している。対前年同期比は、米国キャリアのAT&TとVerizonの2社のみがプラス。DTとKDDIはマイナス幅が改善。音声ARPUの減少により総合ARPUが減少していた傾向に変化が現れ始めている。

今回より追加した米国キャリア第3位のSprintは、過去2年間連続で総合ARPUが増加しており、総合ARPUが一番高いAT&Tに迫る勢いを見せている。米国ではAT&TとVerizonがデータシェアプランを導入しているが、Sprintは無制限プランを維持しており、更にソフトバンクによる買収が完了した2013年7月には無制限プランの値下げ(注1)を行った。これはARPUの上昇よりも割安プランで契約数の獲得を狙うかつてのソフトバンクの戦略を思い起こす。この背景には総合ARPUの余裕があるからとも考えられる。ちなみに、2006年にソフトバンクがボーダフォンを買収した直後の総合ARPUは、NTTドコモ:6,900円、KDDI:6,810円、ソフトバンク:5,590円であり、ソフトバンクは第3位だった。

(注1)Sprintは2013年7月12日より「My Way」と「My All-in」を提供開始。My Wayは、スマートフォンは月額80ドル (フィーチャーフォンは60ドル)で音声通話・メール・データ通信が無制限になるプラン。My All-inは、月額110 ドルで音声通話・メール・データ通信の無制限に加え、5GBまでのモバイルホットスポットが利用できるプラン。 従来の同様なプランよりも3割の値下げとなる。

音声(音声+基本料)ARPU(図表2)(別ウィンドウでPDF表示)
 前四半期と比較すると、海外キャリアではAT&TとDT、国内キャリアではソフトバンクが微増に転じた。対前年同期比は、ソフトバンク以外のキャリアのマイナス幅が改善に転じている。一方で、スマートフォンの普及によるVoIPサービス利用者の急速な増加は続いており(注2)、音声ARPUの改善傾向がこのまま続くのかは不透明である。

(注2)「LINE」の利用者数は世界で2億人(2013年7月21日時点)を突破。「Skype」は全世界での月間利用者数が2億5千 万人(2012年6月時点)、「カカオトーク」の利用者数は1億人(2013年7月1日時点)に達している。

データARPU(図表3)(別ウィンドウでPDF表示)
 スマートフォンの普及によるデータ通信利用の増加により、過去2年間において増加傾向が継続している。DTは割安な料金プランを2011年から開始したことが原因で減少傾向にあったが、今期から増加に回復した。前四半期と比較して唯一減少しているのはNTTドコモで、2四半期連続で減少している。対前年同期比は、AT&TとKDDIが2桁台を維持している。                          

ポストペイド契約数の動向

ポストペイド契約数(図表4)(別ウィンドウでPDF表示)
 ポストペイド契約数(プリペイド・通信モジュールを除く)においては、全社とも継続的に増加傾向にある。対前年同期比においては、海外キャリアではVerizonとFTが増加し、AT&TとSprint、DTが減少した。Sprintは、Sprintプラットフォームのポストペイド契約数は増加しているものの、Nextelプラットフォームの減少を補いきれず、全体では減少傾向が続いている。国内キャリアではNTTドコモが6四半期連続で伸び率が縮小し、1.0%と過去2年間で最も下落した。KDDIは一昨年のiPhone4S販売開始以降、契約数の拡大基調が継続しており、10四半期連続で伸び率が増加、MNPは21カ月連続で転入超過トップを維持している。ソフトバンクは4四半期連続で伸び率が縮小しているものの2桁台を確保し、純増数は18カ月連続で首位を維持している。iPhone5の発売(2012年9月21日)により、同商品を取り扱うKDDIとソフトバンクの契約数が増加し、NTTドコモは3度(2012年11月、2013年1月、6月)の純減を経験している。5月に大々的にツートップ機種を発売したが、翌月は純減となっており顧客流出の状況に変わりはない。秋には次期iPhoneの発売が控えており、国内キャリアの競争状況を見守りたい。

今まではスマートフォンの普及がARPUを押し上げて来たが、米国キャリアのスマートフォンの普及率(図3-3)は既に70%前後に達している。データシェアプランの加入率は増加し続けており、今後はデータシェアプランを通じた周辺端末の取り込みによる接続端末数の増加=データ利用量の増加が通信料収入の伸びを支えていくと考えられる(下図)。一方、Sprintは従量課金プランを継続しており、データシェアプランによる加入者の囲い込みに対してどこまで対抗出来るかに注目が集まる。国内キャリアのスマートフォンの普及率はまだ50%に達していないので、しばらくはスマートフォンへの移行によるARPU増加が見込める。米国キャリアのプラン戦略の結果が国内キャリアのプラン戦略にも影響を与えることになるだろう。

【データシェアプラン加入率】【累計契約数・総合ARPUの対前年伸び率の推移】

福田 千春

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