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InfoComモバイル通信T&S
2014年7月1日掲載

2014年5月号(No.302)

※この記事は、会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

コラム〜ICT雑感

商業施設におけるICT活用のトレンドと展望

(株)情報通信総合研究所
マーケティング・ソリューション研究グループ
部長
 松田 淳(発行時の役職)

はじめに

百貨店やショッピングセンター等の商業施設は、商業施設間の競争だけではなく、Eコマースとも競争しながら、消費者に新たな商品やライフスタイルの提案を行っている。スマートフォン利用者の増加に伴い、ネットと実店舗をつなぎ、消費を促すアプリケーションやサービスも多く出てきている。

今年1月に開催された「SCビジネスフェア」はO2Oやオムニチャネルへの関心の高さもあってか過去最多の来場者があったとされるが、消費税増税後、小売の現場に改めて注目が集まっている。消費の最前線ではICTがどう役立てられているか、そのトレンドを追った。

【図1】盛況だったSCビジネスフェア2014の模様(2014年1月開催)

【図1】盛況だったSCビジネスフェア2014の模様(2014年1月開催)

(写真提供:日本ショッピングセンター協会)

小売業の永遠の課題:いかに集客し、お買い上げいただくか?

消費税増税前の駆け込み需要で、2014年3月の全国百貨店売上高は前年同月比25.4%増(6,818億円)(※1)、既存ショッピングセンターの売上高が11.4%増(前年同月比)(※2)、チェーンストアの売上高が9.4%増(前年同月比、店舗調整後)(※3)、コンビニエンスストアの売上高が2.9%増(前年同月比)(※4)と、軒並み前年同月比でプラスになった。4月28日に公表された経済産業省の「商業販売統計速報 平成26年3月分」(※5)でみても小売業の商業販売額は前年同月比11.0%の増加と伝えられた。

こうした駆け込み需要は大方の予想通りの結果だった。それだけに4月以降の反動減に備えてきた百貨店やスーパー、ショッピングセンター等の小売りの現場では、消費者の需要を喚起する新たな商品を提案したり、イベントを開催したりと様々な工夫がなされている。いかに集客しお買い上げいただくかは小売業を営む以上ついてまわる課題だが、消費税増税を機に改めてこの課題をどう突破していくのか、各社、各業態とも知恵を絞っている。

消費の最前線にある「ショッピングセンター」の存在感

一口に小売業といっても様々な業種・業態が存在するが、ここでは百貨店やチェンーンストア等、主なものに注目した。その売上高の推移をみてみよう(図2)。

【図2】業態ごとの年間売上高推移(2001年〜2013年)

【図2】業態ごとの年間売上高推移(2001年〜2013年)

(出典:日本百貨店協会、日本ショッピングセンター協会、日本チェーンストア協会、日本フランチャイズチェーン協会、経済産業省等の公表資料より作成)

注1:コンビニエンスストアにおいては各年4月から翌年3月までの 1年間、それ以外は各年1月から12月までの1年間の集計
注2:BtoC ECについては、2004年までと2005年以降で調査対象範囲の変更があり、その前後での整合性はない

ショッピングセンターの売上高は約29兆円(2013年1月〜12月の1年間)で、チェーンストア(大型スーパー等)の2倍以上の規模がある。そのようななか、BtoC ECは急激に伸びていて2012年時点で約9兆5千億円の規模となり、コンビニエンスストアを僅かに上回った。百貨店は2008年にコンビニエンスストアに逆転されたものの6兆円規模で横ばい・微増で推移している、というのが現状の小売りの現場のスナップショットになる。

このようにみると、ショッピングセンターの存在感の大きさを改めて確認できるだろう。ショッピングセンターはイオンモールやららぽーと、プレミアムアウトレットのように大規模なものから、ルミネやアトレなど駅の近くあるいは駅ビルにあるものまで含めて身近に存在しており、日本ショッピングセンター協会によれば、今や国内には大小約3,100のショッピングセンターがあるという。

ディベロッパとテナントが作り出す価値が「ショッピングセンター」の魅力

一つのショッピングセンターには数多くのテナントが入っている。普段、意識される方はほとんどいないだろうが、一つのショッピングセンターは大きくは館自体を運営するディベロッパと、館の中で事業を営むテナントによって構成されている。

ショッピングセンター自体をどういうテナントで構成して、入居してもらうかはディベロッパの腕の見せ所になる。物販系、飲食系、サービス系など様々なテナントにバランスよく入居してもらい、館としての売上の最大化を狙う。つまり、館全体を消費者からみて魅力的な場所としてプロデュースし、集客力あるショッピングセンターに仕立て、お客様が買い物をする環境を整えるのがディベロッパの役割である。

一方で、実際にお客様にモノやサービスを販売するのはテナント、具体的にはテナントの店員さんたちである。たとえば服を買おうとすると今の流行を教えてくれたり、自分にあったコーディネートの提案をしてくれたりするのは買い物の魅力の一つといえよう。相性のいい店員さんがいれば、またそのお店で買いたくなるものだが、そういう出会いの可能性があるのもショッピングセンターの魅力になっている。

ICT活用のトレンドとポイント(1):O2O、オムニチャネル

こうしたショッピングセンターをめぐるICT活用のトレンドとして、以下ではO2O・オムニチャネルとビッグデータの2点をトレンドとして紹介したい。

オンラインからオフラインまたはその逆も含めた両方の意味でO2O(オー・ツー・オー)という言葉は今やすっかり定着した感がある。「SCビジネスフェア2014」でもO2Oを謳うサービスやソリューションが数多く展示されていたが、このうち話題を集めたのはスマホアプリ「WEAR」だろう。
ファッション通販サイト「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥデイ社が昨年10月末から提供を開始した「WEAR」は、基本的にはファッションアイテムの検索やコーディネートレシピの検索ができるアプリである。加えて、店頭で商品バーコードを読み取ればいつでもネット通販で購入できるバーコードスキャン機能があり、この機能がショッピングセンター関係者の間では「ショールーミング」を加速するものとして懸念が高まっていた。

現在、バーコードスキャン機能は提供されていない。「WEAR」では、どの店舗でバーコードがスキャンされたかを把握できるためアプリを通じて購入に至った場合、その売上の一部が店舗側にキックバックされる仕組みになっていたものの、お客の立場で販売側の管理ツールであるバーコードをスキャンする行為がなじまなかった側面もあったようだ。そうした経緯があり、同社は4月末にバーコードスキャン機能を中止している。

同社の前澤社長は「多くのブランドや商業施設が『WEAR』を安心して利用できるように機能を中止した」とコメントしている。お客様の満足度や利便性、ショッピングセンターとしての売上の獲得、テナントの店員さんたちの満足度という様々な観点から評価してO2Oやオムニチャネルをどう実現するのかは大きな課題といえよう。

ICT活用のトレンドとポイント(2):ビッグデータの活用

もう一つのトレンドはビッグデータの活用である。ビッグデータの活用は至る所でトレンド化しているため、「ショッピングセンター業界においてもビッグデータの活用が進んでいる」というのが正確かもしれない。

ショッピングセンターにおけるビッグデータとして代表的な例はポイントカードの利用履歴情報だ。あくまで例だが、この分析をすることでカバンを買った後に靴を買うという傾向が見出せたとすると、この二つのテナントをうまくつなげて売上向上を目指すという使い方が可能になる。テナント間のつなぎ方には、たとえばプロモーション活動を共同で行うというレベルから、フロアのリニューアルに際して二つのテナントを物理的に近くに配置するという大掛かりなレベルまで様々考えられる。

ポイントカード以外のデータを活用することもありえる。たとえばショッピングセンター内をお客様がどのように動いていくかのデータを分析できれば、エリア内のどこに何を配置すればいいかや、少しでも長く滞在してもらうために何が必要かなどのヒントが得られるかもしれない。

どのようなデータを何に活かすのか、究極的には集客や滞在時間増、売上増にどう結び付けるか、大手のディベロッパを中心として検討が進められている。

地域に立脚した未来型のショッピングセンター

結びに向けて、ショッピングセンターの今後の在り方を示しているものとして「環境・健康・循環」のコンセプトを具現化する次世代ショッピングパークの例を紹介したい。

「このショッピングパークには理想の未来が詰まっています」が、「三井ショッピングパーク ららぽーと柏の葉」のメッセージだ。不動産ディベロッパである三井不動産は、地域づくり・まちづくりの一環として「柏の葉スマートシティ」プロジェクトに取り組んでいる。これは、太陽光発電や蓄電池などの分散電源エネルギーを、街区間で相互に融通することで、街全体の電力ピークカットを実現するというものだ。平日は、オフィスでの電力需要が高まるため、商業施設の「ららぽーと柏の葉」からオフィス・ホテルなどに電気を供給し、需給が逆転する休日には、ららぽーとにオフィス・ホテルから電気を供給する。

他にも、屋上農園、屋上庭園、クライミングウォールの設置など、商業施設としては珍しい取り組みがたくさん見られる。これらはすべて、「健康・環境・循環」というコンセプトを具現化したものだという。ショッピングセンター間で様々な競争がある中で、お客様にいかに足を運んでいただくか、次世代を意識した明確な差別化戦略がみてとれる。

地域にしっかり根ざしたショッピングセンターは、消費の場としてだけではなく、ライフスタイルや文化、情報の発信・交流拠点としての社会的意義も非常に大きい。ショッピングセンターをソフトとハードの両面でICTがどう支えていけるのか、ICT提供事業者側も知恵を絞る必要がある。

おわりに

O2O・オムニチャネル化やビッグデータ活用といったトレンド以外にも、今回紹介しきれなかった新たな決済系のアプリ、館内デジタルサイネージと連携したお客様のスマートフォンへの情報提供、各テナントの最新情報が掲載されるWebサイトの仕組みを提供するソリューション等があり、これらのICT活用が進むことでより一層、ショッピングの在り方、ひいては小売業のあり方そのものを変えていくだろう。それはショッピングセンター、テナント、お客様のWin-Win-Winの関係構築をICTでどう実現できるかにかかっている。

※1 日本百貨店協会「平成26年3月 百貨店売上高概況」http://www.depart.or.jp/common_department_store_sale/list

※2 日本ショッピングセンター協会「SC販売統計調査報告 2014年03月」http://www.jcsc.or.jp/data/report_selling/2014/201403.html

※3 日本チェーンストア協会「チェーンストア販売統計(月報)平成26年3月度速報」https://www.jcsa.gr.jp/figures/data/201403.htm

※4 日本フランチャイズチェーン協会「コンビニエンスストア統計調査月報(2014年3月度)」http://www.jfa-fc.or.jp/particle/320.html

※5 http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syoudou/result/sokuho_1.html

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