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InfoCom World Trend Report
2015年1月19日掲載

2014年11月号(No.308)

人口急減・超高齢化と地域の活性化

2014年5月に日本創生会議・人口減少問題検討分科会が発表した、「2040年には全国で896の市区町村で若年女性が半減するおそれがあり、将来的に消滅の可能性がある」とのレポートは、全国に衝撃を与えました。「消滅」という表現には、いささか誇張があり反発も呼んだようですが、間違いなく関係者を覚醒させる効果がありました。

このレポートもひとつの契機となったと考えられますが、9月3日には、安倍首相を本部長とする「まち・ひと・しごと創生本部」が発足し、いわゆる「地方創生」関連政策の検討・推進体制が整備されました。

人口急減・超高齢化の解決に向けては、大都市の問題を解決すべきだ、いや地方を活性化すべきだ、という、相対する議論があります。そもそも人口急減・超高齢化対策に大都市も地方もない、という議論もあります。ウェイトの置き方の問題はあるかも知れませんが、大都市、地方は二者択一ではなく、両者の持つリソースや課題の違いを踏まえ、全体最適の視点で問題を解決することがポイントと考えます。地方創生の取組みは、そこに解決の鍵があるものと考えます。

なお、さらに問題を遡ると人口減少自体も、長期的に見たら必ずしも悪いことばかりとはいえないかも知れません。しかし、急激過ぎる人口減少は、社会に多大な歪を生じさせます。その対策は急務です。

地方創生におけるICTの貢献の可能性

「まち・ひと・しごと創生本部」の検討は急ピッチで進められています。9月19日には、第1回「まち・ひと・しごと創生会議」(以下「創生会議」)が開催されました。その後10月上旬に9回に渡る「基本政策検討チーム」による検討会議が開催されています。10月31日には、第2回創生会議が開催され、早くも検討会議結果を踏まえた「基本政策検討チーム報告書(案)―総合戦略に向けて中間的な検討状況の報告―」(以下「中間報告書」)が示されています。その後、11月6日には地方創生関連2法案が衆議院で可決され、今国会会期中に成立の見込みです(11月10日執筆時点)。さらに、同日に第3回創生会議が開催され、「長期ビジョン」骨子(案)、と中間報告書を受ける形で「総合戦略」骨子(案)等が示されています。

ICTに関わる者としては、この地方創生の政策に関して、ICTがどう貢献できる可能性があるのか、たいへん興味があります。「総合戦略」骨子(案)や中間報告書に書かれた内容には、明示的にICTの活用が示されたものもありますが、潜在的なものを含め、ICTの出番が少なからずあります。中間報告書に示された、「V 今後の施策の方向 1.政策パッケージ」に示された項目に対するICTの活用可能性について、少々乱暴ですが、表1に整理してみました。この「政策パッケージ」の項目は、「総合戦略」骨子(案)でも同一なものが示されています。

中間報告書でICTの活用について直接明示があったのは、2点あります。1点目は、「地域経済雇用戦略の企画・実施体制の整備」の考え方の中で、「地方自治体が定量的・客観的なデータ分析に基づき、地方版総合戦略を策定できるように支援するため、ビッグデータを活用した『地域経済分析システム』を開発し分析するとともに、その分析手法を普及・伝達する」とあります。新規性のアピールという面もあるかも知れませんが、ビッグデータの活用を政策立案の主軸に据えていることは注目されます。

2点目は、「企業の地方拠点機能強化、企業等における地方採用・就労の拡大」の実現方策例の中で、「遠隔勤務(サテライトオフィス、テレワークの促進)」が挙げられています。総務省が「地方のポテンシャルを引き出すテレワークやWi-Fi等の活用に関する研究会」を立ち上げたのも、同じ政策の流れと映ります。

(図表)「政策パッケージ」の項目と活用が考えられるICTのキーワード

(図表)「政策パッケージ」の項目と活用が考えられるICTのキーワー

(出所:まち・ひと・しごと創生会議 第2回資料「基本政策検討チーム報告書(案)―総合戦略に向けて中間的な検討状況の報告―」(2014年10月31日)を基に筆者加筆。)

この2点以外にも、特にICTの活用の明示がなくとも、表に示すように施策の方向に沿ったICTの活用が考えられます。ICTは手段であり、主役ではありません。しかし施策・事業の中にICTを織り込むことで地域創生に貢献できる可能性は多々ありそうです。ここはアイディアの絞りどころです。

持続的・効果的に貢献するICTを

地域活性化は、古典的な政策テーマです。長年に渡りさまざまな国の政策が実施されているものの、必ずしも成功しているとはいえません。情報化を進めることにより地域を活性化させようという国の「地域情報化政策」についても同様です。1980年代のいわゆる「ニューメディア・フィーバー」の頃の「テレトピア構想」(旧郵政省)、「ニューメディア・コミュニティ構想」(旧通商産業省)のような省庁の地域情報化政策に端を発し、かれこれ30年以上取り組まれてきました。しかし、国の政策に基づいた取組みで、持続的に地域活性化をもたらした事例がどれだけあったのか、という観点からは反省点が数多くあります。

先の「総合戦略」骨子(案)では「U.政策の企画・実行の基本方針」として、従来の政策の検証を念頭に置いた本政策の考え方が示されています。従来の対策の問題点として「府省庁・制度ごとの『縦割り構造』」「地域特性を重視しない『全国一律』の手法」「効果検証を伴わない『バラマキ』」「地域に浸透しない『表面的』な取組」「『短期的』な成果を求める政策」5点が示されています。これを踏まえ、「まち・ひと・しごとの創生に向けた政策5原則」(自立性、将来性、地域性、直接性、結果重視)や「地域主体の取組体制とPDCAの整備」といった方針が示されています。

高度経済成長期の頃のような豊富な財源はありません。いずれも「言うは易く行うは難し」ですが、限られた財源を有効に生かすための関係者の知恵と行動が求められます。

地域情報化政策に関して、従来の事業は補助金により地域ごとに個別に情報システムを整備するという形態のものが中心でした。しかし、このような事業の場合、その後、ランニング負担に耐え切れない、費用対効果が見合わない、といった理由で事業を廃止するというケースが多々ありました。

地域の課題は、複数の地域で共通するものが多くあります。課題に対応するICTサービスをクラウド化し、複数の地域でシェアすることにより、より安価で洗練されたサービスを享受できる可能性があります。低コストで付加価値の高いサービス、さらに地域に利益を還元し、地域で事業を持続できるような仕組みづくり等、ICTサービスを提供する側も、このような観点でサービスをパッケージ化して用意することが地域貢献につながるとともに、新たなビジネスチャンスにもつながるものと考えます。国の支援策も、クラウド等の新しいICTの活用形態においても使いやすい制度であることが望まれます。

地域情報化に携わる者として、効果的、持続的に地域活性化に貢献するICTを、デザイン、コーディネートすることに力を尽くしていきたいと考えています。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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