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研究の眼
2010年10月29日掲載

『アドテック東京』レポート
〜日本の広告業界では今何が話題になっているのか〜

グローバル研究グループ 山本 惇一
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 電通が発表した「2009年日本の広告費」によると国内のインターネット広告費は7,069億円と初めて新聞(6,739億円)を抜き、テレビ(17,139億円)に次ぐ広告媒体に成長している。しかし、インターネット広告費の内訳をみてみると、バナー広告は前年よりも減少、検索連動広告を含むウェブ(PC)広告は微減、モバイル広告は前年比12.9%増というように、その手段によって差が生じている・・・・というのがインターネット広告を巡る簡単な現状の紹介である。

 それでは、広告代理店やメーカーのマーケッターといった広告関係者の間では、実際はどのようなことが話題になっているのであろうか?

 今回、広告関係のカンファレンス「アドテック東京」に参加(「アドテック」は10月28日、29日に開催されたのだが私は10月28日のみ参加)してきたので、その中で話題となっていた内容、特に私が参加した「Social Marketing」、「Integrated Marketing」の2つのセッションで語られていた内容に関して説明する。

 「アドテック東京」にはクリエイティブや、モバイルの利用などICTを活用したマーケティング・広告に関するセッションが様々あるのだが、自分の参加したマーケティング・コミュニケーション分野での話題は『「Paid Media(TV、新聞を始めとした媒体)」「Owned Media(自社Webサイトを始めとした企業自身が持っている広告媒体)」「Earned Media(口コミやSNSなど)」の戦略的な利用の仕方』であった。

「Paid Media」「Owned Media」「Earned Media」が書かれたベン図。プレゼンテーターの考え方によって、上にくるメディアが「Paid」「Owned」「Earned」と違うというのが印象的。
写真1:「Paid Media」「Owned Media」「Earned Media」が書かれたベン図。プレゼンテーターの考え方によって、上にくるメディアが「Paid」「Owned」「Earned」と違うというのが印象的。

 その中でも議論の中心は「Earned Media」であった。Web上の「Earned Media」であるSNSやTwitter、YouTubeといったソーシャルメディアを如何にマーケティング戦略の中で活用していくか、メーカー各社はマスメディアとの連動キャンペーンの具体的事例などを紹介しており、またコンサルタントなどは戦略の考え方などをプレゼンしていた。

 議論の結論は、『Web上の「Earned Media」を自社のマーケティング戦略の中に上手く組み込んでいく必要がある。』ということで、その利用方法も多岐に渡ると思うが、今回の「アドテック東京」で語られていた内容では、(1)認知・販促を目的としソーシャルメディアをBuzz(口コミ)を生むために利用するというパターンと、(2)ソーシャルメディアがCRMの一部として、消費者の声を拾い上げて商品戦略に活かすというパターンが主な利用手段としてあった。

 前者の認知・販促を目的としたソーシャルメディアの活用は昨今のTwitterやSNSとマス広告の連動したキャンペーンなどですぐにイメージはつくだろう。個人的には後者のCRMの一部として活用する、というのが今後のマーケティング分野におけるソーシャルメディアの活用としてはより効果的なのではないか、と感じた。現在の日本市場は皆様ご存知の通り、「モノが簡単には売れない」時代である。このような時代に最も大事なのは、「顧客の声を聴き、分析し、商品戦略にフィードバックさせる」という非常に基本的なマーケティング戦略の徹底にあるのではないか、と考えるからである。

 CRMの一部として活用する具体例としては、欧米を中心にトレンドとなっているFacebook上に企業のWebサイト(ファンページ)の開設がある。日本でも2010年9月ユニクロが同社のページをFacebook上に公開してり、2010年10月現在で既に約17.5万人のユーザがユニクロのページを登録している。このFacebook上のファンページのようなソーシャル機能をもったWebサイトというのが、今後の戦略の重要なポイントになるのではないだろうか。Facebookのファンページ上で、企業は情報をユーザに発信する。ユーザはFacebook上で商品に関しての意見をユーザ同士で語ったり、企業に思いを伝えたりする。
Facebook上でユーザが語ったことを企業は分析することで商品戦略に繋がる。また結果的に口コミという形で販売に貢献する可能性もあるだろう。

 さて、このように広告が今までのマス4媒体(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)からインターネットの方に流れてくるのはほぼ間違いない流れであるが、Web企業が広告収入だけで収益をあげていくことができるか、というとそれは難しい問題であろう。例えばグーグルは2009年度の売上は236億ドル(売上の97%が広告収入)で、営業利益は83億ドルではあるが、世界のWebプラットフォームの中心的な存在であっても約2兆円程度の売上なのである。まさに、「アナログダラーはデジタルペニーにしかならない」(NBCユニバーサル元CEO Jeff Zucker氏の発言で、旧来のメディアでは1ドルの価値があったものが、Webの世界では1セントつまり100分の1になってしまう)状況である。

 また、日本で躍進しているSNSのGREEやDeNA(モバゲータウン)も収益上は好調であるが、利益の源泉となっているのは、広告収入ではなくユーザがゲーム上のアイテムの購入をしたときに支払うアイテム課金による収入である。勿論、高い利益(利益率)をあげていれば、売上の大小はあまり問題ないのだが、世界規模でのプラットフォームを抑えても約2兆円程度の広告収入、日本のSNSプラットフォームの中心的な存在でも、広告収入は伸び悩んでいるという事実は、受け止めなければならない。

 企業はマス媒体と連動させながら、Web上(特にソーシャルメディア)の活用を強めていくだろう。その果実をどのようにWeb企業は手にするのか、また日本企業におけるマーケティング上でのソーシャルメディアの活用はどのように変化していくだろうか。日本企業もFacebook上にファンページを持ち、それがきっかけでFacebookの加入者が急増というようなシナリオはあるだろうか。興味は尽きない分野である。今後の動向も注目していきたい。

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