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研究の眼
2010年11月5日掲載

「4G」とは何か?

グローバル研究グループ 小川 敦
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 世界各地でWiMAXやLTEの商用化が相次ぐ中、「4G」という用語が多用されていることが気になっている。もちろん「4G」に始まったことではない。「3G」の商用化が本格化する過程でも同様のことは起こっていた。ここでは、「4G」という用語について具体的な事例を紹介しながら、「4G」とは何かを考えてみたい。

 2009年12月に北欧で世界初の商用LTEを開始したTeliaSoneraは、開始当初から一貫して同社のLTEサービスを「4G」として大々的にマーケティングしている(www.teliasonera.com/4g/)。ストックホルムを走るバスのラッピング広告やプロモーション・ビデオなどに華々しく「4G」の文字が躍った。TeliaSoneraにとっては、真の「4G」であるかどうかはあまり重要ではなかったと考えられる。世界初の商用LTEという事情もあって、全世界にアピールするにあたって「4G」は格好のマーケティング用語だったからである。「LTEって何?」という人にも「4G」と言えば、「3G」よりも凄そうと感じさせることができるわけである。実際、これによってTeliaSoneraの世界でのプレゼンスは高まっている。

 米国第4位の通信事業者T-Mobile USAは、シカゴなどでのHSPA+ネットワーク開始に合わせ、同社ネットワークを「米国最大の4Gネットワーク」と位置付けた。これについてT-Mobile USAのMark McDiarmid氏は、同社のサービス品質が競合他社以上であると判断したことを理由にHSPA+を4Gとしてマーケティングすることにしたと説明している。
T-Mobileのこうした「4G」という用語の使い方に対し、米国第3位の通信事業者Sprint Nextelは強い不快感を示している。SprintもClearwireのWiMAXネットワークをホストとして「4G」サービスを展開している。マーケティング用語としての「4G」の定義はなく、非常に曖昧なものである。通信事業者が各社の裁量で「4G」と呼称している状態である。だからこそ、「4G」という用語の使い方を巡って論争が起こる。

 Nokia Siemens Networksは、ユーザはスループットをサービス選択の判断材料にはしないと考えている。この見方に立脚してさらに言えば、ユーザにとっては、使われている通信方式がLTEなのかHSPAなのかはさほど重要ではない。実用に耐えうるスループットが確保できれば十分なのである。そもそも、大半を占める一般的なユーザは、自分の利用用途に必要なスループットを正確に認識していないことが多い。通信事業者が「4G」という用語を使いたがるのは、事にあまり詳しくない一般ユーザのサービス選択に資するような用語がマーケティング上必要だからに他ならない。つまり、サービスの具体的なスペックを訴求すると難しくなるが、「4G」と言えば「3G」の上位だということが簡潔に理解できるからだ。

 公的な用語としての「4G」の定義については、一応の解決を見ている。2010年10月、ITUは2つの方式を「4G」と定義した。2つの方式とは、LTE-AdvancedとWirelessMAN-Advanced(WiMAX2 802.16m)。これにより、TeliaSoneraのLTEやClearwire(およびSprint)が提供中のWiMAXは「4G」としてマーケティングされているにもかかわらず、公式には「4G」の要件を満たさないことになった。

 公的な「4G」の定義はできたものの、おそらく「4G」という用語の多用(乱用?)は今後も続くだろう。なぜなら、通信事業者にとってこれ以上便利なマーケティング用語がないからである。そうなると結局、「4G」とは何なのかがよく分からなくなる。「3G」の時のデジャブを見ているようだが、やはり歴史は繰り返すということなのか。公的な「4G」とマーケティング上の「4G」とが二重で存在し続けるとなれば、懸念されるのはユーザの混乱である。米国でも今のところユーザの間では大きな混乱にはなっていないようだが、少なくとも通信事業者間での論争が起こっている状況ではユーザへの配慮が不足していると言わざるをえない。今後、IT用語辞典などで「4G」がどう記載されるようになるかも興味深いところである。

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