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研究の眼
2010年12月3日掲載

モバイルの未来

グローバル研究グループ 小川 敦
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 NTTドコモは、以前から各種カンファレンスで「モバイルの未来」をテーマとしたショートフィルムを上映している。この手の映像は海外の通信事業者でもないことはないのだが、YouTubeなどで検索してみるとNTTドコモの映像は評価が高いことが分かる。まずは、2つのショートフィルムを見ていただきたい。

NTT DoCoMo Mobile Future
NTT DOCOMO Vision 2020 Culture Symphony

 いかがだろうか。どちらも非常に「未来っぽい」のだが、筆者にはなんとなく違和感がある。1つ目のショートフィルムの冒頭にもあるが、前者は2010年つまり現時点では既に実現できていたであろう(いくつか実現できていることもある)世界の描写である。後者はタイトルにもある通り、2020年の「モバイルの未来」。個人的な感想に過ぎないかもしれないが、両者の内容からは「10年分の差分」が感じられない。両者に共通しているのはAR(Augmented Reality)をふんだんに使っていること。最近のCEATECなどに行くと分かるが、ARの体験ブースは非常に盛況で、あの超有名マンガ「ドラゴンボール」に出てくるスカウターを彷彿とさせるようなデバイスは見る者に「未来っぽさ」を感じさせる。しかしながら、モバイルの世界は変化が速いとよく言われるにもかかわらず、この2つのショートフィルムから大きな差を感じ取れないのは筆者だけではないだろう。

 もちろん、ユーザにサービスを提供する通信事業者として、目指すべき未来の世界観を提示し、既存の需要を超えたところにある新たな需要を喚起・創出することは重要である。ただ、1つ言えるのは、「モバイルの未来」は少なくともARだけではないはず、ということである(もっと地味なこともあるだろうし、ビジネスモデルの大転換といったこともあるかもしれない)。さらに、空気の読めない、夢のないことを言ってしまえば、ショートフィルムの中の世界を実現するためには、様々な技術の標準化、対応デバイスの調達、サービスの普及などといった難関を突破しなければならない。特に、通信サービスである以上はネットワーク外部性(利用者が多ければ多いほど価値が高まる性質)の影響を受けるため、いかにサービスを普及させるかは非常に重要となる。

 一方、世界の現在に目を転じると、通信事業者にとっての「モバイルの未来」は必ずしも明るいものだけではないようだ。米Ciscoの予測によると、全世界のモバイル・データ・トラフィックは2014年まで倍々で増えていき、2009年から2014年の5年間で実に39倍になるという。こうしたことを受けて、特にキャパシティ・クランチが深刻な欧州の通信事業者の間では「LTEの導入だけでは将来の需要に対処し切れない」という共通の懸念がある。「モバイルの未来」を語るより前に目下、全力で取り組まなければならないのはネットワーク・キャパシティという喫緊の課題というわけである。

 NTTドコモが世界に先駆けて商用3Gサービスを開始した2001年から来年でちょうど10年が経つ。2Gから3Gへの移行は、音声通話からデータ通信中心に変わったという意味でrevolution(変革)と言われる。実際、この約10年でモバイルによって私たちの生活は一変した。3Gから次の4Gへの移行は、音声通話も最終的にはVoIPになることを含めて、データ通信中心であることは変わらないという意味ではrevolutionではなくevolution(進化)かもしれない。しかしながら、次の10年で私たちの生活は上で紹介したショートフィルム以上に大きく変わっている可能性もある。NTTドコモを始めとして世界の通信事業者は次の10年でも、目下の課題の克服と、ARだけに留まらない「モバイルの未来」の提示・実現という難しい両立を期待されている。

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