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Global Perspective 2010
2010年12月27日掲載

Visa、モバイル決済サービスに向けた取組みを発表

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 2010年12月7日、米国VisaとVisa Europeは商用化に向けたモバイルコンタクトレスペイメントサービスを、DeviceFidelity のInPay microSDソリューションを用いて実施することを発表した。

 また、同日、米国Well Fargoが、サンフランシスコにて本トライアルに協力することを同時に発表している。
DeviceFidelityのIn2Pay microSD を利用して18ヶ月間トライアルを行い、商用に向けてセキュリティを中心とした技術検証、使い勝手に関する調査・試験等を実施する予定。

 トライアルで利用できる端末は、BkackBerry Bold 9650, iPhone4、iPhone3GS、iPhone、Samsung Vibrant等、現時点では限られているが今後はSymbianやWindowsMobileにも拡大していく予定とのこと。
ユーザはVisaアプリケーションをmicroSDにダウンロードして利用ができる。
ユーザは商品購入時に、Well Fargo Bankingアプリケーションを起動し、読み取り機(リーダーライター)にかざすことによって決済を行う。
トライアルの際には、ファーストフード、タクシー、自動販売機にリーダーライターを設置しての利用も計画している。
このシステムはキャリアや小売店などにも公開し、幅広くモバイルコンタクトレスペイメントを普及させ、エコシステムを構築させていく予定のようだ。

 世界のクレジットブランドの最大手の Visaがモバイル決済への取組みに関して具体的なリリースをしたことのインパクトは大きい。

 商用に向けて、以下の点について今後の課題を考えてみたい。

1.キャリアとの関係

 今回のVisaの発表の中では、具体的なキャリアとの関係は明言されていない。エコシステムの一部としてキャリアとも連携するようなコメントだけある。
Visaからしてみれば、キャリアなしでも自分たち主導で進めた方がスムーズなのかもしれない。

 今回のVisaの報道発表を見る限りにおいては、microSDと特定の端末があれば、キャリアは特定されなくとも利用できるようだ。

 日本にはVisaタッチという日本国内限定のケータイクレジットのサービスがあり、全国約13,000店舗で利用できる。
 このサービスもキャリアにとってはおサイフケータイ搭載の携帯電話を提供するだけで、キャリアへの収入はせいぜいアプリダウンロード時のパケット代だけである。どこのキャリアでもおサイフケータイ対応であれば利用できる。

 現在、日本のキャリアでクレジット事業を行っているのは、NTTドコモの「iD」だけである。
ドコモは2005年11月、「iD」というブランドを立ち上げ、ケータイクレジットにより収入を得ている。また利用可能なカード会社(イシュアー)も多数あり、ドコモ自身も「DCMX」というクレジットカードを発行している。
またDCMX miniという携帯電話料金と一緒に請求される月々1万円まで利用可能な利便性の高いサービスもあり、2009年8月には1,000万加入を突破した。

 Visaの発表に先行し2010年11月16日、アメリカではVerizon、 AT&T、T-Mobile USAの大手3キャリアが集まり、ISISというNFCに関するジョイントベンチャーを設立した。こちらの動きも並行して注目したい。
今後、アメリカだけでなく、各国のキャリアとどのような連携がされていくのか注目される。

2.リアル店舗での展開

 日本では当たり前になっているモバイル決済だが、それは利用できるリアルな店舗があるからだ。マクドナルドやコンビニ、自動販売機等の多くでiDが利用できる。日本ではもはや社会インフラの一部になっている。
今回のVisaのトライアルでは、まだ具体的な利用店舗までは見えていない。
 また欧米はチップ社会であり、レストランでの支払は日本と違ってテーブルで行う。その時に店員に携帯を出すのだろうか。店員はリーダーライターを持ってテーブルまで行くのだろうか。
文化的な違いもあるから、ファーストフード以外のレストランで普及するだろうか。
 一方でアメリカは日本以上にクレジット社会である。リアルな店舗、自動販売機での利用が可能になり、現在の日本のように社会インフラ化したら、急速に広がる可能性があるだろう。
今後の技術試験を実施するのと並行にVisa加盟店へのリーダーライター設置の準備も行うのだろう。

3.世界での共通化

 今回の報道では米国Visaと欧州Visaの発表のようでそれ以外の地域は入っていないようだ。
プラスティックカード同様に、米国のユーザが欧州でも同じシステムを利用できるのは非常に便利なことだろうし、リーダーライター設置事業者やシステム運営側、及びユーザ、店舗にとってもスケールメリットがある。(各国でクレジットに対する規制の問題等が異なるから一様に全世界で共通化できるかは厳しいかもしれない)
そして欧米で成功したらアジアや中南米、アフリカへも進出してくるだろう。
Visaは2009年12月時点で、全世界で18億人の会員数がいるし、オリンピックやワールドカップなど世界的なイベントでは必ずスポンサーとして名乗りを上げている。そのスケールメリットは相当なものだ。

 但し、日本にはすでにVisaタッチがあるから同システムが商用として進出してくる可能性は少ないだろう。
本システムが本格的に欧米から全世界へ普及したら、また日本だけが蚊帳の外になりかねない。海外からの観光客らが日本でだけ利用できないという不便性から、Visaタッチから本システムへ乗り換えが行われるかもしれない。

 スマートフォンの成長は著しく、Android、SymbianをはじめあらゆるOSでNFC対応するようになってきている。
商用開始までにはクリアにしなければならないハードルがたくさんあるが、今後のVisaのモバイルペイメントのトライアルの行方、キャリアとの関係、加盟店舗の開拓(リアルとの連携)に注目していきたい。

【参考URL】
DeviceFidelity:http://www.devifi.com/
Well Fargo:https://www.wellsfargo.com/
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