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研究の眼
2011年1月4日掲載

プレゼンテーションの非線形性

グローバル研究グループ 小川 敦
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 筆者は仕事柄プレゼンする機会がよくあるのだが、大抵はフォーマットが予め決められていて自由度は割と少ない。プレゼンに関しては、Flash(.swf)でスライドを作ったりするなど、学生だったときの方がかなり手の込んだものを作っていたように思う。ところが、社会に出てからというもの、「社会人のスタンダードはコレ」と言わんばかりにPowerPointやKeynoteといったプレゼンツールしか使えない環境になってしまった(Keynoteという選択肢があればまだ良い方)。

 PowerPointやKeynoteといったプレゼンツールについて使いにくいとか特段の不満があるわけではないが、誰もが見飽きているのは事実。これらを使うと、良いか悪いかは別として、プレゼンはどうしても線形的な紙芝居方式になってしまう。これが多くのプレゼンを陳腐化させている原因の1つだろう。こうしたごく一般的なプレゼンをしたりされたりしているうちに、学生時代のような情熱というかこだわりはいつの間にか消えてしまっていた。

 ところが、幸運なことに筆者はちょうど1年くらい前にFlashベースの“Prezi”という斬新なプレゼンツールを見つけた。これはPowerPointやKeynoteといったスライドを1枚ずつ切り替えて表示していくタイプの線形的なアプローチではなく、プレゼン全体が1つの大きなキャンバスであり、その上でカメラ視点を様々に移動させていくという非線形的なアプローチを採っている。従来のプレゼンツールと“Prezi”の「線形/非線形」という対比は、逐次的なページを持つ本とページを持たないウェブページ(この表現自体、逆説的でおもしろい)との関係に類似するかもしれない。とにかく、百聞は一見に如かず、ということで実物を見た方が理解は早い。

 この“Prezi”ではオーディエンスが自由にズームイン/アウトしたり、任意の場所に移動したりすることができる。もちろん、キャンバス全体を俯瞰することもできる。つまり、“Prezi”のインタフェースはより直観的かつインタラクティブな操作を可能としている。そのため、タッチパネル式のタブレット端末とは今後、相性が良くなっていくものと期待している(スマートフォンでは少しディスプレイが小さいかもしれない)。その他、動画、音声、グラフィック、PDF、Excel、PowerPointなども簡単に挿入することができる。また、これらの機能的特長に加え、クラウドサービスであることも特筆すべき点だろう。“Prezi”は専用エディタも提供しているが、ブラウザ上で作成・編集できるだけでなくプレゼンまでできるように設計されている。こうした点でも、PowerPointやKeynoteといった従来のプレゼンツールとは一線を画しており、モバイル性の高いタブレット端末にマッチしたコンテンツと言える。

 なお、“Prezi”はハンガリー最大の通信事業者Magyar Telekomの支援により、2008年5月に首都ブダペストで設立されたベンチャー企業。利用ライセンスには無料ライセンスもあるが、基本的なビジネスモデルは有料ライセンスによる収益。“Public(無料ライセンス)”では100MBのスペースが付与されるが、同ライセンスで作成したプレゼンは“Prezi”のロゴが表示され一般に公開される。一方、有料ライセンスには“Enjoy”と“Pro”があり、それぞれ料金は年額59ドルと159ドルで付与スペースは500MBと2GB。有料ライセンスでは作成したプレゼンを非公開にもできる他、“Pro”ではオフライン作成もできる。

 ちなみに筆者は今のところビジネスユースで“Prezi”を利用する機会には恵まれていないが、プライベートユースで利用した経験から言えば、プレゼンのクールさは向上したように感じる(少なくとも見た目は)。“Prezi”の公開プレゼンには、クリエイティブで非常にインスパイアされるものが多数ある。筆者もこの“Prezi”で遊びながら、プレゼンの非線形性を試していきたいと考えている。

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