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Global Perspective 2011
2011年1月6日掲載

シンガポールStarhubらNFCトライアルを実施

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 2010年11月30日、以下の5社がシンガポールStarhubのモバイルプラン加入者でDBS銀行の顧客1,000人を対象にしてNFCのトライアルを開始すると発表した。

 トライアルは2010年12月から開始し、実施期間は8カ月。
今回のトライアルでは、既存の携帯電話をそのままNFC対応携帯電話として利用できるN-Flexソリューションを導入する。
 N-FlexソリューションとはSIMカード上で動作して複数の携帯電話機で利用できる。これはGSMAで承認されたシングルワイヤプロトコル(SWP)に準拠している。

 今回のトライアルではユーザは、マスターカードのPayPassやEz linkのカードが使えるすべての店舗、バスや電車といった公共交通機関で携帯電話による支払いができるようになる。

 トライアルユーザには、StarhubまたはDBS銀行からオンラインで参加登録に関するするメールが送られてくる。
 ユーザはトライアル用に携帯電話での支払いができるように、Starhubのカスタマーサービスセンターで、携帯電話にN-Flexデバイスの装着と携帯電話のSIMカードへのマッピングを行う必要がある。

 今回の発表から、以下の点について考察してみたい。

1.キャリアとしての差別化

 Starhubは、以前からNFCの取組みに対して非常に熱心である。2008年4月には日本に、おサイフケータイの利用について視察に来ている。

 シンガポールは人口約473万人で、携帯電話加入者数が約718万と、普及率では約152%と非常に高い。昨年から7%成長している。
Starhubは、加入者数が約212万で、シェア約30%のシンガポール2位のキャリア。(2010年9月時点)
(1位はSingtel でシェア約45%、3位はM1でシェア約25%)

 携帯電話市場としては飽和状態であるから、キャリアとしては顧客囲い込みとして何らかの差別化になるサービスを提供する必要がある。
今後、NFCが商用化になれば、キャリアとしては一つの差別化になるだろう。

2.リアルとの連携

 シンガポールに行ったことがある方ならわかると思うが、シンガポールではMRT(鉄道)、バス、コンビニ、自動販売機等あらゆるところで、Ez linkの利用が可能である。
今 回のトライアルではEz link、PayPassが利用可能な店舗、公共交通機関で利用できるということから、ユーザから見ても非常に利便性が高い。新たに専用のリーダーライターを設置しなくてよいから既にインフラが整備されているのは非常に効率的である。
 また、シンガポールは、Ez linkの普及率の高さ(約800万枚発行)からシンガポール人にとって、NFC利用は生活の一部になっている。今後、商用化された時も、ユーザにとっては違和感なく受け入れられる可能性が高い。

3.今後の展開への期待と懸念

 今回はStarhubのユーザが対象ということで、StarhubのSIMカードを用いているユーザのみが利用できることによるユーザの囲い込みのひとつになるだろう。現在のトライアルでは最初の手続きが面倒だが、商用開始となる時には、最初から本機能を搭載したStarhubのSIMカードを利用することになれば、ユーザの利便性も向上することだろう。
また今後、StarhubのSIMカードのユーザが買い物した料金の一部をレベニューシェア収入として徴収する等のキャリアとしての新たなビジネスモデルも検討できるのではないか。
キャリアとしてStarhubがどのようにNFCビジネスに関わってくるか注目したい。

 懸念点としては、すでにEz linkが広く普及しているシンガポール市場で、ユーザは新たにStarhubのSIM・携帯を用いて利用するかどうかということ。また既存のSIMカードを利用しているユーザに対してのNFC対応のアクティベーションの敷居を低くさせなくてはならないだろう。現在のトライアルを見る限りにおいては、ユーザは特定のショップに行きアクティベートさせる必要があり、決して便利とは言い難い。とはいえ、既存の約212万人のユーザが一斉にSIMを交換するには手間だけでなくコストも相当かかる。
 Starhubとしては、Ez linkやPay Passよりもユーザにとって利便性やお得感などを積極的にアピールしていきながらも、彼らと協調しながら提供していく必要があるだろう。

 このサービスの一般ユーザへの本格的な提供開始は、現在2011年後半に予定されている。
今回のトライアルでも、各社の役割が明確でそれぞれにとってメリットがある。
商用化されれば、NFCにとって良いエコシステムのモデルの一つになるのではないだろうか。
 また、N-FlexソリューションのSIMによるNFCの展開に関しても注目される。
シンガポール市場での今後の携帯電話を用いたNFC展開に期待したい。

【参考動画:PayPass テレビ広告】

【参考動画:Ez link テレビ広告】

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