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Global Perspective
2011年2月1日掲載

フランスOrange:NFCへの挑戦

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 2010年12月16日、フランスOrangeは、欧州でのNFCに本格的に取り組むことを発表した。電車乗降、店での支払い、時刻表情報等の収集をNFCで実現していくとのこと。2011年後半までに欧州のOrangeグループに導入する予定で、フランスで2011年末までに500,000台の普及を目指す。
このようなNFCサービス展開に関して明確なコミットメントを表明した欧州のキャリアは、Orangeが一番最初であると述べている。
CEOのStephane Richard氏は、「スマートフォンの進化は人々の生活を大きく変えた。今後は決済手段をシンプルにする。そのために他キャリア、銀行、店舗、交通機関らと連携して顧客ニーズにあったエコシステムを構築していく」とコメントしている。NFC機能搭載で安全性の高い新たなSIMカードを導入してNFCサービスを実現するとのこと。

 Juniper Researchによると欧州でのモバイルペイメント市場は、2014年までに約270億ドルの市場規模になるだろうと予測している。またiSuppli の調査では2014年には携帯電話出荷台数のうち14%にあたる2億2,000万台がNFC対応の携帯電話になるとのこと。

 Orangeはフランスの他キャリアSFR、Bouygues、NRJ mobileらと、2010年5月からフランスのニースで、Cityzi というNFCトライアルを実施していた(トライアルのイメージは下記動画参照)。これらのトライアルを踏まえての今後の商用化に向けての表明ということだろう。

 今回のOrangeの欧州でのNFCへの本格的な取り組みに対するコミットメントを以下の点から考察してみたい。

1.他キャリアとの連携、キャリアの役割


 2010年5月から実施していたニースでのトライアル”Cityzi”では、SFR、Bouygues、NRJ mobileの他フランスキャリアとも提携して実施していた。
しかし、今回の報道発表はOrangeからだけで、他キャリアからは何も発表されていない。
今回のNFCに向けて、Orangeは新たなSIMカードを開発するとのことだが、Orangeユーザのみが利用可能なのだろう。
顧客の囲い込みとしては良いかもしれないが、Orangeのメリット・ビジネスモデルはどこにあるのだろうか。手数料を徴収するのだろうか。具体的な表明はない。
トライアルの際、ユーザはどのキャリアでも利用可能だった。今回はOrangeのSIMのみでの対応である。トライアルでは約3,000人を対象に実施し満足度は高かったそうだが、どのくらいのユーザがOrangeの顧客であったのか不明である。(フランスの携帯電話シェアで単純に分算すると、Orangeのシェアは約45%だから、約1,350人だろうか)
今後、いかにして他キャリアも取り込んでいくかがフランスでNFC普及の鍵になるだろう。
Orangeグループは、NFCを欧州のOrangeグループでも展開していくとのことだ。Orangeは欧州では、フランスの他にイギリス、スペイン、オーストリア、スイス、ベルギー等13カ国で展開している。
これらの国々にも展開していければ相当なスケールメリットも期待できる。

 但し、各国によって規制や提携する店舗、会社が異なるだろうから一筋縄にはいかないだろうから欧州全体でOrangeが主導してNFCを推進するまでには時間を要するし、国によっては実現できないところもあるだろう。

2.リアルとの連携

 今回の発表によると、Orangeは2011年末までに500,000台加入を目指しているとのこと。昨今ではAndroidやSymbian のスマートフォンがNFC対応を表明している。
余談だが、フランスではSamsungの端末が一番人気ある。同社が発表したAndroid 2.3でNFC対応したNexus Sへの期待もフランスでは大きいだろう。

 フランスの携帯電話加入者数は約5,720万人、加入者率(約91%)である。大手3キャリアのシェアはOrange 約45%、SFR 約36%、Bouygues 約18%。それだけのユーザを抱えていながら、2011年末で500,000台が目標というのでは、小さすぎるのではないか。今回の発表では、リアルでの具体的な店舗は出てきていない。

 当面は、Orangeユーザの500,000人しか利用者がまだ見込めないのに、リアルな店舗は名乗りを上げるのは躊躇しているのではないだろうか。リーダーライターの設置や決済システムとの連携を考慮すると先行投資としては高すぎると考える。また欧州はファーストフード店以外ではレストランはテーブルで会計を行う。チップも必要だ。携帯電話でのNFCの場合、どのように支払いをするのかも注目したい。

 一方で、ユーロは日本円と比べて小銭が重たい。ジャラジャラと持つのは不便だ(その小銭をチップやトイレに入る時に利用することが多いのだが)。
そしてスーパーやローカルショップではレジに遅く並ぶことが多い。携帯で簡単に決済できるようになれば、その利便性を大きく訴求できることだろう。
NFCサービスはリアルの店舗、端末(SIM)、決済会社らとのエコシステム・ビジネスモデルと役割分担が重要である。まだ商用化に向けての道程は遠いかもしれない。

 Orangeは2005年からNFCに取り組んでおり、フランスだけでなくイギリスOrangeもNFCのトライアルを積極的に実施してきた。
今回欧州大手キャリアのOrangeが、欧州で初めてNFCに対する取組みをコミットした。具体的に新しいSIMも開発するとのこと。キャリアがそのイニシアティブをとろうとするという点で、Orangeがどのようなビジネスモデルで取組んでいくか注目したい。

 今後、フランスでのNFC商用開始および欧州への拡大・普及、他キャリアとの連携に期待したい。

参考サイト Cityzi:http://www.cityzi.orange.fr/

【参考動画:CityziプロジェクトでのNFC事例(スーパーでの買い物)】
(日本のおサイフケータイと違って、暗証番号入力やリーダーライターに2回タッチしている)

【参考動画:CityziプロジェクトでのNFC事例(パン屋での支払い)】
(小銭でバラバラ出されて嫌そうな店員と対比させ、おサイフケータイの利便性を遡及している)

【参考動画:CityziプロジェクトでのNFC事例(ミュージアムでの活用)】
(絵画の情報を入手できるような、日本のトルカのような活用をしている)

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