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Global Perspective
2011年4月22日掲載

世界の高齢化社会・視覚障害市場のニーズに通用する富士通「らくらくホン」のコンセプト

グローバル研究グループ 佐藤 仁
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 2011年4月15日、NTTドコモは「らくらくホンベーシック3」の販売を発表した。
富士通がNTTドコモ向けに提供している「らくらくホン」は、高齢者層をターゲットにした端末で2009年7月には累計販売台数1,500万台を超えたと発表した。
今回は、富士通を代表する携帯電話機である「らくらくホン」のプロダクトラインナップと世界の高齢化社会についてみてみたい。

 もともとNTTドコモから最初に「らくらくホン」として登場したのはパナソニックのP601esで1999年に販売されている。その後、2005年には三菱電機から「らくらくホンシンプル」(D880SS) が通話専用機として販売されたことがあった。それ以外にNTTドコモから販売されている「らくらくホン」は全て富士通から提供されている。

 「らくらくホン」は、ITリテラシーの高くないユーザ(主に高齢者)と視覚障害者をターゲットとしていた面は当初から見受けられた。その方々向けの機能は初めから搭載していた。
例えば、「大きく見やすい文字表示」、「押しやすいボタン」、「聞きやすい音質」、「音声読み上げ」、「口語調のメニュー」等である。
コンセプトである「しんせつ」「かんたん」「見やすい」「あんしん」は当初から変わらず貫いており、全ての機能やデザインはこれを基準に設計されている。

 以下にNTTドコモ向けの富士通「らくらくホン」についてピックアップしてみたい。
詳細な仕様は同社のサイトを確認頂きたい。(2011年4月現在)

1.らくらくホンII

  • mova F671i
  • 2001年9月1日発売
  • フリップ式

2.らくらくホンIIS

  • mova F671iS
  • 2002年9月6日発売
  • 折りたたみ式

3.らくらくホンIII

  • mova F672i
  • 2003年9月5日発売
  • 歩数計搭載

4.FOMAらくらくホン

  • FOMA F880iES
  • 2004年9月4日発売
  • 初のFOMA向け端末
  • 初のカメラ搭載

5.FOMAらくらくホンII

6.FOMAらくらくホンIII

  • FOMA F882iES
  • 2006年9月1日発売

7.らくらくホンベーシック

  • FOMA F883i
  • 2007年4月13日発売
  • 原研哉氏のデザイン
  • カメラ非搭載

8.らくらくホンIV

  • F883iES
  • 2007年8月17日発売
  • 初のGPS対応

9.らくらくホンプレミアム

  • F884i
  • 2008年4月14日発売
  • iアプリ、ワンセグ、おサイフケータイ、FOMAハイスピード、GSM国際ローミングなど初めて搭載された高機能端末
  • 原研哉氏のデザイン
  • 横モーション対応

10.らくらくホン ベーシックS

  • F883iS
  • 2008年5月19日発売
  • F883iSSはバリューコース対応モデルで、機能はF883iと同等だが、筺体の色は全て変更。

11.らくらくホンV

  • F884iES
  • 2008年8月1日発売
  • 初の脈拍計搭載
  • 健康アプリ「健康生活日記」をプリインストール
  • WORLD WING(3G)対応
  • 初のエリアメール対応

12.らくらくホン ベーシックII

  • F-07A
  • 2009年4月9日発売
  • スーパーダブルマイク搭載
  • おまかせオートフォーカス等カメラ機能が充実

13.らくらくホン6

  • F-10A
  • 2009年8月7日発売
  • 初の防水対応
  • ワンセグ搭載

14.らくらくホン7

  • F-09B
  • 2010年7月23日発売
  • デコメール作成可能
  • 防水・防塵対応
  • WORLD WING(3G+GSM)対応:この端末があれば世界中で通話可能

15.らくらくホンベーシック3

 「らくらくホン」の販売時期を見るとわかるように、そのほとんどが8月や9月が多い。これは、9月の敬老の日にプレゼントとして購入することをターゲットとしているからだ。
「らくらくホン」は今では防水・防塵対応もされ、カメラ機能も充実、国際ローミングにも対応している。また歩数計や見やすい大きな表示、聞き取りやすい「はっきりボイス」等、高齢者のニーズを完全に取り入れた素晴らしい端末である。今回の新機種も「つながりほっとサポート」や「声の宅配便」といった高齢者のニーズにあったサービスに対応している。

 かつてNTTドコモと富士通は2008年3月に、ソフトバンク向けの東芝821Tに対して製造、販売等の差止めを求める仮処分命令の申立を行い、2009年4月には和解した経緯がある。現在、その両社は2010年10月に富士通東芝モバイルコミュニケーションズ株式会社を設立した。今後相互補完関係でますます良い端末を製造販売することに期待している。

 今後「らくらくホン」はどのように進化するであろうか。
現在、日本でも世界でもiPhone、Andoroidに代表されるスマートフォンが隆盛を極めている。そのような市場環境だが、高齢者がスマートフォンを利用するだろうか。現在「らくらくホン」を利用している高齢者のユーザがすぐにスマートフォンを利用するとは考えにくい。もしくは、スマートフォンをベースにした「らくらくホン」を開発するであろうか。
富士通は日本でもいち早く防水携帯電話を開発する等、非常に高い技術力を持った会社であるから、高齢者向けのスマートフォンも実現できるかもしれない。今後、日本はますます高齢化・長寿社会となっていく。「らくらくホン」のニーズはまだまだあるだろう。

 世界一のシェアを誇るノキアでも「らくらくホン」のようにシニア層をターゲットに絞った携帯は見当たらない。有名なところでは、Doroという携帯電話機メーカーが「使いやすさ」を売りにした端末を販売している。

 「らくらくホン」のコンセプト「しんせつ」「かんたん」「見やすい」「あんしん」は世界の人々が求めているし、世界で通用すると言えるだろう。
それらは "ガラパゴス"と揶揄されるどころか、日本が世界に先行する誇るべき携帯電話端末といえるだろう。

 WHOが2010年5月発表した世界の平均寿命ランキングでは日本が世界一で82.7歳である。ついで香港82.2歳、スイス81.8歳、アイスランド81.8歳、オーストラリア81.5歳と続く。平均寿命が80歳以上は17カ国、70歳以上が117カ国もあるのだ。高齢化を示す60歳以上の人口が日本は2010年に23.1%。イタリアやドイツなど欧州では20%程度の国が多い。
国連の人口推計によると、2050年には中国も30%、韓国33%、シンガポール35%が高齢化率になるといわれている。(日本は42%)これらは事実として受け止めざるを得ないが、このような高齢化社会に迎えるにあたって新たなビジネスチャンスともなるのではないだろうか。

 今後、世界中で「らくらくホン」のような携帯電話の需要は高まってくるのではないだろうか。日本で培ったコンセプト、技術力、高齢者や視覚障害者に優しいきめ細かい使い勝手の良さをもってすれば世界でも十分通用するのではないだろうか。
そのベースになるのがスマートフォンであろうと、現在のような標準機であろうとお年寄りにとって使いやすい端末の提供が今後も求められるだろうし、高齢化が進む世界では、その需要は今後も増加するのではないだろうか。

 さらに、冒頭でも明記したように「らくらくホン」の音声読み上げ機能は視覚障害者からの期待や需要も高まっており、他機種にない大きな差別化となっているし、世界からも需要があるだろう。まさしく富士通の技術力を持ってして実現した機能と言えるだろう。

 今後の「らくらくホン」の進化と高齢化が進む世界のシニア向けと、視覚障害者向け携帯電話市場の動向に注目していきたい。

本情報は2011年4月15日時点の情報である。

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