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2011年6月9日掲載 |
英フィナンシャル・タイムズ紙は2011年6月7日、HTML5技術を使ったニュース配信アプリ「FT Web App」を公開した。まずはiPhone、iPad向けとして提供されているが、将来はAndroid向けにも対応する予定だとしている。 このアプリの登場に注目したのは、これが単に世界的に著名な新聞社によるネット配信事業の発展という括りではなく、「App Store」「Android Market」といったアプリケーション・ストアの事業の将来を揺るがす可能性を示唆するからだ。 App Storeからの「卒業」フィナンシャル・タイムズのiPhone、iPad向けアプリは、これまでiTunes Storeで提供されてきた。ただし今回公開されたアプリはiTunes Storeでは提供されず、利用者は同社のウェブサイト(http://app.ft.com)へブラウザから直接アクセスすることになる。フィナンシャル・タイムズはアップルが構築したアプリストア事業から、いわば卒業するわけだ(と言っても、従来版アプリはiTunes Storeで引き続き提供されるようだ)。 iOSからの「卒業」今回公開された新アプリはiPhone、iPad向け(正確には、iPhoneは3GSと4が対応)である。しかし、HTML5対応のブラウザ上で提供されるということは、それら端末のOSに依存しないということだ。iPhone、iPad向けと言っても、画面表示や操作(ナビゲーション)を端末ごとに最適化しているにすぎず、アップルのアプリ開発キットに縛られることもない。すなわち、iOSからも卒業することになる。 ブラウザの復権でアップル・グーグルによる「シバリ」が弱まる アプリの開発・提供形態が将来、今回のようにブラウザベースに移行すれば、利用者〜端末(デバイス)〜OS〜アプリケーション・ストア〜アプリ開発・提供者へとつながる垂直統合的なバリューチェーンは、その影響力を弱める。 利用者は、アプリへの依存度が高ければ高いほど、そのバリューチェーンへの依存度も高くなるのだが、ブラウザベースのアプリ提供が主流になれば、端末とアプリ開発・提供者の間にある、OSとアプリケーション・ストアがスルーされる。すなわちダムパイプ化である。 また、アプリのマルチデバイス対応が進めば、アプリ、利用者ともに端末への依存度が弱まる。アップル・グーグルは端末〜OS〜アプリケーション・ストアを握ることで利用者を縛ってきたが、それが難しくなる。 チャンスは誰に?アプリがOSフリーになり、デバイスフリーになると、それは誰にとって追い風なのだろうか アプリ開発・提供者にとっては、OS毎・デバイス毎の開発の必要性が低くなることでより多くのデバイスをターゲットにしやすくなる。アプリの「蛇口」を増やしやすくなる点は追い風だ。しかし、世界市場向けにアプリを展開しようとすれば、今は「App Store」「Android Market」の2カ所に提供すればよい、ともいえる。多くのスマートフォン、タブレットの利用者がアクセスするこの2大ストアから、今後他のアプリケーション・ストアに利用者が分散するようだと、むしろ利用者へのアプローチが難しくなるかもしれない。 通信事業者にとってはどうか。アプリケーション・ストアを通じて利用者との接点を強化したい彼らにとっては、2大ストアからの分散は歓迎だ。通信事業者各社は、自国市場をよく知る強みを活かし、2大ストアに差をつけたいところだろう。また自社ストアのほうが、自社の課金プラットフォームも活用しやすい。さらに、通信事業者主導のアプリ事業を推進したいWACの試みが軌道に乗れば、こうした流れはより加速するだろう。 大半の端末メーカーにとっては、あまり大きな影響はないかもしれない。しかし、世界的にはOSが「iOS」か「Android」でなければ端末が売れないという現実があり、OSフリーの動きは他のOSを採用する陣営には歓迎だ。ブラックベリーのRIM、ノキア=マイクロソフト、Palmを買収したHP、また自社OS「bada」を持つサムスンにとっても市場シェアを伸ばすチャンスが増えることになる。 |
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