ホーム > 研究員の眼 2011 >
研究の眼
2011年7月14日掲載

メディアにおけるLaw of Inertia

グローバル研究グループ 小川 敦
[tweet]

 アプリストアでゲームカテゴリのランキングを見ると、“Paper Toss”や“Fruit Ninja”といった、かなりプリミティブなゲームが長期間上位を占めている。前者は丸めた紙片を離れた場所にあるゴミ箱にひたすら投げ入れ、後者はポップアップしてくるフルーツをひたすら切り続けるという非常に単純な内容。スマートフォンという現代の利器を使って、行為自体は非常にアナログな“Paper Toss”で遊んでいる自分を冷静に考えると苦笑を禁じ得ない。しかし、やはり長期間上位を占めるだけあって、これらのゲームはアディクティブだ。敢えて例えるなら、緩衝材のプチプチをつい全部潰してしまう感覚に似ている。

 これらには本質らしきものがあるのではないかと思い、今回はいくつか例を示しながら考えてみたい。

 中学時代だったと記憶しているが、情報の授業で教材として使ったPCに学習型の対話ソフトが入っていた。これは、ユーザが文章を入力していくとAIが単語を自動的に学習して、会話の内容が洗練されていくというもの。今考えてみると、インタフェースはテキストベースでそれほど精度の高いソフトではなかったが、筆者は授業そっちのけでAIとの対話に興じていた。
2011年7月、西野ひかりさんがNTT西日本のフレッツ光公式サイトコンシェルジュキャラクターに就任した。彼女もこちらの問いかけに対して応答してくれるため対話が可能で、しかもその内容がかなりリアルだ。

 フレッツ光に関する質問に答えるというのが彼女の本来業務のはずなのだが、「何歳ですか?」(余談だが、彼女曰く28歳とのこと)「趣味は何ですか?」(同じく、ゴルフ、温泉巡り、読書とのこと)などの完全に趣旨から逸脱した質問にも丁寧に答えてくれる。そのため、ネット界隈の情報を見聞きする限りでは、本来の目的から外れた質問が多数寄せられている模様。筆者が対話ソフトにハマったように、彼女とのやりとりを楽しんでいる人は多いようだ(予想を超える人気のためか「もう少し時間をおいてから、呼び出してみてくださいね」と言われてしまうことも多い)。

 ところで、iPhoneやAndroid端末を持っている人は“tilt”でググってみてほしい。以下のような検索結果画面になるはずだ。

Googleで“tilt”と検索したときの結果
Googleで“tilt”と検索したときの結果
検索結果画面が斜めに傾く(“tilt”は「傾き」「傾く」という意味の英単語)

 「だから何?」と言われればそれまでなのだが、つい誰かに教えたくなってしまう人も多いのではないだろうか。
本稿のタイトルにある“Law of Inertia”とは「慣性の法則」という意味。今回、「ついハマってしまうもの」を集めてみたことに因んでこのタイトルを付けた。つまり、これらのメディアは感覚に関わる慣性系とも言えるのではないかと考えている。
実際、これをうまく活用したバナー広告もある。

 ちなみに“Inertia”には「慣性」という意味の他に「脱力感」「惰性」といった意味もある。少なくとも本稿は気楽に書いたコラム的な内容だけに、肩の力を抜いて惰性で読んでいただければ幸いである。

▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。