ホーム > 研究員の眼 2012 >
研究の眼
2012年5月21日掲載

ラジオ業界におけるインターネットとSNS
〜IPサイマルラジオ放送「radiko.jp」の取組み〜

グローバル研究グループ 酒井順一朗
[tweet]

昨年の東日本大震災を契機に、災害に対する耐性が高く、細やかな地域情報を機動的に提供できるラジオの存在感が高まっている。しかし、このようなラジオを取り巻く環境は必ずしも順風とは言えない。若者を中心としたラジオ離れ等を背景に、収入源である広告費は、1991年の2,406億円をピークに、2011年は1,247億円というほぼ半分強の水準まで落ち込んでいる。

そのようなラジオ業界において、2010年に試験配信を開始した「radiko.jp」に期待が集まっている。「radiko.jp」とは、ラジオ放送をインターネットで同時にサイマル配信(同時並行配信)する、IPサイマルラジオサービスである。本稿では、この「radiko.jp」の現状と今後の展開を概観していきたい。

「radiko.jp」は、2010年3月15日から、関東地区7局、関西地区6局によるIPサイマルラジオ協議会を主体とし、主にラジオの難聴取エリアの解消を目的に実用化試験配信を開始した。その後、約9ヵ月の実用化配信実験を経て、同年12月1日、株式会社radiko設立と同時に、さらに配信エリアを拡大し、本配信を開始。2012年4月2日には、「radiko.jp」が全国各地で聴取可能になった。(全国で聴取できるのは、「ラジオNIKKEI」と「放送大学(ラジオ)」のみ。その他の放送局の聴取可否に関しては、地域ごとに異なる。)

現在まで、「radiko.jp」のユーザ数は順調に伸びていると言えそうである。株式会社radikoによると、2012年1月の月間ユニークユーザー数(=サイトに訪問した人数)は780万人に達し、2011年の1年間で約2倍になった。また、各聴取ツールのダウンロード数も着実な伸びを見せている。IPサイマルラジオ協議会が2010年より年2回(現在までで計4回)実施している調査によると、2012年1月時点では、PC用の聴取ツールは約290万DL、スマートフォンアプリは390万DLに至っている。

このようなユーザ数の伸びの背景には、「音声品質の向上によりリスナーを呼び戻すことに成功したこと」、「パソコンやスマートフォンでラジオが聴取でき、現代の多くの人にとって、ラジオ聴取機会が拡大されたこと」が背景にあると考えられる。
特に後者に関しては、ラジオから離れた、もしくはそもそもラジオを知らない若年層が新規リスナーになることにもつながっているようだ。上記の調査によると、2010年4月においては、10代のリスナーの割合は3.3%だったが、2011年12月時点では7.4%に増加している。またリスナーの平均年齢をみてみても、地上波ラジオ放送を聴いている人の平均年齢が約48歳であるのに対して、「radiko.jp」で聴いている人の平均年齢は約38歳である。若者のラジオ離れが課題であったラジオ業界にとってこのことは特筆すべきことであると考えられる。

このような「radiko.jp」の今後の発展に、重要な役割を果たす可能性があると考えられるのが、フェイスブックや、ツイッター、ミクシィといったSNSとの連携である。(2011年11月よりradiko.jpはこれらSNSサービスとの連携を開始。)「radiko.jp」のSNSとの連携に関して、ここでは以下の2つの観点で考察していきたい。

一つ目に、つながりの量、特に認知度向上の観点に着目する。昨今、インターネット上のコミュニケーションの方法がソーシャルに大きく動いていると言われている。そのような状況において、(現在のところ)プラットフォームとして広く認知されている上記のSNSサービスと連携することで、radiko.jpの情報がよりたくさんの人の目に触れ、それが認知度向上につながるのではないかと考えられる。ラジオパーソナリティとの共有や共感がSNSで拡散し、radiko.jpを知り、ラジオの存在を知り、ラジオ番組を知り、その番組のリスナーになる、このような連携を期待できると考えられる。既に、2012年1月だけでもradiko.jpに関してツイッター上で言及されている数は、6万6000件近くにも上るという。

二つ目は、SNSによって創出される「つながり」の質の観点である。SNSは従来のFAXやメールによるコミュニケーションと比較すると、すべての投稿が公開されており、多くの人が見ることができる。それによって、従来のパーソナリティと各リスナーのコミュニケーションだけでなく、各リスナー同士のコミュニケーションも可能になった。ニッポン放送アナウンサーの吉田氏によると、『自身がパーソナリティを勤める番組内において、ツイッター上で投稿が読まれたリスナーに対して他のリスナーからもコメントが寄せられたり、放送がない日にもツイッター上で集まろうという動きも起きていたりするとのことである』(宣伝会議2010.12.15)。もともと、ラジオはパーソナリティとリスナーとの間で深い「つながり」を醸成していたと言われる。SNSによって、パーソナリティとだけではなく、リスナー同士もコミュニケーションができる「場」ができることで、番組とリスナーがより強い「つながり」を持ったコミュニティを形成することができると考えられる。また、TBSラジオのプロデユーサー長谷川氏によると、『スポンサー候補にプレゼンする旨をつぶやいたところ、番組を支える企業を熱烈に支持するRT(リツイート)が相次ぎ、そのTL(タイムライン)のコメントが決め手となってスポンサーシップが決まったということがあった』(「ラジオ復活をSNSに託す」)そうだ。コミュニティは各リスナーの番組に対する愛着を高めるだけでなく、番組の広告価値を高めることにつながるかもしれない。

既存メディアはインターネットやSNSとのつき合い方を試行錯誤している。このような中で、ラジオ業界と「radiko」がどのように変化していくのか、SNSを通じて一方通行のマスメディアではなく、パーソナリティとリスナー同士が「つながり」を持つことができるコミュニティメディアとして新しい形を提示できるのか、今後の動向に注目していきたい。

【参照】

▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。