ホーム > 志村一隆「ロックメディア」2007 >
志村一隆「ロックメディア」
2007年12月掲載
ロックメディア 第2回

脚本家のストライキと映像配信のビジネスチャンス


志村一隆(略歴はこちら)
 チャンスを掴むときいて、なぜかいつも僕が思い出すのは、巨人の篠塚が昭和56年5月、5打数4安打4打点した試合だ。中畑が怪我したので、篠塚が3番を打ってあのバットが腰に巻きつくスィングでいきなり4安打、レギュラーを掴んだのだ。あの試合で活躍しなければ、その後の篠塚はなかったし、シングルヒットを狙う3番打者という新しいバッター像も確立されなかったと思う。今、米国で起きている脚本家組合のストライキと、インターネットドラマを米国のネットワーク局のひとつNBCが放送することになったというニュースを聞いて、思い浮かべたのは、この篠塚の話だった。

 NBCは、世界で1億人以上が利用しているSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)、MySpaceで配信されているドラマ「quarterlife」を放送することを決定した。今まで、インターネットにテレビドラマが流れたことはあっても、ネットドラマがテレビで放送されたためしはない。「quarterlife」のプロデューサーが映画「ラスト・サムライ」の脚本を手掛けたハリウッドの有名人であり、「MySpace」がメディアコングロマリット「ニューズ社」の傘下にあるので、独立プロデューサーがいきなりチャンスを掴んだという話ではないが、「ネットドラマ、NBCで放送される」というニュースは、大事件であることに変わりない。

 では、なんでNBCがこの「quarterlife」を放送することになったかというと、11月5日から始まった全米脚本家組合のストライキが影響している。脚本家のドラマ枠に穴の空いたNBCがネットドラマに目をつけたのだ。ストライキの要求は、インターネット配信などであがった収益を脚本家にも支払えというものだ。ストライキが1ヶ月以上続くにしたがって、脚本がなくなった番組が放送できない事態となっている。番組視聴率が20%落ちたという報告もある一方、ハリウッドの映画会社側は、冷静な対応をしている。前ディズニーのアイズナー氏は、「ストライキは、時期尚早だろう。映画会社だって作品をオンライン配信しても、スターバックスで1日のんびりするぐらいのお金しか儲からないよ」と言っている。(Advertising Ageインタビュー)

 脚本家組合のストライキをチャンスと捉えているのが、自社制作ドラマをインターネットで配信するクリエイティブなベンチャー起業家たちだ。彼らは、検索、オンデマンドのニーズなどインターネット上の文化を深く理解しながら、若者向けの作品を制作している。そんな彼らの作品がテレビで放送されだしたら、若者の心を掴み案外テレビの視聴率があがるのではないだろうか。

 イノベーションは、なにかとてつもないチャンスをモノにして初めて起こる。脚本家たちがストライキをしている間に、代替品のベンチャークリエイターたちが、テレビを席巻してしまうかもしれない。19年前、脚本家組合のストライキは22週間続いた。前回は、代替の番組がなかったが今回は違う。5年後から今を振り返ったとき、「quarterlife」は、テレビとインターネットの力関係が逆転した記念碑的な作品になるかもしれない。

【Quarterlife on Myspace http://www.myspace.com/quarterlife

 「quarterlife」は、映画「ラスト・サムライ」の脚本を手掛けたエドワード・ズウィック(Edward Zwick)、マーシャル・ハースコヴィッツ(Marshall Herskovitz)の2人がプロデューサーとして名を連ねている。彼らは、1990年代にABCで放送され一世を風靡したドラマ「My So-Called Life」を製作したチームである。このドラマはNHKでも「アンジェラ・15歳の日々」として放送されていて、読者で見た方も多いだろう。10代の日常の悩みを綴るこのドラマで、主人公クレア・デインズは、ゴールデン・グローブ賞を獲得、エミー賞候補になった。quarterlifeも大学生の日常がそのまま描かれるシリーズで、ズウィック・ハースコヴィッツチームらしい作品だ。因みに、彼らは脚本家組合所属である。ストライキとの関係は、確認できていない。

▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。