ホーム > The World is Smart 2011 >
The World is Smart
2011年1月6日掲載

キュレーション時代の幕開け

[tweet]

 昨年頃から「キュレーション」、あるいはその行為者としての「キュレーター」という文字を見かけることが増えてきた。

 私が最初に見かけたのがWiredのOverwhelmed? Welcome the Age of Curationという記事で、その後、ジャーナリストの佐々木俊尚氏がTwitterなどで発言しているのを目にした。また、日経でも「2011年IT注目キーワード」としてキュレーションを取り上げた記事を2010年末に紹介している。

 その日経の記事によれば、キュレーターとは、元々、博物館や美術館で展覧会の企画などを担当する役割の人を指し、転じて、ICTの世界では情報をまとめることをキュレーションと呼び、その行為者をキュレーターと呼ぶと解説している。

 また、佐々木俊尚氏は「キュレーション・ジャーナリズムとは何か」という記事の中で、キュレーションを以下のように定義している。

“キュレーションは情報を収集し、選別し、意味づけを与えて、それをみんなと共有すること”

 佐々木氏の定義の方が、個人的な感覚に近い。つまり、キュレーションとは、単に無目的に情報を集めるのではなく、集める段階で何らかの意図や目的を持ち、それをフィルターとして情報を収集し、その結果を共有するというものだと考えている。

 私たちを取り巻く環境では、日々、大量の情報が生み出されている。とてもではないが、それらすべてに目を通し、処理することはできない。そのため、ネットでは、例えばNAVERまとめのようなサービスが今まで以上に注目されてきている。実際に、NAVERは「なぜ、今、キュレーションなのか?」というセミナーを開催し、NAVERが考えるキュレーションやNAVERまとめが目指すところを披露している。

 このキュレーションという概念を広く捉えれば、今後、ICTの発展により、ますますこのような流れが加速していることが予想できる。

 例えば、スマートグリッドは、大まかに言えば、電力とICTを融合させることで、今まで以上に便利で、新しい電力の使い方を目指す取り組みだといえる。スマートグリッドでは、家庭内の機器や電気自動車、太陽光パネルなど、われわれを取り巻くあらゆるものの情報を収集し、それらを分析することで、効率的に電力を利用することを目指している。

 そのために、今後、さまざまなものにセンサーが付き、そこから大量のデータを収集できるようになっていく。そのデータを保存し、処理をするためには膨大なITリソースが必要になる。収集されるデータは日々増え続けるため、データ量の予想は難しい。そこでは、データ量や処理量の変化に柔軟に対応できるクラウドコンピューティングが重要な役割を果たすことになる。

 ”Garbage in, Garbage out”という言葉を耳にしたことがある人も多いだろう。「ゴミを入れれば、ゴミが出てくる」ということで、出力されるデータの質は入力されるデータの質に依存することを意味している。

 今後、スマートグリッド、あるいはM2Mといった流れが進むことによって、それ自体はゴミでも宝でもないデータが大量に収集されることになる。そこで重要になってくるのは、そもそもどのようなデータを収集するのか、そしてそのデータをどのように処理するのかという判断である。

 そして、そのような時代の流れの中で私たちシンクタンクのメンバーは、情報を収集するだけではなく、キュレーターとして、情報を選別する視点や意味づけを行うプロセスにますます価値を求められるようになってくるだろう。

 評論家の立花隆氏は、文藝春秋社を辞める際、本名の橘隆志という名前で「退社の弁」という文章を社員会報に寄稿している。その中には次のようなメッセージが綴られている。

“ぼくにとって読みたい本を読むのに時間がかかりすぎることよりも、もっと絶望的に思えたのは、ぼくが読みたい本を、真に読む必要があると思う本を避けているために、自分がまぎれもなく刻一刻精神的退廃の過程をたどっているにちがいないという自覚だった。”
“そんな疑惑がぼくを襲い、ますます物理的に見ることばかり熱中してるぼくが、やがて物理的に見ることに馴らされきってしまったぼくになるだろうと思ったとき、ぼくはより多く見るために、より少なく見ようと決心した。”
(いずれも『ぼくはこんな本を読んできた(文春文庫)』より)

 2011年は、以前から注目されている分野がますます進展し、今の時点では予想できないような新しい技術が登場するかもしれない。また、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアの普及により、私たちの周りでは、今まで以上に大量の情報が生み出されていくことになる。

 このような時代に「より多く見る」ために、キュレーションの役割はますます重要になっていくだろう。

▲このページのトップへ
InfoComニューズレター
Copyright© 情報通信総合研究所. 当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。
InfoComニューズレターを書籍・雑誌等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。