トップページ > トピックス[1997年] >

トピックス
国内情報

移動通信事業者の顧客囲い込み戦略

(1997.3)


 97年2月末現在で、日本の携帯・自動車電話の累計加入数は1,968万、PHSの累計加入数は552万、両者合計で2,520万を数えている。日本の人口が1億2,535万人(国連の1996年資料による)であるから、携帯・自動車電話の人口普及率は15.7%、携帯・自動車電話とPHSを合わせた人口普及率は20.1%となる。外国の携帯・自動車電話普及率を見てみると、米国=14.8%、オーストラリア=21.6%、デンマーク=24.1%、ノルウェー=24.4%、フィンランド=24.5%、スウェーデン=25.3%であるから、普及率の面では日本は世界のトップクラスにあると言える(海外の数値は96年6月末現在)。

 これほど移動体通信が日本で普及した理由はいろいろ挙げられているが、料金が下がったことが大きく寄与していることは、誰も異論がないであろう。特に、携帯電話事業者が販売店に新規販売に対して販売奨励金を出し、販売店側ではそれを原資として端末を値引きして販売するという現象は、すでに当たり前の世界になっている。時には「10円」「1円」といった端末が登場し、「先端技術の結晶であるハイテク機器をこんな値段で売ってよいのか」との物議をかもしたことも、今では遠い昔のように思われる。

 携帯電話事業者からの補助によって端末を安く販売するといったことは、日本に特有の事例ではなく、欧米でも同様の現象が起こり、携帯電話の普及に大きく貢献してきた。ただ、携帯電話の販売について、日本と欧米とで決定的に異なる条件が1つある。それは、契約期間に関する条件である。

 日本の携帯・自動車電話及びPHSサービスは、申込に当たって特に契約期間は定めず、申し込んだ次の日に解約することも可能である。一方欧米では、通常6〜12カ月の最低契約期間を付するのが通例となっている。むしろ、一部事業者や再販会社が最低使用期間の定めのないサービスを「Pay as you goの料金プランを開始しました」と、セールス・ポイントとして販売しているほどである。

 欧米の携帯電話事業者が新規販売に販売奨励金を出せるのは、最低契約期間の間は使用してもらえるので、奨励金のコストを回収できるという目論見からである。一方、日本の場合は「最低6カ月ぐらいは使ってもらえるだろう」という「期待」のもと、販売奨励金を出している点が異なっている。企業や高所得者層がユーザーである間はこの「期待」でうまくいっていたが、裾野が広がってくると、一旦契約したもののすぐに解約するというユーザーが目立ってきた。販売奨励金に投入した資金が回収できない間に解約され、売れば売るほど赤字が膨らむという深刻な問題が発生したのである。

 携帯・自動車電話及びPHS事業者は最近、顧客に解約せず長く使用してもらうため、いろいろな特色ある施策、特に一般消費者を意識した施策を行っている。具体的には、以下のようなものがある。

  1. 料金プラン面での施策
    当初DDI系セルラー電話会社が導入を発表し、その後他の事業者にも広がった長期割引サービスは、使用年数に応じて月額使用料を一定率で割り引くサービスである。長く使えば安くなるので、他社への乗り換え防止に役立つ。また、IDOのオンリー・ユーもユニークな料金プランである。

  2. アフターケア面での施策
    東京デジタルホンは、会員組織「デジタルホンクラブ」を設立している。月額300円を支払えば端末故障時に割引修理等の特典を受けられる。また、ツーカーホン関西は顧客センターに自動音声対応システムを導入し、24時間受付体制を確立する。

  3. 異業種と提携した施策
     この分野でユニークな施策を数々行っているのはツーカーホン関西である。「電話機を提示すれば飲食代を割引する」「通話料だけで無料の医療相談が受けられる」など。同じ地域の関西デジタルホンも、レストランやホテル代の割引を行ったり、電車の終電時間の情報サービスを提供したり(3月下旬より)といった施策を打ち出している。今後は、クレジット・カード会社などとの提携が出てくると見られている。

(移動・パーソナル通信研究部 正垣 学)
e-mail:shogaki@icr.co.jp

(入稿:1997.3)

このページの最初へ
トップページ
(http://www.icr.co.jp/newsletter/)
トレンド情報-トピックス[1997年]