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「接続の基本ルール」と新たな規制環境

(1997.2)


  1. 電気通信審議会の接続ルールに関する答申
  2. 市内通信市場への新規参入
  3. 市内網の再販売

1.電気通信審議会の接続ルールに関する答申
14年来の懸案事項であったNTTの組織問題に一応の決着がつき、直後に電気通信審議会「接続の基本ルール」答申が取りまとめられた。ここにはネットワークのアンバンドリングを含むNTTの接続義務化、接続コストの明確化、接続交渉における郵政省の裁定機能の行使などが盛り込まれ、ようやく日本の通信業界も本格的な競争へ向けた環境整備が進むと期待される。通信の競争激化は世界的潮流であり、NTTの国際進出も国内市場の競争条件がグローバルな標準を満足するものでない限り難しい。この意味から、競争環境とともに規制制度の変革も重要課題となっており、郵政省の目標としてきた「公正有効競争」も従来の幼稚産業保護あるいは国内産業振興という視点から大きく脱皮することが求められる。

以下では「基本ルール」で十分に扱われなかった幾つかの問題について考えてみたい。いずれも通信市場の全面的な競争体制が到来するとすれば重要な意味を持っているが、関係者間で意見統一が遅れているとみられるものである。

2.市内通信市場への新規参入
郵政省の通信市場に対する取り組みは米国をモデルとする傾向が強く、「基本ルール」の骨子も多くを96年8月のFCC命令に原型を見ることができる。しかし、FCC命令のなかでも参入のタイミングを早めるための政策として重要(かつ論争的な)部分となっている市内網の再販売は審議会でも議論はなかったようだがこれにはどのような背景があるのだろうか。

現在日本の通信サービス市場に参入するためには4つの方法がある(予定されている)。第一は物理的なネットワークの相互接続、第二は新制度で実現するものだが、アンバンドリング料金でNTTの網要素を購入すること、第三は一種事業者からの専用線の購入(これを公専公でつなげば音声の単純再販になる)、第四は既存の一種事業者の通信サービスを卸売価格(国内は大口割引料金、国際はキャリアレートがまもなく導入される予定)で購入して小売り市場で再販売することである。第一の方法のみが自己設備を保有する一種事業者間のみで起きる接続形態で、これに対し第二は一種業者も二種業者も可能である。更に第三、第四ができるのは二種事業者だけで、この順で自己設備の必要量が少なくなり、新規参入の場合、初期投資の負担も減る。

3.市内網の再販売
市内網へ競争を入れることが大目的とされてきたにも関わらず、市内網の再販売がなぜ話題にもされないのだろうか。理由は簡単で、市内の再販は参入者の採算に合わないためである。これは(仮にNTTがつけるとすればだが)卸価格が高くなりすぎるだろうということもできるし、末端価格が安すぎるために再販が成り立たないともいえる。さらに言い換えると、地域網は独占下にあるがこの市場に参入を誘発する利潤は存在しないのである。理由はもちろん政策的に低く抑えられた市内料金のためである。実は同様の問題を持つ米国でも、今回FCCが地域電話会社に義務付けた再販用の卸売価格はコストベースとなっていない、具体的には小売り価格からのマイナスベースとされている。当然のことながら、これは地域会社の反発を招き大きな問題となっているが、背景には長期的に市内料金を引き上げざるを得ない状態を創出することで連邦政府の競争政策を貫こうという隠れた意図があると解釈できる。料金がコストに近づいて、すなわちリバランシングして、初めて本当の意味での競争が可能となることをFCCは認識しているといえる。

もうひとつの理由は日本的なものである。市内網の再販を認めたとしても、日本では一種事業者の再販が認められず二種事業しかそれができない。これでは再販を認めても参入は限定的なものとなり、競争促進に大きなインパクトを与えない。一種事業者に再販を認めるという、一種事業の定義にも関わるこの問題をまず解決する必要がある。

市内網への競争導入はどの国でも最大の課題である。この市場における既存事業者の独占を解消するためには、参入者が市内網のリースや再販によって既存ネットワークを生かしていく方法と、代替的ネットワークの建設を促すことの二つの方法がある。二つの間にはトレードオフもあれば補完関係もある。問題は競争政策としてのスタンスであろう。迅速なサービス市場の成長を重要視するか、物理的インフラ競争を通じてユーザのネットワーク選択肢を増やすのか。「基本ルール」で定められるアンバンドリングにも二つの側面があり、設備の建設途上にある事業者に容易な参入機会を提供するという見方と、設備を持たずともサービス提供が可能であることから建設のインセンティブをそぐという見方がある。

ちなみに米国と異なって、英国では市内網のアンバンドリングは代替的インフラ建設を阻むものとして、規制者であるオフテルがこれを導入しないことを決定している。BTは従来よりアンバンドリングによるアクセス網の接続サービス提供は採算性に問題があるとしてきた。CATV事業者も自己の投資を脅かされるという懸念から反対の立場であった。マーキュリーもアクセス市場への展開を諦めており、アクセス網の規模の経済に抵抗することは得策ではないとのオフテルの判断も働いた。結局一部の長距離事業者を利するだけの市内網アンバンドリングの義務化は行わないことになったのである。規制対象は究極的なボトルネックとして残る通話着信サービスに限定されている。

いずれにしても市内網の独占を最重要の問題と明言する以上、規制者がこのネットワークに本格的な競争を入れる意向があるのか(その場合は上に述べたようにいずれリバランシングが問題になる)、低料金を温存し規制を残すつもりなのかという点は明確にされるべきであろう。これは将来をにらんだ政策判断である。

(関連論文はInfoCom Review 3月号に掲載予定)

(通信事業研究部 八田 恵子)
e-mail:hatta@icr.co.jp

(入稿:1997.2)

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