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トレンド情報 -トピックス[1997年]
<海外情報>

米国インターネットアクセスビジネスの今後(上)

(1997.7)
1.インターネット市場の今後
 「The Internet Report」(Morgan Stanley社)によれば、インターネット市場全体の伸び率を2000年まで年間38%。1995年のインターネットによる新市場の規模を4,950百万ドル(4,950億円)、2000年で36,100百万ドル(36,100億円)。インターネット関連市場を含むと、1995年で15,900百万ドル(15,900億円)、2000年で79,100百万ドル(79,100億円)と推定している。このうち、ISPビジネスは、1995年で400百万ドル(400億円)、2000年でも5,000百万ドル(5,000億円)しかない。世界のデータ通信機器の売上の5分の1は、ISPやキャリアーの売上の結果、派生してくると推定している。インターネットビジネスは、ISPビジネスをプラットフォームにした上流に進展していくという特徴を持っている。また、その裾野である関連市場規模は下記に示すように広く、1995年で、ISPアクセスビジネスの40倍にもなっている。2000年には高機能サービスの提供が期待されるが、それでも16倍にもなる。

インターネット市場規模の推定
19952000
インターネットビジネス売上(百万ドル) 4,95036,100
インターネット関連含む売上(百万ドル) 15,90079,100
ISPビジネス売上(百万ドル) 400 5,000
インターネットビジネス売上に占めるシェアー(%) 8.1%13.9%
インターネット関連含む売上に占めるシェアー(%) 2.5%6.3%

出展:「The Internet Report」(Morgan Stanley社)

別表:今後5年間のインターネット市場セグメント別動向

2.インターネットプロダクトサイクル
 これまでのプロダクトサイクルの経験から、インターネットビジネスの市場規模と時間の経過に応じて以下の3つのフェーズに分類されるとしている。

第一段階 直接、間接インフラ/ハード機器の提供が中心となる時期(1995年以降)
第二段階 インターアクティブな環境を管理するOS、ソフト類の提供が中心となる時期(1997年以降)
第三段階 コンテンツやソフト類の集積・配信が中心となる時期(1998年以降)

 まず、インターネットのインフラが整備されていき料金低下や品質等が改善され、その後、ソフト類が進展し、最後にコンテンツが充実してくる。したがって、現在もっとも重要なのはインフラということになる。インフラが整備されないと第二段階のソフトやコンテンツ類が充実できない。第一段階が第二段階、第三段階発展のためのプラットフォームとなっている。この点で、サイバーキャッシュ社では、現在のインターネットを「利用できるほどネットワークや通信機器が開発されていないとして特定ビジネスユーザー向けの高価なハイエンド・インターネットに頼っている状況である」と考えている。今後、ハイエンド・インターネットが一般化し、普及していけば、ソフトやコンテンツビジネスが本格的に進展していくことになる。したがって、このインフラ市場で「誰が勝つのか」というのが当面の関心事となる。

3.ISPアクセスビジネスモデルの崩壊とISPの整理・統合化の進展
 既存ISPのビジネスモデルは、安いアクセス料金でユーザーを獲得し、その上で付加価値サービスを提供し将来の収益を期待してインフラに投資していくというものである。インターネットが普及していくにつれて、アクセスサービスはコモディティー化し、ISPはビジネスカスタマーとの儲かる契約をしていくためにはより付加価値の高いサービスを提供していく必要がある。このため、全国規模のISPは、通信事業者が市場参入しつつあるマスマーケットでの撤退を余儀なくされている。しかし、その付加価値部分にしても、ISPは、大規模SI業者、VARs、コンサルタルティング会社と競争しながら市場を拡大していくことになる。特別なコンテンツ等の付加価値で差別化できる地域密着型のISPか、インフラを通信事業者に依存してVPNなどの付加価値部分をビジネスとしていく2極化が進んできている。

◇◆◇

*ダイヤルアップビジネスのコスト構造
 投資銀行のSantafe Capital Group社のデビッド・シルバー氏によれば、現在ほとんどのISPが採用している月額時間制限なしの料金19.95ドルのコスト内訳は以下のように推定している。

  • カスタマーサービスへの支払い:6ドル
  • 電話事業者への支払い:1ドル
  • 機器の償却とリース支払い:5ドル
  • ISPの運営コストと利益:8ドル
  •  しかし、19.95ドルという平均売上は、以下の理由から、オンラインサービスプロバイダーのコンテンツを含めた料金で2000年には月9ドル以下にまで減少していくと推定されている。

    • コンテンツはアクセスサービスと別建てとなる。 
    • 例えば、アメリカオンライン社の加入者の14%は、現在、月30ドル支払っているが、今 後、20ドルで時間制限なしアクセスプランをつうじて、インターネットで利用されていくことから、20ドル、9ドルと低下していくことになる。
    • 加入者は増加していくが、今後は、あまり利用しないユーザーの増加が予想され、平均売上高は減少していくことになる。
    • 電話会社が電話などの既存通信サービスにインターネットをバンドルして極端にディスカウントして提供していく。
    • ISPが料金を低下できる規模の経済がローミングサービスなどを通じたダイヤルアップネットワークの国際展開によって実現していく。

    ◇◆◇

    *専用線接続ビジネスのコスト構造
     バックボーンプロバイダーであるUUNET社では、あまりにも早い需要増大に対応して、94年12月には1Mから3Mbpsだったコアバックボーンは96年12月で150Mから200Mbpsへと急速に拡大し、98年には15,000Mから20,000Mbpsが必要になると予想している。このため、通信回線の拡張は重い経済的負担となっており、総コストの54%も占めている。一方、料金は1996年で1,400ドルのT1(1.5Mbps)回線は1998年には800ドル以下となると予想されていることから収入の増加は期待できない。その結果、この市場で生き残るのは通信事業者のような設備を保有しているISPだけだと考えている。

  • 市内回線費用:総費用の23%
  • 市外回線:15%
  • 国際通信回線:15%
  • 人件費や営業経費:35%
  • 設備機器償却費:11%
  • ◇◆◇

    *リセラービジネスモデルの崩壊
     NSFNetが1995年4月に運用を停止してから、インターネットはquasi-public exchange points、NAPs、MAEでトラヒックを交換する8つのバックボーンプロバイダーで構成されている。いわゆるTier-oneといわれる一次プロバイダーが、広範囲に地理をカバーし、インターネットトラヒックを自由に送信していくためにpeering agreementと呼ぶsettlementsなしで相互にトラヒックを交換している。特定の地域内にサービスを提供している小規模ISP(いわゆるダウンストリームプロバイダーやリセラー)は、バックボーンプロバイダーとリセラーになるかpeeringを結ばなければならない。すべての長距離ISPは自分のネットワークをどこかで接続しなければならないので、バックボーンを運用している会社がインターネットをコントロールすることになる。自分以外のトラヒックの送信を拒否することで競争を効果的に避けることができる。そのような共謀は起こりにくいし、インターネット固有の価値はそのオープンアーキテクチャーにある。しかし、大規模ISPに競争上の利点が出てきている。

     市場が最初に立ち上がっていた時は、一次プロバイダーは、カバーしているローカル市場が限定されていたので小規模ISPにバックボーンを提供するリセールが最少の販売コストでインフラを効率的に活用できる最良の手段であった。全米規模のISPは資金を集め販売チャネルとネットワークの拡大に集中的に投資している。基本インターネットアクセスはコモディティービジネスになっており、すべてのISPは高度な付加価値を追加していきつつある。究極的なビジネスモデルとしては、基本アクセスはコストベースで提供し、カスタマーを獲得した後、付加価値で高いマージンを獲得していくことになる。したがって、一次プロバイダーにとって、カスタマーをコントロールすることは、バックボーンリセールを越えてビジネスを拡大していくことで重要である。大規模ISPはリセラーをカスタマーとしてではなく、競合者ととして対応していくことになる。全米規模のISPは、小規模ISPのテクニカルスキル不足、不効率的なインターネット資源の利用(例えば、法に反したルートの通知や割当てられたアドレススペースの濫用)に起因するストレスを受けるので、彼らをサポートしていくには高くつくことに気付く。そこで、大規模ISPはダウンストリームISPを消費する(帯域等)資源の大きさでカテゴリー化して課金していくことになる。大規模ISPが効率的に運用している、エクスチェンジポイントは極端に混雑し、直接接続を求めている小規模ISPや非先進的ISPを切離していく。ネットワークモニタリングとトラブル解決、エクスチェンジポイントへの最低アクセス速度、他のエクスチェンジポイントへの最少の接続数という要件を定義する新しいポリシーが構築されている。  リセラービジネスモデルで最も重要なことは、バックボーンキャリアーにより多くのコストを支払わなければならなくなるということである。これまでは、バックボーンプロバイダーはシンプルで、ヘビーユーザーが好んだ固定料金制を採用していた。小規模ISPは自分のネットワークを極端にoversellingすることでバックボーンプロバイダーよりも低い料金で提供できる利点があった。この戦術は、ある水準に回線利用率を設定して料金設定し、常時ネットワークの容量を満杯にしていることからアップストリームのバックボーンプロバイダーのトラブルの原因になっている。この結果、多くの一次プロバイダーはリセラーに公正な料金を徴収するために、従量料金モデルに変更し、そしてより魅力的な料金をローエンドユーザーに提示しはじめていく。ISPはこの結果、料金が増加していくことになる。その結果、わずかな小規模ISPの利点がなくなっていくことになる。

     どこでも、インターネットの話中率は50から60%である。この水準が続く限り新規プロバイダーが参入しモデムポートを追加していく余地がある。しかし、1996年末には、10万人以上の都市にはすべて大規模ISPによってサービス提供されていく。1995年で、大規模ISPは200%ほどPOPを増加した。AT&T、MCIはコンシューマーをターゲットにバンドルしたサービスの提供に集中しており、すぐにローカルインターネットアクセスを提供していくだろう。地域電話会社は今後重要なプレーヤになっていく。過去にカスタマーサービスの構築に億単位の金を注ぎ込んでおり、標準以下のインターネットサービスの提供によって、この投資が危険にさらされるのを嫌っている。小規模ISPやローカルISPよりも高水準なサービスをカスタマーを期待していることから、コンシューマーや中小規模ビジネスユーザーは電話会社により多くを期待していくことになる。

  • 参考/図
  • 米国インターネットアクセスビジネスの今後(下)は、こちら...

  • (グローバルシステム研究部 段野 幹男)
    e-mail:danno@icr.co.jp

    (入稿:1997.6)

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