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トレンド情報 -トピックス[1997年]
<海外情報>

米国インターネットアクセスビジネスの今後(下)

(1997.7)
米国インターネットアクセスビジネスの今後(上)はこちら ...
  1. 通信事業者のビジネスモデル
  2. 誰が生き残るのか
1.通信事業者のビジネスモデル
 1996年の米国通信事業法改正にともない、異なる市場への参入障壁が取り除かれることになった。現在では、すべてのプレーヤーが、同じ土俵で競合し、包括的に通信サービスを提供できるネットワークを目指している。インターネットアクセスは、この通信サービスメニューのひとつとして提供されてきている。通信事業者間の障壁が取り除かれるにつれて、市場競争は激化し、マーケティングコストが増加し、料金が引き下げられることによって、マージンが縮小していく。消費者が複数の事業者を選択できるようになれば、いずれもマーケットシェアーを失うことになる。その結果、以下のコスト削減策として包括的サービス(バンドリング化)が提供されていく。

*バンドリングサービスによるコスト削減とカスタマーの獲得

  • マーケティングコストの削減
     セルラー、PCSや長距離通信サービスでは運用コストの24-25%をマーケティングに支出している。CATV会社でも10%。競争が激しくなっていけば増加していく。クロスマーケット(複数のサービスの同時提供)サービスを提供していくことで、このコストを下げることが可能となる。MCIでは、長距離のテレマーケティンググループに50万ページャーを販売している。
  • カスタマーサポートコストの削減
     複数のサービスをサポートすることでコストを削減することができる。カスタマーから見ても、シングルポイントオブコンタクトは有用である。
  • ネットワークの効率的利用
     デジタルバックボーンネットワークで機能をフレキシブルに利用することができる。例えば、電話網でインターネットを提供することができる。

    *広告、商取引の手数料収入に期待していく
     多くの通信事業者はダイヤルアップアクセスを目玉商品と考えている。特に、住宅向けのアクセス市場で直接利益をあげるよりも、ゲートウェイを構築し、オンラインコンテンツ、商取引、ビデオなどのサービスを提供していく。将来的には、オンライン取引市場による手数料収入に期待している。
     Forrester Research社によると、広告や商取引の増加率はアクセスサービスよりも大きく増加していくとした、以下のようなインターネット関連市場規模を予測している。

    Forrester Research社のインターネット市場規模予測(単位:百万ドル)
    1996年2000年変化率(%)
    アクセスサービス 415.61,000.0140.6
    広告74.02,600.03,413
    商取引518.06,600.01,174.0
    合計1,007.610,200.0920.0

    利用制限はあるが、広告や商取引による収入でサポートし、アクセスを無料で提供していくことも進展していく。FreeMark Communication社はメンバーに無料のEメールサービスを提供し、メッセージの最後に広告していくことで収入を得ている。また、カスタマーが他のサイトにリンクしたら通常の料金を徴収していくというものもある。したがって、ビジネスユーザー向けには高付加価値サービスが重要な差別化となり、マージンの少ないコンシューマー向けでは、広告収入及びコンシューマー向けのオンラインショッピングサービスが最大の資金源となっていく。すなわち、ビジネス・ツー・コンシューマが最大の市場ターゲットとしていく。

    参考/図1図2

  • 2.誰が生き残るのか
     以上のように、米国のインターネットビジネスは、通信事業者の市場参入により一段と競争が激化してきている。特に、通信インフラという強みを生かし、パッケージサービスの提供によるバーティカルマーケットを開拓しつつある。最近、これまでビジネスユーザー、特にリセラーにアクセスサービスを提供してきた、スプリントも、AT&T、MCIに続いてダイヤルアップサービスを開始した。互いの音声市場にインターネットを加えてサービスを提供していかないと他へ移ってしまうからである。既存のISPは顧客ベースを持っていないし、販売ルートも限定されいること、さらにマイクロソフト社のWindowsやサーバーソフトの提供を通じて、インターネットアクセス事業のシンプル化と高機能化を促進していることから、ダイヤルアップビジネスへのコモディティー化が進展していっている。誰でも参入できると同時に差別化が難しくなってきている。こうなると、高機能化という将来的、先進的なことを除けば、高速アクセスポイントの数によるユーザーのダイヤルアップコストの削減や回線の信頼性や容量の多さなどの物理的な施設に帰結してしまう。そういう中で、NETCOMやPSIなどは、吸収、合併、提携が進み、現在3000以上といわれているISPが2000には100社程度まで減少していくといわれている。1997年には、設備を主体としたISPは100社程度に整理されていくだろう。現在、30%の市場シェアーを占めている小規模ISPは1998年には10%に縮小していく。生き残るISPは10から12の全米規模のプレイヤー、中規模市場での強力なローカルプロバイダー、バーティカル市場や付加価値サービスのいづれかでニッチを見つけて成功していく企業であろう。

     最近、米国最大手であるUUNET社を買収したMFS社は、WorldCom社に買収され、インターネットを含めたフレームリレー、ATMなどのトータル・データ通信サービスをエンド・エンドのネットワーク全体を提供することでセキュリティーや信頼性の向上を図り高パフォーマンスを実現でき、ビジネスユーザーに販売できるようになった。財務体質のよいといわれていたUUNET社でさえマイロソフトネットワーク構築ビジネスがなければ赤字となっており、マスマーケット向けに特化しているISPはほぼ赤字と考えてよいほど収益性は低い。BBNプラネット社でもAT&Tに投資してもらっている。インターネットは確固としたプラットフォームが確立していない原始的な状態であり、今後とも、誰かがインフラへの投資を継続し続けなければならないことを考えると、ISPの黒字化は当分期待できないだろう。そのために、ISPはどこからかスポンサーを見つけなければならない。それが、提携、合併劇につながる原因となっている。図表1に示すようにISPビジネスは、他セグメントのためのローエンドのプラットフォームビジネスとしての役割を担うことと、低いマージン率、高い資本集約性、月単位の加入者が成長要因となっていることから、今後ともマスマーケットへの販売チャネルの拡大と豊富な設備投資資金が必要となる。これに耐えられるISPのみが生き残ることができる。

    (グローバルシステム研究部 段野 幹男)
    e-mail:danno@icr.co.jp

    (入稿:1997.7)

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