トップページ > トピックス[2000年] >

トピックス
海外情報

傷む通信事業者の財務
〜超高額の携帯免許取得、凋落する消費者むけ長距離通信、巨額買収等で大手事業者の財務にヒビ。相次ぐ格付ダウングレード〜
(2000.9)

■AT&TとBTの株価が半値に
 この3月には60ドルを超えていたAT&Tの株価は最近30ドル近くに急落、BTの株価も半値に値下がりしている。BT株式の格付は最近四段階も大幅に引下げられた。NTTドコモが組んでいるオランダのKPNの格付も同じく四段階引下げられた。
 AT&Tのアームストロング会長の引責辞任説まで取り沙汰され始めるなかで、9月下旬のAT&Tの取締役会がどのような起死回生策を打ち出すかが欧米の各紙で連日論議されている。
 かっての超優良企業であるフラッグ・キャリア(各国を代表する通信事業者)に一体なにが起こりつつあるのだろうか。

■欧州では次世代携帯電話の免許料の高騰
 欧州では、まず、欧州各国で相次いで行われた次世代携帯電話免許のオークションが引き金になっている。
英国では真っ先きって今年4月に5免許のオークションが落札総額225億ポンド(324億ドル)という巨額の値をつけた。事前の予想の7倍にもあたる巨額に跳ね上がったことになる。
 続いて行われた独での6免許のオークションでは、さらに英国を100億ドルも上回る459億ドルで結了した。
 次世代携帯電話は高速インターネット等、今後の高い成長が予想され、事業者が目の色を変えて免許を争奪した。欧州ではその地理的事情から、一国だけの次世代携帯電話は事実上無意味で、域内各国で免許を取得せざるをえず、それだけに各国の事業者が参加し余計に熾烈なオークションとなったのだが、このぶんでは各事業者の域内免許料の総計は天文学的数字になる。免許料だけでこれだけの高値では、今後の設備投資/運転資金も計算すれば、利用者料金はとてつもない高額にならざるをえないわけで、さっそく有識者からオークション方式に対する批判が出され、仏とスペインはオークション以外の方法(資格審査/美人コンテスト方式)をとることとなった。イタリアは両方を折衷する方式を考えている。

 BTは英、独両国で免許を獲得したほか、さらに独でViag Interkomの完全買収にも資金を必要としたので、2年前にはほとんどゼロに近かった負債が急増し280億ポンド(400億ドル)にも達した。株価が半減したため、株式交換方式による買収にもこれ以上は乗り出せない状況に追いこまれているといわれる。

■大型買収も財務圧迫要因に。
 AT&Tの場合には、1999年2月にケーブル・テレビジョン最大手のTCIを買収した。基本は株式交換方式だったが一部現金支出もあった。AT&Tの狙いは、ケーブル・インフラを音声、データ、画像、高速インターネット等すべての通信のインフラとし、ベル系市内電話会社との相互接続なしで市内から長距離/国際通信まで一貫した通信を自前のインフラで提供する野心的戦略であり、その後も小口のケーブル事業者の買収を続行した。しかし、本来一方向のケーブルを双方化する高度化投資がかさみ、さらにはケーブル利用の音声通信の実用化も予定どおりにははかどっていない。資金ばかりくい、果実が実らない状態が続いている。
■米国では市内事業者の長距離通信進出も痛手。
 消費者むけ長距離通信事業が重荷に。

 米国では、ベル系電話会社が、ニューヨーク(ベルアトランティック)、テキサス(SBC)の両州でAT&T分割以降禁止されてきた長距離通信事業への進出を認可され、テキサスではSBCが毎日2万名の長距離通信顧客を獲得しつつあり、既に50万名の長距離通信顧客を囲い込み、AT&Tの顧客を奪っている。ベルアトランティックは引き続き、マサチューセッツ州、コネチカット州等その営業区域全域の各州でも認可申請を準備中である。

 リセール事業者をも含め1,000社を超す事業者が激烈な競争を展開している長距離通信市場では料金競争が激化しており、とくに小口企業や消費者むけの長距離通信は採算がとりにくくなっている。AT&TのみならずMCIワールドコムもこれらの部門が全社の業績の足を引っ張る重荷となりつつあり、この部門の他社への売却を検討しているといわれる。

 この事情はBTの場合でも同じであり、株価回復のためにはこの部門の手術が避けて通れないとされる。

■日本でも同じ兆候か
 NTTコミュニケーションズは、このほど米国のインターネット関連企業のVerio社を総額約6,000億円で買収することに成功した。同社はこれまでの主軸であった国内長距離通信だけでは先が見えているとして、スタート時点からインターネット事業等の新分野に軸足を移していく方針で、積極的に手を打ってきている。長距離通信事業をcash cow(日銭を産む乳牛)と名づけ、新事業展開の資金的支えと位置付けている。今回の買収も米国政府の外国からの投資に対する厳しい審査に耐えて、ようやく実った新戦略具体化の第一歩である。

 しかし、現在のNTT法外資制限等の諸制約から、欧米では買収の常道となっている「株式交換方式」がとれず、とりあえずキャッシュによる買収に踏み切らざるをえなかった。
 「株式交換方式」の場合には、乱暴な言い方だが自社の株券を増刷すれば手持ち資金なしでも他企業の買収ができる。米国で最近実現した新興長距離通信事業者Qwestによる旧ベル系電話会社USウエストの買収や、AOLによるタイム・ワーナーの買収提案など、いずれもこの方式であり、「小が大を飲む」というような買収もこの方式でこそ可能となる。

 NTTコミュニケーションズのVerio買収のケースでは現金方式であり、ドル建てのローンとなれば通常は7-8%の利息となるといわれが、仮に5%としても年間300億円の利子負担となり、同社ほどの企業でも重い負担となろう。(同社の第1期《1999/5/28から2000/3/31まで》の当期利益は728億円)。鈴木社長が「あくまで一時のブリッジ・ローンであり、エクィティ・ファイナンスへの移行も考慮している」とフィナンシャル・タイムズ紙とのインタービューで述べられたと報道されているのもこうした事情からとうなづける。

 米国でもAT&Tが最近、携帯電話部門を別会社とすることなくそのままで、成長の早い携帯電話事業だけの業績を反映するトラッキング株式を売り出した例はある。 しかし日本では、同紙記者のコメントにもあるように、NTT再々編成論議の時期でもあり、NTTコミュニケーションズだけの株式を発行したり、または、グループ全体株式の外資制限を緩和・廃止することが早い時期に実現するのは難しかろう。

 Verioのような中規模の買収でもこれだけの財務負担となるのだから、NTTグループもグローバル企業として生き残るにはどうしても今後は「株式交換方式」による機動的な買収能力が不可欠であろう。欧米での買収は数兆円単位のものが多い。オーストラリアでも先ごろ首相が同国のフラッグ・キャリアであるTelstraの機動的な国際戦略のため、国の持分の処分と完全民営化の促進を表明したのも、こうした方向に向かう一例であろう。

(特別顧問 木村 寛治)
e-mail:編集部宛>nl@icr.co.jp

(入稿:2000.9)

このページの最初へ
トップページ
(http://www.icr.co.jp/newsletter/)
トピックス[2000年]