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2000年11月掲載

AT&T、BT等での分社流行の背景
〜AT&T、BT、ワールドコムが相次いで分社や再編成を発表。その狙いとインパクト〜

 この1か月足らずの間に、AT&T、MCIワールドコム、BTが立て続けに大規模な組織再編や分社化、トラッキング・ストック発行等のドラスティックなリストラ構想を打ち出した。
 これまでの合併/統合の流れが、逆に分割の流れに逆流しはじめたのか。
 スプリントも米国での長距離通信料金戦争の休戦を提唱し、AT&Tやワールドコムも同調する。一連の動きの裏には何があるのか、その影響はどうか。

■三社のリストラ構想の要点

 三社のリストラ構想の骨子は次のとおりで、それぞれに微妙な差異はあるが、事業の性質、顧客層に沿って事業部門を再編成し、各部門の部門収益連動株式(トラッキング・ストック)を発行したり、さらに進んで分社化する点では共通している。

(1)AT&T(10月25日発表)

  • 次の4社に分割
    1. 「AT&Tワイヤレス」(AT&T Wireless)----無線(携帯電話)会社
    2. 「AT&T広帯域」(AT&T Broadband)----CATVと広帯域サービスの会社
    3. 「AT&T消費者」(AT&T Consumer)----消費者通信およびマーケティングの会社
    4. 「AT&Tビジネス」(AT&T Business)---企業通信およびネットワークの会社
  • 各社が株式を公開された会社となり、普通株式か部門収益連動株式(トラッキング・ストック)として売買される。
  • 各社とも「AT&T」のブランドのもとで運営され、各会社間の契約に基づき統一された品質の提供にコミットするうえ、お互いのサービスを組み合わせる。
  • 中核会社は「AT&Tビジネス」で、「AT&T」というブランドの法的な所有者となり、他社にライセンス供与を行う。また、「AT&T消費者」の親会社となり、「AT&T消費者」の業績反映株式の発行者ともなる。さらに、「AT&Tネットワーク」と「AT&T Labs」(研究所)をも持つこととなり、その他のAT&Tブランド会社やその他の会社に対し契約でサービスを提供することとなる。
  • リストラ計画は、2002年に完了を予定。

 AT&Tは先に本年4月、「AT&Tワイヤレス」のトラッキング・ストックの発行を行っている。もっとも、最近のその株価は当初の募集価格を下回っている。

(2)MCIワールドコム 11月1日発表)

  • 次の別々に取引される2種類のトラッキング・ストック(部門収益連動株式)を創設
    1. WorldCom(NASDAQ:WCOM)という名称で、中核事業である高成長のデータ、インターネット、ホスティング、国際事業の業績を反映する株式
    2. MCI(NASDAQ:MCIT)という名称で、キャッシュフローの多い消費者、小企業、および卸売の長距離音声およびダイアルアップ方式のインターネット・アクセス事業の業績を反映する株式
  • ワールドコム社がMCIの株式を保有するのではなく、「MCIトラッキング・ストック」のすべてを2001年前半までWorldComの株主に配付する。
  • 両グループ間の主要な取引形態は、MCIから卸売ベースでの音声通信分数(wholesale voice minutes)がWorldComに対して販売され、その逆に、MCIに対して全社的な共通サービスが提供される。

(3)BT(11月9日発表)

  • BTグループの持株会社の創設
  • その下に以下の事業部門の分社等を行い、個別上場する。
    1. NetCo (2000/10発足のBT Wholesale。事業者むけサービス、ネットワーク運営)
    2. Concert(AT&Tとの国際合弁事業)
    3. BT Wireless(携帯電話等)
    4. BT openworld(マス市場むけインターネット事業)
    5. Yell(イエローページ:電話帳事業)
    6. BT Retail(住宅顧客から大口企業顧客までの小売事業)
    7. BT Ignite(アプリケーション、コンテント、インターネット関連事業、電子商取引等)
  • NetCoという新会社を創設し、別個に上場(OFTELと政府の同意が必要)
  • 西欧と日本に市場焦点を絞り、Concertとそのネットワークを通じグローバル・リーチを強化
  • BT Wireless(携帯電話等)の 25%までを来年上場
  • Yell(電話帳事業)の25%までを当会計年度末までに上場
  • 2001年末までにBT Igniteが上場できるよう条件整備
  • 2001年末までに、不用資産売却と上場により、来年3月に300億ポンドに達する見込みの負債を100億ポンド削減
  • 持株会社のもと単一のBTグループとして留まることにより、より一層シーナジー効果をあげていく。BT Retail、BTopenworld、BT Wireless、BT IgniteそしてYellは、それぞれが分離独立して運営されるものの、顧客に対しては、無線、インターネット、広帯域、電子商取引等では協力して完全なソリューションを作り出す。

■リストラの狙い

 三社が再編成の狙いや効果として挙げているのは、次のような点である。

  • 事業部門別、顧客層別の分割で顧客ニーズにより良く迅速に対応できる
  • 各事業部門が経営重点を絞れる(投資、人材配置)
  • 株主、投資家は他のライバル事業者との業績比較が容易化する
  • グループとしての一体性、シーナジーは維持していく
  • 規制緩和の期待(BTのNetCoだけに重い規制を残し、他は規制緩和)

■背景

 この時点で申し合わせたかのように軌を一にしたリストラ構想が打ち出された背景としては、以下が考えられよう。

  • ここ数年続いてきた全国制覇、欧州制覇、グローバル生残りのための規模拡大(過大なM&A《AT&Tの場合、さらにCATV買いあさり》、3G免許の高騰)を急ぎすぎた咎めが財務面で強く浮かび上がった   
  • その結果、負債が急増し、株価が半値近くまで低落し、格付も大幅に引き下げられ「投資不適格」一歩手前まできており、何らかの株価回復措置が切望され ている
  • BTのVallence会長、AT&TのArmstrong会長の引責辞任観測がメディアで堂々と取り沙汰されている

■影響、現象

 当面出てきている現象や影響は次のとおりである。

  • 設備投資資金不足、株式交換方式によるM&Aの困難化
  • 不採算事業(とりわけ消費者むけ長距離通信事業)の縮小ないし撤退
  • 負債削減のための資金源として不採算な国際海外資産(アジア等)等の売却
  • 携帯電話等の好採算部門の独立分社と株式公開による資金確保
  • 要員削減
  • 米国での長距離通信料金戦争の休戦(米国第3位長距離通信事業者であるスプリントは、11月はじめにこれ以上顧客獲得施策は打ち出さないと表明。AT&Tとワールドコムも同調。MCIの登場以来続いた熾烈な料金値下げ戦争は一時休戦の見通し。)

■評価と今後の見通し

 持株会社の創設以下のBTの分社化構想は、地域別でなく卸売/小売別という点を除けば、既に行われているNTTグループの再編成のコピーといえなくもない。BTWirelessに相当するドコモは既に上場されている。AT&Tの場合でも、「AT&Tビジネス」が親会社としての機能を予定し、両社ともにグループとしての一体性の保持、シーナジー効果の持続に配意している。

 ただ、こうした各社のリストラやトラッキング・ストック発行構想は、その希望どおり実現するという保証はない。

 AT&Tとワールドコムは最近相次いで、料金値下げ競争で採算の悪い消費者むけ長距離通信事業からの撤退や売却を検討している。AT&Tの場合、ケーブル・テレビジョン大手TCI等の買収認可申請の過程で、司法省独禁局やFCCに対し、「CATVインフラを通じて市内電話市場に積極的に進出し、住宅顧客にも選択肢が増えるよう同市場での競争を増進する」と公約している経緯があり、ワールドコムもMCI買収の際に、合併で増大した体力で市内市場への競争的進出への注力を約している。当局は、約束違反を追及する可能性がある。また、新設の「AT&T消費者」会社は、業績先細りで成長の見込が無い。FCC委員長はAT&Tのリストラ構想の発表をうけて既に「消費者の利益が十分に確保されるよう今後の推移に十分注意していく」との声明を出している。

 もっとも、事業者の財務が負債急増や、株価低落で傷んだ事情から、事業者は当面は財務改善に注力せざるをえず、株式交換による買収も難しくなった事情から、ここしばらくはこれまでのような大型の買収/合併は影をひそめていくであろう。

 三社が分社や事業部門別再編成を相次いで打ち出したため、「これまでの合併/統合から分割/分離に潮目が逆転した」との見方もでているが、それはまだ性急な判断だというべきであろう。前述のように三社は、「顧客のニーズにより良く対応」「経営重点の絞込み経営資源の適切配置」、「迅速な対応」等のリストラの大義名分を並べてはいるが、本音は傷んだ財務の改善、株価対策、携帯電話等の設備投資資金の捻出、等のための苦し紛れの構想というべきであろう。三社の構想発表をうけた投資家・株式市場の反応は、いずれも冷めたもので、アクションを囃すどころか株価はさらに値下がりしている。「三年前、そのケーブル・テレビジョン・インフラを通じた市内から国際までの全距離通信のビジョンでウォールストリートをひざまずかせたアームストロングAT&T会長は、今回は、短期的な収益に目がくらむウォールストリートのアナリストがAT&Tの取締役会に闖入するのを防がなかったばかりか、彼にひれ伏させられ、栄光あるAT&Tが長期的に進むべき道から脱線させた」という手厳しいメディアの批判もあるる。3社の効能書をそのまま信じていない証拠であろう。

 AT&Tのリストラ構想の発表の直前までAT&TとBTは、両社のビジネス顧客部門を統合する交渉で合意寸前までいったと報道されていた。これも今回別個に発表された両社のリストラ構想がベストのものではなかった一つの証拠となろう。

 ひところ「近い将来、グローバル事業者は大規模なインフラ、財務力、経営力をもった3−5社の超大手事業者に絞られ、その他はニッチ事業か狭い地域事業に甘んじていくよりない」といわれた近未来の通信業界の想像図は、死んではいない。それなりの規模のメリットなしにはグローバル事業者として生き残れない鉄則はまだ不変であろう。

 分社、事業部門別株式の発行といっても、それはこうしたグローバル事業者への道の途中での一時的な財務改善という寄り道か踊り場にすぎず、各事業者の国際競争力をいかに築いていくかの努力には基本的な方向転換はないと見るべきであろう。

特別顧問 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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