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海外情報
2001年3月掲載

マイライン戦争の次に来るもの

 5月の山場も近づき、わが国ではマイライン戦争がたけなわで、各社とも眦を決した追い込みが続いている。「市内」、「県内市外」、「県間市外」、「国際」の四つのカテゴリーごとに顧客が自分の選択した事業者をあらかじめ登録しておくことで、ダイアルを簡素化し、事業者間の不均等を是正し、いわゆる「イコール・アクセス」を実現する方法である。10月からは登録事業者の変更が有料となるため、とにかく事前に顧客を囲い込んだ事業者が有利になるのは目に見えており、各社が血眼になるのも当然あろう。

■米国が発祥の地

 このような事業者の事前登録制度は、そもそもは米国ではじまった。1970年代にそれまで長距離通信を事実上独占していたAT&Tに対し、専用線を武器に登場したMCI(マイクロウェーブでシカゴ/セントルイス間に特定企業むけの専用線を引いて事業開始。社名もMicrowave Communications ,Inc.)が、次第に交換方式のネットワークにまで手をひろげ、第二の長距離通信事業者となり、さらに第三のスプリントも事業基盤を整備し、長距離通信市場は激烈な競争となった。1984年にAT&Tを核としたベル・システムの分割が行われ、新たにAT&Tから分離独立させられ、市内や近距離市外通信に限定されたベル系地域電話会社が、旧親会社だった新AT&T(長距離通信)をえこひいきしないようにするためもあり、また、AT&T以外の長距離通信事業者だけ事業者識別コード分だけダイヤル桁数が増える不公平を是正しようという目的で、事業者事前登録制度が導入された。

 この制度は当然、競争事業者が存在する市場であってはじめて意味を持つものであるから、当初は、リセラーなど様々な事業者がひしめくようになった長距離通信市場だけに適用されてきた。しかし、市内通信市場でもテレポートなど様々な競争的市内事業者(CLECs)が出現し始めたため、現在では市内でも登録が行われている。

■「スラミング」という不正行為

 米国では、1992年の国勢調査によれば、最低一年間以上の期間に電話サービスを提供している企業数は3,497となっていたが、最近のFCC統計では、「州をまたがる通信を提供する事業者数」だけでも4,144もあるとされている。これには、市内交換事業者、局間通信(長距離通信)事業者、競争的アクセス事業者(CAPs)、取扱者通話事業者、公衆電話事業者、リセラー等各種多様な事業者が含まれている。

 こうした多種多数の事業者が競争しているため、顧客が登録した事業者を、顧客に無断で勝手に変更する(これを「スラミング」という。)不正な事業者が横行し、悪質な高額料金を請求されるという例があとをたたなかった。FCCは、利用者から寄せられる多数のスラミング被害の苦情をうけて、早くからスラミング対策をとってきたが、実効があがらず、ベル系地域電話会社のベルアトランティックは1999年3月の一ヶ月間で、35,556件、SBCも1999年4月に23,484件もの苦情を受付け、FCC自体も1999年4月に1,355件もの苦情を受付けたという。スプリントなどの名のとおった大手事業者もスラミングで苦情の対象となったことがある。

■1996年電気通信法の対応策

 1996年電気通信法は増加するスラミング防止のため、1934年通信法に新たに第258条 を設けた。 すなわち、 「(a項)いかなる電気通信事業者も、加入者が選択した(市内)電話交換サービスまたは長距離通信サービスの事業者の変更については、FCCが別途定める確認手続に沿ってでなければ、これを提示したり、実行したりしてはならない。本条の規定は、州内サービスに関して、州当局が同様の措置をとることを制約するものではない。 (b項)前項の確認手続に違反した電気通信事業者、および加入者から電話交換サービスまたは長距離通信サービスの料金を徴収した電気通信事業者は、かかる違反後に加入者から徴収したすべての料金と同額について、FCCが定める手続にのっとり加入者が選択した本来の事業者に支払う義務がある。本条による救済は、法律に基づく他の救済に上積みされるものである。」 とした。

FCCの対応策

 FCCは1999年4月に変更確認手続の規則を制定し、スラミング事業者から送金をうけた「加入者が選択した本来の事業者」は、加入者がスラミングにより本来払うべきではなかった余分な金額を加入者に返済することとしたが、スラミングがいっこうに下火にならず、むしろ競争の激化に伴って増加する傾向にあった。また、改正1934年通信法の規定にあいまいな部分があったこともあり、一部の事業者からFCCの規則に対する異議申立てがあり、ワシントンの連邦控訴裁判所が一部実施差止めを行った。このため、FCCは2000年4月に規則を一部改正し、次のように改めた。

 すなわち、

  • スラミングを察知した加入者は、その日から30日間、サービス料金を支払わないでよく、それ以降の料金は自己が選択している本来の事業者に従前どおりの料金を支払えばよい。
  • スラミングを行った不正事業者は、本来の事業者に対し、スラミングで加入者から収納した料金額の150%を支払わねばならない。
  • 本来の事業者は、そのうち50%を加入者に返済する。
  • これまでは長距離通信事業者にかぎっていたスラミング手続を市内事業者にも拡大適用する。
  • 34の州ではFCCの新規則をそのまま受け入れているので、苦情申立ては州の公益事業委員会に。残余の州については消費者は直接FCC窓口に。

という内容であり、スラミングによるうまみどころか、罰金的な50%を付加することとした。実際に苦情件数はその後1/3程度に減少し、実効が認められている。このほか、スラミングの多い事業者にはFCCが行政罰金を課し、その事実を公示するなどの措置も平行してとられている。

■わが国では?

  わが国では果たしてどうなっていくのか?

 日本では、リセラーなどの再販事業者数も米国に比し格段に少なく、米国のようにスラミングが燎原の火のようにひろがるとは考えられない。それにわが国では料金値下げ戦争が勃発して、顧客の奪い合いが始まったが、米国では消費者むけの長距離通信事業はサチュレートしお荷物扱いのムードであり、長年の料金戦争につかれた大手事業者三社(AT&T、MCIワールドコム、スプリント)が住宅向けの長距離通信では休戦を協定するなど、まったく事情を異にしている。

 しかし、こうした面で日本の数年先を走っている米国での事情は、他山の石として十分にフォローし、学ぶべき教訓は活かし、予防すべきものは措置していくべきであろう。

寄稿 木村 寛治
編集室宛>nl@icr.co.jp
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